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脱出、窮地より

「おい、ここに!」


ユウセイが手を上げて叫ぶ。不思議と、〈ヴータリティット〉たちのうめき声より通る叫びだった。アウルもエディアも、その言を聞いて弾かれたように走り出す。カレハが開けてくれた風穴を、ダッシュで通り抜けていった。


「今そっちに行くわ!」


カレハもそこいらにあるものを蹴飛ばして、自身をユウセイの元へと駆けつけさせる。遅ればせながら、後衛組二人も到着した。息せき切らしながらユウセイの方を見ると、確かに鍾乳石の影に隠れるように人一人以上入れるような洞があった。人為的に作られたものなのか、もともと拵えてあったものなのかは知らないが、兎に角人眼にも〈ヴータリティット〉の眼にもつかないような場所だ。その子がいるとしたらここだろう。


「よし、行くか」

「ちょっと待って。ここもいつ見つかるかわかんないわ。私が外で見張り兼囮をやる」

「いいのか?」

「もちろんよ」


いつもどおりの頼もしい背中にアウルたちは拳を突き合わせる。彼女は一つ頷いて、外へと歩を進めていった。アウル一行はその先の、闇に支配された洞穴へと入っていく。

洞窟は静かで、冷たい空気が外より充満していた。


「暗いですね、ここに逃げ込んだのは正解なのか……」


暗所に目が慣れたことで、内部の様子がわかってきた。洞窟のようになっているとはいえ奥はそこまで深くなく、そして奥に人の影が見えた。

ユウセイがその人影に慌てて近づき、方を叩いた。


「助けに来たぞ、辛かったろう」


できる限りの優しい声色でそれを伝えると、泣きじゃくっているその影が振り返った。出てきたのは、可愛らしいあどけない少女の泣き顔。


「裏切られたんだってな、今助けてやる。アウル」

「ああ」


ユウセイが彼女を抱き起こし、アウルに渡してくる。アウルは下に潜り込んで、肩を貸す姿勢だ。そのまま彼女を支えると、彼女がおもむろに口を開いた。


「なんで……なんで助けてくれるの?私は裏切られた、赤の他人だよ……?」

「赤の他人かなんかなんて関係ないだろ」


アウルがそう力強く断言すると、彼女は眼を見開いたようだった。その肩が小さく震える。


「関係あるよ、ここまで来るのに危なかったでしょう……?」

「確かに危険だったよ。でも、それが他人を見棄てていい理由になんてならない。それも、理不尽に虐げられた人をなんて」

「自分の命が惜しくないの!?」

「惜しいさ。でも、誰かを見殺しにして生き延びた自分の命なら、惜しくもない。ゴミ箱に丸めて捨ててやるよ」


彼女は黙りこくった。そして、貸している肩から伝わる泣きじゃくる声。アウルは聞こえていないふりをして、前を向いた。


「さて、脱出するか」

「ちょっと、カッコつけてないでくださいよ。ここから安全に出なきゃ救った意味もないですからね?」


エディアが悲痛な声で叫ぶ。傷病人を背負った状態であの中を突っ切るのは無理だということだろう。しかし、ただアウルは不敵に笑んだまま前に歩いていく。ユウセイはもう既に外に出ていて、カレハと一緒に警護、と言うよりかは戦闘をしているはずだ。


「まさか2人が全部倒しているとでも言いたいんですか?……聞こえませんか、まだ戦闘する音が。外は危険なんですよ」

「そうですよ、私なんて置いていってください」

「俺がいくら傷つこうともいいさ。それに、確かめたいこともある。君には来てもらわなければ困るんだ」

「確かめたいこと……?」


エディアには伝わらなかったようだが、彼女には伝わったらしい。その顔を強ばらせたが、暗がりで誰も気づかなかったようだ。それを無理やり消すため、彼女は名前を訊いた。


「あの、あなたたちの名前は……」

「ああ。俺たちは『エーゲン・ラフト』。1年生4人のパーティさ」

「1年……だったんですね。お強いのに」

「俺がアウル・リヴァーネム。そいでこっちが、」その先はエディアが引き継いだ。「エディアーナ・チョーコウです。もし今後会うことがあれば宜しくですね」

「…………私は、サーシャ・オビ。お二人と同じ1年生です。本当に助けていただいてありがとうございます」


サーシャの声は、泣き声も混じっていた先程よりもつっけんどんとした、壁を感じるものだった。

なにか不機嫌になることでもあったのだろうか、とエディアは考えたが、アウルはわざと無視して歩いていく。

しばらく歩いて、洞の外に出た。そこでは、カレハとユウセイが迫りくる羊型〈ヴータリティット〉の群れを、誘導して捌いていた。ちょうど、羊飼いがやるようなそれだ。特にカレハが上手い。まるで経験者のような熟達した動きに、ついアウルは訊いてしまった。


「カレハ、もしかしてお前の家族は牧場主だったのか?」

「…………まぁ似たようなものね。羊の誘導なら得意よ」


頼もしい、と軽く頷いて、カレハとユウセイが必死こいて誘導して作りあげた〈ヴータリティット〉の群れの間隙を、進んでいく。まるでモーゼの十戒のような。時々突進してくる〈ヴータリティット〉に関しては、腰と魔眼布を一緒に下ろして、奴らと眼と眼を合わせて、落としていく。飛んでくる飛び道具は、エディアが寸分違わぬ軌道で石を用いて撃ち落とす。エディアが心配したような、危険とは全く程遠いような攻略だった。

しかし。最後に問題がある。


「この壁をどうするかだな」

「カレハさんがいれば楽なんですけどね」


アウルは貸している肩とは逆の手で、何の気もなしにコンコンと壁を叩く。


その瞬間、階層全てが揺れているような莫大な衝撃が駆け抜けた。もちろんその壁もガラガラと音を立てて崩れていき、粉塵がもうもうと立ちこめる。

アウルとエディアの2人は咄嗟の判断で後ろに下がっており、巻き込まれの最悪の事故は避けられた。エディアは何が起きたのか分からず茫洋としていて、アウルはと言えば咄嗟にカレハの方を見た。こんなことをするのは、カレハか、それとも。

粉塵が晴れて、カレハの姿が見える。その姿はボロボロで、あられも無い姿だった。


「大丈夫か!?」

「ええ、何とか」

「今の振動はお前が……」

「やるわけないじゃない、自分も傷ついているのよ」

「そうだよな」


そして頷き、前を見た。

そこには、両手を広げて、高笑うゴドウィンが仁王立ちしていたのだった。


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