いざゆかん、激闘へ
階層を襲った振動。それは、大量のナニカが地面を踏みしめる音だ。それは、その大量のナニカの重さに耐えきれない床が悲鳴をあげる音だ。
「マルル……!」
「ゴドウィン、突っ立ってるな!来るぞッ!」
アウルが警告を飛ばしたその刹那。まるで示し合わせたかのように、通路の先から音と振動が近づいてくる。視力の高いアウルでなくともわかる。あの灰色の洪水は、全てがゴーレム型〈ヴータリティット〉なのであろう。その歩きはゆったりとしているが、それが逆に不安感を煽る。あのまま迫られるだけで圧殺されるのは自明の理だ。そうなる前に、対処は必須。
「各個撃破、出来ればまとめて何体か!」
アウルは指示を出して、バッと後ろへ飛び退く。
みなの邪魔にならないように、という判断だ。
そして同瞬に、カレハが砲弾となる。後追いするのは、光と氷だった。
カレハが飛び膝蹴りを放つ。その一撃は、先頭のゴーレムのある一点を突き刺した。
「もう一体倒してるのよ、弱点は覚えて当然!」
蹴抜かれたゴーレムはその身体を震わせて、前に倒し板のように倒れる。ボロボロと崩壊する体は石として地面に転がった。そう、地面に転がるのだ。後続のゴーレムどもは進む、仲間が倒れても気にせずに。だが、鈍重なゴーレムの足に、崩れたゴーレムの身体が引っかかって、間抜けにずっこけた。最初のゴーレムの身体が崩れることで、天然のバリケードと成ったのである。
「はは、無様ね!」
倒れる滑稽な様子を笑いながら、カレハは倒れたゴーレムたちを一撃で、どんどん沈めていく。核の位置は完全に把握しきっていて、拳や蹴りを、ノールックで叩き込んでいた。
そして、後発の氷弾、光弾が炸裂する。鋭く、一点に研ぎ澄まされたそれは、後ろに詰まっているゴーレムの腹を貫通していく。まばゆい光を永続的に放つそれは、ゴーレムたちの肌である岩石の表面を焦がし、衝撃波で吹き飛ばす。
だがしかし、順調に見えたのは最初だけだった。
しばらくすると。
「数が多すぎるな……」
「それにこいつら硬いんですよ、もうかなり辛いです!」
魔法を連射し、弾幕のようにして近づけさせないようにしているエディアから、文句が飛んできた。確かに、カレハの一撃ならまだしも、魔法は大技を使わない限り一撃のダメージは少ない。一体倒すのに、5発ほど必要だ。それを数多やるなど、非効率の極みだ。高速の思考でそこまで決断して、アウルは歯ぎしりをする。
眼力を使えれば協力できるが、ゴーレムは生き物などではない。無生物に恐怖など、感じないのだ。
思考を回転させて、勝利の細い糸を紡いでいく。
(この局面、突破するには……)
「なあ、コイツラを全て倒す必要はないよな」
「……?まあ、そうでしかないな。マルルが目的なんだし」
ゴドウィンが、そう口を挿んだ。アウルは不思議に思いつつも首肯して、それがどうしたのかと聞き返す。
「俺の残存魔力全てを使えば、コイツらを全て凍らせられると思うんだ」
「なるほど、凍らせて、その上を通っていけばいいって話だな?だが……」
残存魔力を使い切るということは、その後に待つマルルとの決戦に参加できないということである。それでいいのか、と真剣な面持ちで問いかける。ゴドウィンは薄く自嘲するように笑んだ。
「お前らは、ミーナの敵を取らせてくれたんだ。それくらいの協力は惜しまんよ。それにマルルのことを殺したいわけじゃない。一発、会心の奴を一発だけ、殴りたいだけさ」
「……フ、分かった。それがお前のケジメってことか」
アウルは口許を三日月に歪めて、それからカレハとエディアの支援をしているユウセイを呼び戻す。
このあたりの連携は、もう日常茶飯事だ。
「どうした?」
「前に、ルイズたちと戦ったときのこと覚えてるか?」
「ああ。それが一体……」
「あの最後の一撃のためにかけた強化魔法を、ゴドウィンにかけてほしい」
「…………………なるほど。分かった」
ユウセイは何気ない感じでゴドウィンの肩を叩く。
「頼んだぜ、先輩。【情報付与】対象:ゴドウィン・コロラド 効果:最大魔力増加、魔力量倍化!」
ユウセイの猛々しい魔力のオーラが、ゴドウィンを包み込む。その魔力の異質さに、ゴドウィンが眼を瞠った。
「お前たち……いや、今は言うことじゃないな。ありがとう」
「俺もマルルのやつにはムカついているからな」
「さて、行くか。【精氷結化】!!」
驟雨と勘違いしてしまいそうなほど大量で強い、魔力が通路の奥へ向けて放射される。それら全てが、階層を満たす水分を凍らせて、ゴーレムたちの半身を戒める棺へと変換する。
ギギギ、と声にも聞こえるような音を漏らしてもがいているものの、脱出するにはそれなりの時間が必要なはずだ。
「ゴドウィン、どうだ?」
「ああ。お前らのお陰で魔力は少しだけ残った。これなら、マルルと闘えるはずだ」
「よし、とっとと行こうか」
かくして、ゴーレム型〈ヴータリティット〉の大群を封じ込められた。幸いにも、このゴーレムたちの身長はそこまで高くなく、通路の天井まで隙間はそれなりにあるのが見て取れる。あれくらいなら、カレハに飛んでいってもらう必要はないだろう。
そう考えながら、前に進んでいくアウルと横の皆だった。
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「どうやら、〈ヴータリティット〉たちは無力化されたようです」
「チッ、所詮魔獣は魔獣ということね。使えるものは使ってみようと思ったのが間違いかしら」
「まだ妨害はあるはずですよね」
「ええ。あれくらいで私のところに来ることができると思わないほうが良いわよ、ゴドウィン」
マルルは、いったい幾つの罠を用意しているのか。そして、どうやってゴーレムたちを操ったのか。
露知らないアウルたちの未来は、どうなるのだろうか。




