意外な再会
「そういえば、この階層のどこにマルルが潜むような場所があるんだ?」
ユウセイが歩きながら、ふと思い出したように指を立てて聞いた。その声色はもう疑いの色は除去されていて、純粋な疑問……というよりは懸念に満ちていた。場所によっては、マルルに逃げられる可能性があるということを心配しているのだろう。
ゴドウィンはその懸念をすぐさま見抜いて、心配ないと断言した。
「この階層の転移陣から入り組んだ通路の奥に、大広間がある。そこが、俺たちの前の拠点だったんだ」
入り組んだ奥。しからば、転移陣に向かうにはこの通路を通らねばならない。だが、今のところエーゲン・ラフト一行とマルルが出会うことは無かった。つまり、逃げていないのだろう。ゴーレムが襲ってきたことがマルルの計画というのであれば、逆に迎え撃つ気すら起きているのかもしれない。
「ともかく、逃げられる心配はないってことだな」
「逆に、マルルなら用意周到に罠を張り巡らせてる可能性の方が高いな。さっきの俺との会話からして、ゴーレムをけしかけたのはマルルっぽいし」
不可思議なことだ。奴の音声が切れる最後の言葉は、「私自身がゴドウィンをボロボロにしてあげる」と言った。そしてその直後に振動とともにゴーレムたちが強襲してきた。まるでゴドウィンの言葉に従っているかのようで、本当に不思議でならない。〈ヴータリティット〉は、元になっている魔獣と殆ど同じ性質を持っている。つまりは、暴力的で人間に敵対的な気質であり、基本的には従えることなど不可能に近い。なのに、状況から鑑みればマルルはゴーレム型の〈ヴータリティット〉を従属させている。
なにかカラクリがありそうだ、とアウルは警戒段階を心の中で引き上げた。
するとその刹那。
「ぎゃああああああああああああ!!」
「た、助けっ!」
通路の奥から、人間の肉声による悲鳴と、ドタドタという慌ただしい足音が近づいてきた。一行は一様に眼を驚きで見開き、何事かと構えて警戒する。
石畳の曲がり角を走って現れたのは、どこかで見覚えのある男女3人組だった。その服はずたずたに引き裂かれていて、大きな痛手を貰って撤退しているところだろう。息も絶え絶えになりながら、こちらに駆けてくる。
迫る彼女らの顔を視て、やはり見覚えがあるとユウセイは思う。ユウセイは記憶の引き出しから必死こいて取り出して、なんとか思い出した。
「お前らは……!」
「貴方達……!」
どうやら相手方も思い出したようだ。そして、エディアが遅ればせながら気づいて、指を指す。
「入学ロワイヤルのときの、最後まで残ってた方々じゃないですか!」
「なんだ、知り合いか?」
「そうか、アウルたちが合流したのはルイズと闘ってたときか。なら知らないのも無理はないな」
ユウセイが、そう前置いて彼女らを紹介する。
「コイツらは、入学ロワイヤルで最後に残った一年の、最後の一組だ」
「…………ああ!あのときの、残りの一組か」
「こんな階層で出会うなんて奇遇ですわね。そっちもポイントを稼ぎにきたクチで?」
「いや……、まあ、それもある」
言葉を濁しながら、ユウセイが答える。実際、この階を初めて知ったのはポイント稼ぎのためなので、あながち間違いではないと思ったのだろう。ただ、今は目的が違う。
「なら、気をつけたほうが良いですわ。この先の通路には、トラップが仕掛けられていましたの」
「トラップ?それくらいなら普通にあるんじゃないか?」
「それが、とても凶悪な罠でしたのよ。具体的には言わないのですけど、とにかく気をつけておくんなまし」
「ありがとう、でも何でそんなアドバイスを?」
「フフ、同い年のよしみって奴ですわよ」
そうありがたい忠告をくれた彼女の顔はあくどそうにも純粋そうにも視える複雑なもので、ユウセイはそこから感情を汲み取れなかった。まあ、ここで嘘をついて陥れるメリットもあっちにはないはずだ。とりあえず参考程度に考えておこう、と心に決めるアウルとユウセイなのだった。
彼女らはとりあえずこの階層を出て回復に専念する、とアウルたちが歩いてきた道をたどって、転移陣へと向かった。
アウルたちもマルルをとっとととっちめてやろうと、先に進む。彼女らが言う、トラップがどのようなものなのか、という好奇心も多少入った感じで。
「凶悪なトラップ、ねえ……」
「気になるの?」
「ああ。凶悪と言っても種類があるだろ?それに、この塔に明確に罠が仕掛けられてる場所なんてあったか?」
言われてみて、気付く。この塔は、本来であれば迷宮要塞ではあるはずの、罠の類が仕掛けられていないということに。もちろんここの上の階層に山程あるということはあるだろうが、こんな下の階層に凶悪なトラップがいきなりあるとは考えにくいだろう。一年が多い下階部であれば、比較的優しい罠にして、罠の奇襲性を教える感じにしたいはずだ。
ならばこそ、彼女たちが口々に言っていた、凶悪なトラップ。それは、マルルが仕掛けたものだろう。
「それなら、さっさと除去しないと行けないだろ」
「除去?なんでよ………ああ、そういう配慮ね」
「今後彼女らの二の舞いにならないとは限らないしな、人が寄り付かないとはいえ」
ゴドウィンやユウセイもその会話で分かったようで、頷いて歩を進めた。しばらくもせず曲がり角にたどり着く。そこからゆっくり覗くと、通路の先にはグチョグチョとした肉塊が転がっていた。
「ッ……」
「これが、罠?」
あまりのえげつなさに皆が絶句する中、カレハだけはゆっくりとした足取りでその肉塊へと近づいていく。
前々から思っていたが、カレハの傷や血などのグロテスクなものへの耐性は少々高すぎる気がする。
カレハは近づいてしげしげと肉塊を観察して、そこから無造作にそれを掴もうと手を伸ばした。
だが、アウルの瞳は捉えた。その肉塊がかすかに動いたことを。その肉塊に、見覚えのある、魔力が充填したことを。
「カレハ、待っ………!!」
「え?」
カレハが掴んで持ち上げた瞬間、その肉塊は炸裂した。文字通りに、爆砕された。中に入っていたのか、小骨が放射されて、ビシャビシャと、半透明の液体がぶち撒けられたのだった。
2週間程お休みをいただきます!次回更新の予定は10/1の予定です




