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戦局を変える一手

「なぜ、私がここで待ち受けていたと思う?」


マルルが、俯いた状態で意味深なことをつぶやいた。アウルは首をひねるが、その瞬間だった。シュルリ、とかすかな音が背後からしたのは。カレハが顔を青ざめる。その顔は、信じられないものを聞いたと言わんばかりの顔だ。皆が一斉に後ろを振り向く。


「〈ヴータリティット〉!?なぜここに……!」

「いや、ここに誰も入ってこないなんて一言も言われていない……仕組まれた!」


その〈ヴータリティット〉は、細長いシルエットをしていた。全体の大きさ……太さは中肉中背であるユウセイを優に飲み込めるほどの太さだ。舌をチロチロと出して、縦に開いた瞳孔でこちらを睥睨する。そう、ここに闖入してきたのは、蛇だった。


「シャアアア……」

「まさか、挟撃が狙いか……!?」

「そうかもしれない、わねぇ!!」


突然の闖入者に、エーゲンラフト組が警戒感を顕に言葉を零す。

マルルは異型の脚に力を溜めて、一気に跳躍する。

スタッと華麗に着地して、蛇型〈ヴータリティット〉を愛おしそうに撫でる。


「よく来たわね……やってあげなさい!」

「シャアアアアアアアアアアッ!」


威嚇するかのように嬌声を放って、蛇が這いずる。その巨体だ、体当たりをされるだけで致命傷になりかねないだろう。全員が最大限の警戒を払いながら、その蛇へと近づく。先制攻撃は、ちょうど蛇型〈ヴータリティット〉の正面に居た、カレハだ。


「邪魔しないでくれるかしらね……!」


カレハも既に臨戦態勢、いつでも飛び出せるように腰を低く落としている。蛇型〈ヴータリティット〉は凄まじい勢いまでに加速しながら這いずる。

蛇が口腔を開いた。そこには、気泡を放つ紫色の液体が溜まっている。


「気をつけろ!多分蛇ってことは────!」


ユウセイが警告を叫ぼうとする。だが、言い切らない内に攻撃が始まった。

蛇は舌を器用に動かして、口腔から紫色の液体を撒き散らす。ボコボコと泡が立つソレに言いようのない危機感を覚えてカレハは咄嗟に飛のく。そして床に着液した紫色は、ジュウジュウという焼けるような音を放っている。その焼けるような音は、酸に特有なものでもある。

ユウセイはその光景を視て、確信する。元の世界(ちきゅう)の蛇と同様に、酸の混じった毒を使うということに。


「やっぱり毒、または酸を使うか……ここまで強力な毒だとは思ってなかったがな」

「危ないじゃないの!」


毒の弾幕をやり過ごしたカレハは飛び出して、お返しとばかりに蛇の横顔にフルスイングの拳を一発叩き込んだ。だが、その会心は鈍い音と痛みをカレハに返す。


「硬い!?」

「素手でこの子の鱗を貫けるとでも?」


〈ヴータリティット〉は鱗を殴られたこと自体は感じたのか、瞳を眇めて、カレハを文字通り蛇睨みした。獣特有の、無機質でありながらも興味はあると言った瞳に、カレハはどう動こうか一瞬、逡巡する。その刹那を縫って、蛇が動いた。細長い尾の先が霞んだかと思うと、カレハの脇腹に鈍い衝撃が襲いかかった。


「カッ……!?」


腹の横を抑えながら、カレハが崩れ落ちる。意識の外からの、急所への一撃。クリティカルヒットに、その蛇は満足したのか、別の獲物……エディアの方に向き直った。


「今度は私ですか……美味しくないですよ、【精土弾(クゲル・ボーデン)】!」


魔力が石畳を削り、ゴツゴツとした塊を生み出す。灰色のソレは、エディアの魔弾だ。即座に射出され、向けられた蛇の顔を撃ち抜く。ガツッ!という鈍い音が当たったということを示すが、果たして効いているか。


「フシャーッ……」


蛇は口を開くと、そこからお返しとばかりにその頬を膨らませて、毒酸液を貯蓄し始める。今度はカレハを狙ったときの散弾銃のようなものではない。溜められた毒酸液が、細く開けられた口から放射された。断続的に、まるでホースからとめどなく出しっぱなされる水のように、照射されている。


「今度はよく狙うってことですかね、ならこっちもそうしますよ!【瞬精光条(リヒトシュタイン)】!」

「────」


エディアの矮躯からとは思えないほど多量の魔力が放たれる。現実改変によってそこいらの光が一点に収束、瞬間魔法を完遂させる。光条が空を駆けて、吐かれている毒酸液を純粋なエネルギーによって押し返す。


「この勝負は、私に分がいいんですよ!」


エディアがそう言い切るのも無理はない。奴がああやって毒酸液を高圧洗浄機のごとく扱えるのは、口腔内に溜めた毒液のおかけであり、それが切れてこちらの魔力が切れなければ、十二分に勝算はあると言えよう。


「シャアッ!」


だが、仮想の魔獣(ヴータリティット)も無抵抗に殺されることなどあってはならない。全ての液を吐き切る勢いで、更に圧力を強化する。

ビシャビシャと飛び散る毒液を気にせず、光条によって紫のレーザーを防いでいく。

一際大きい毒塊が放たれたのを、光弾で防いだ。エディアは自慢げに胸を張って、笑みを浮かべる。


「人が相手じゃないのなら……本気で行けますね!【土光融合・隕閃(クゲル・メテオリット)】!」


エディアの優しくも苛烈な魔力が放たれる。世界を書き換えて、岩塊がひとりでに浮き上がった。そしてそれを、淡く瞬く光の粒が絡みつく。幻想的なそれは、勢いよく風を切って蛇を飛襲する。光の尾を曳いて、蛇の鼻っ柱をぶっ飛ばした。


「シャアアアアアッ!?」

「貫通力も威力も高いですよ、よく効くでしょう?」


痛みにもんどり打つ蛇を尻目に、さらにもう一発、岩が生成される。毒蛇は警戒感も顕にエディアを強く睨めつけると、口から毒の塊を吐き出した。

だが、放られた岩の光弾は、いともたやすく毒液を食い破って、面食らったままの蛇に再度会心の一撃(クリティカルヒット)。蛇は二度の着弾に腸を煮え繰り返させて、エディアを全力で叩きのめすと思ったようだ。その巨体をくねらせながら、魔法を放ち続けるエディアに迫る。


「エディア!」

「大丈夫ですよ」


思わずと言った様子でユウセイが叫ぶが、エディアは余裕の笑みを崩さない。

なぜならば。


「────よくもやってくれたわね、クソ蛇……一発ぶちのめしてやるわ、覚悟なさい」


蛇が這い寄るその後ろから、飛び出してくるものが居た。カレハだ。そして更に彼女を追うように、マルルが跳躍してきた。蛇が暴れている間は彼は手出しをしていないようだ。こちらの戦力を削ぐことと、協力しにくいことが理由であろうか。

ともかく、カレハが蛇の攻撃の衝撃から戻ったことで、蛇に対処できる人数が一人増えた。二対一、そしてエーゲン・ラフトのフルアタッカーでもある。

なればこそ、エディアが自信満々となるのも頷けるというわけだ。


「カレハさん、これを!【精土操作ボーデン・ヴェットリヴ】!」


エディアの魔力が削れた石畳のうちの一つを包んで、その形を飴細工のように加工していく。形状はシンプル、だが威力はバツグン。そんなものを生み出して、カレハへと投げつけた。


「正中線で真っ二つにしてあげる!」


軽くジャンプして、空中でひらりとキャッチしたカレハは、ソレ……岩から削り出した剣を大上段に構えた。

そして、勢いよく振り下ろす。風切り音が、蛇の体を切り裂いた。
















かに思えた。

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