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Where is the Lost Man

「で、意気込むのはいいが……マルルの行き先は分かるのか?」


皮肉るように、ユウセイがそう訊く。事実声は不機嫌の色が入っていて、騙されたことを少しまだ根に持っているようだ。

ゴドウィンもそのわだかまりはあえて触れずに、真剣な面持ちで首肯した。


「いや、3年の付き合いだからな。マルルの行きそうなところは目星がついている。1()3()階層だ(・・・)


13階層。またしても、アウルたちはその階層の名前を耳に入れた。そこは、確かフィズが、ポイント稼ぎにオススメだと言っていた場所だ。なぜそのようなところにマルルが、と一瞬だけ思うが、すぐさま気付く。フィズは、こうも言ってはいなかったか。その階層はあまり生徒は寄り付かない、と。その事実を鑑みれば、マルルがその階層に良く行っていたということもとても良く理解できる。ゴドウィンを騙して陥れるような、脛に傷を持つタイプは人のいない場所を好むのだから。


「13階層って……」

「ああ。あの〈ヴータリティット〉の巣窟になっているところだ」

「なんでそこだって言い切れるんだ?」

「マルルは自分の計画がうまく行かないとそこの〈ヴータリティット〉を滅ぼしに滅ぼして苛立ちを発散させてるのさ」

「ストレス解消に他人が忌避するような場所を使う……相応の実力がないとできない芸当だな」


ユウセイがしみじみと呟いて、それを三人が沈黙で肯定した。

やはり、この塔のシステムもそれによって地位を得ているランカー共も、相応に化け物でしかないのだ。

…………なぜか自分たちのことを棚に上げた思考をしているエーゲン・ラフトの面々に微苦笑を浮かべつつ、ゴドウィンは俯いた。


「本当は俺だけで行きたかったんだが……」

「何言ってるんだ、乗りかかった船だろ。それに、マルルの雰囲気は間違いなく強者だった。ゴドウィンに見せていた力も手加減していたのかもしれない」


そう考えて見れば、アウルと行っていたあの問答は奴の願望を表していたようにも思える。ともかく、今はあれこれ論を推測するよりも本人に問いただしたほうが速いだろう。そうザッと考えて、一行は歩き出したのだった。


 @


「チッ!計画が台無しになったじゃない……!」


苛立ちに任せて、肥大化した腕を、まるで土がそのまま起き上がったようなゴーレム型〈ヴータリティット〉にぶつける。その身体は一撃でバラバラに土塊へと変換されて、幾分かストレスが消える。だが心の内にあるフラストレーションはそれだけで消えるはずがない。まだまだ周りにはストレス発散の的(ヴータリティット)がいる。殆ど文字通りのちぎっては投げを行っていると、隣にサーシャ・オビがやってきた。


「マルル様、落ち着いてください。まだまだ先は長いので、十分計画の修正は効くはずです」

「そういう問題じゃないわ!!ゴドウィンの因縁をわざわざ演出して、ミーナとかいうクソアマ泥棒猫の思い出を利用してまでやったのに徒労になったことが苛ついているのよ!!」


本来であれば、あの“名前持ち”〈ヴータリティット〉の“舜烈の賢猿(ヒヒ)”には、ゴドウィンは勝てないはずだった。なのに、ゴドウィンが連れてきたガキ共があろうことか協力して、賢猿を討ち滅ぼしてしまったのだ。想定外も想定外、予想だにしていない事態だ。このままでは、ゴドウィンを堕とすという欲望が───────────


「そうよ。あの1年のガキ共が手を貸さなければ、ゴドウィンは私に依存していたはずなのよ!つまり、あのガキ共が私の仇ね」


マルルは、私のゴドウィンを汚し、冒涜するなど言語道断、悪逆非道な行いだ、という周りから見れば的外れな、だがしかしランカーにとってはそれが正しい怒りを燃している。そんなマルルを、仕方ないな、と慈愛の眼差しで見守るのがサーシャ。サーシャはそのボロボロだった身体はもはや面影すらなく、いや、身体の傷どころの話ではない。その一年生に見えた矮躯は急激に成長したのか、170センチを超える長身の蠱惑的な女性の身体になっていた。その雰囲気は17かそこらの一年生には出せるはずもない。マルルが身体を変形させる魔法を操ることからすると、彼女の姿も顔も偽りだったのだろう。


「それで、どうするんですか?あの一年生共に復讐でもいたしましょうか?」

「それもいいわね……でも、多分ゴドウィンが私の方に来ると思うわ。それに、あのガキどももくっついてくるはずね」

「なぜそう……いえ、この質問は不躾でしたね。ゴドウィンさんの無意識な行動すら知り尽くしているマルル様ならゴドウィンさんの動きを予測することなど造作もないでしょうに」

「お世辞はよしなさい。この階層にいるということもゴドウィンはわかるはずね……ゴドウィン諸共、泣いて詫びるまで痛めつけ続ける罠を用意してあげるわ」


そう言いながら、土塊のゴーレムをぶっ叩いて粉砕するマルル。顔に浮かんでいる笑みは凶悪で、醜悪で、愛情に塗れていた。13階の、苔むした通路に狂笑が木霊する。


────最初は、ただの気にかかる後輩だった。自分の実力に自信を持って、だが内面に視える危うさがなんとも保護欲を唆って、何かとかまってしまったのだ。そして、世話をし続ける毎日の中で、ゴドウィンにとある欲求が湧いてきてしまったのだ。それは嗜虐欲(サディスティック)である。日々で擦り切れていくゴドウィンが、最大級に絶望したときにどのような顔を見せて、どのように泣くのか。自信があった頃の彼と比べることで、愉悦を得たかったのだ。


今もその衝動は収まらない、いや、更に燃え上がっている。たとえ狂っていると言われようとも、マルルはゴドウィンを愛し続ける。

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