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そして相対する

サーシャを倒してから、アウルたちの行軍速度は一層早くなった。使命感と、責任感。綯い交ぜになった気持ちに折り合いをつけながら、階層の奥へ奥へと進んでいく。

そしてついに、たどり着いた。


「やっと来たわね、ゴードーウィーン?」

「なんで伸ばすんだよ、姉貴」


広い空間だった。階層の中に多少部屋はあったものの、それもここまでではない。30メートル四方の正方形と言ったところだ。

そんな広間に、マルルはポツンと一人佇んでいた。待ち受けていたのか、その身体は既に異形と化している。背中から肋と肉で作り出した羽を広げ、右腕は筋肉がはちきれんばかりにブチブチと音を鳴らす。

静寂と空虚が支配するここに佇むその姿は、異形ながらも美しい、堕天使(ルシファー)と言っても過言ではない。


「なあ、姉貴。俺をどうして、裏切ったんだ?」


ゴドウィンが、静かに問いかける。その言葉で、マルルは俯いていた顔を上げた。顔に張り付いていたのは、笑み。口の端が大きく釣り上がった、三日月のような狂笑だ。


「裏切ってなんかないわ、貴方をちょっと試しただけ」

「試しただけ……?それだけで、ミーナを……」

「そう、そのミーナよ。貴方が予想以上に惚れ込んじゃったのよねぇ……全くもって、計画外だわ!」

「やっぱり、元から計画の内だったのか……」

「ねぇ、ゴドウィン。私を見てよ……私だけを愛してよ!!」


喋るうちに段々とヒートアップしてきたのか、その語りが大袈裟となっていく。顔は苦痛に歪んだような顔をしたかと思えば急に真顔になったり、無茶苦茶である。静寂を切り裂いて爆発するその熱病は、治ることは無い。


「貴方が愛せないなら、私が愛してあげる!私の愛をォ、受け取ってェ!!!」


既に、支離滅裂だ。多分、感情がごちゃ混ぜになっているのだろう。そんな中で、混乱する頭で考えた結果がゴドウィンを痛めつけることだったのか。それとも彼なりの愛情がそれでしかないのか。

彼の思考はもう辿ることはできない。だが、一つ言えることがある。

───────もはや、闘うことでしか彼らの決着はつかない、と。


「…………変わっちまった、か。本当にな。俺が、止めてやるよ。マルル・ドナウ!!」


ゴドウィンが、拳を力強く握りしめて、そう宣言した。そして。


「─────────いいや。俺達が、だ!」


アウルも、ゴドウィンと肩を並べて、覚悟を決めた。

マルルの顔に、狂っていて、だが確かに好戦的な意志を持った笑みが浮かべられる。

ゴドウィンの魔力が放たれた。この空間も、十分に湿度はある。


「【精氷結化(エシュターホン)】!!」


パキリパキリと、甲高くも澄んだ音色が響く。それは、ゴドウィンの魔力によって水が凍てつく音だ。

その氷が生まれている場所は、ゴドウィンの固く締められた拳だ。

みるみると青い結晶はその体積を増やし、とある形をなす。


「それは……」

「マルルがあれなら、俺もこれだろ」


巨大な拳だった。今現在の、肥大化した異形の腕たるマルルのソレと、殆ど同型の。氷であるが、その硬度はなかなかのものだ。確かに良い手段だろう。だが、そんな論理で飾り立てることなど野暮。

その氷拳が、生成し切る。


二人は同時に飛び出した。

ゴドウィンは、もちろん地面を勢いよく蹴飛ばしていく。

マルルは、その翼を大きくはためかせて飛び立つ。

不思議なことに、その二人が浮かべる笑みは、似ていた。


ゴドウィンが、マルルが、その異形の腕を、構える。


「「はあああああああああああああッッ!!!」」


振り抜かれた、2つの拳が。

互いの想いが、ぶつかりあったのだった。

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