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事件の予感

「生き埋めになっているって……!?」


息も絶え絶えの男がアウルの肩を掴んでいった言葉に、全員が驚く。

この塔において、他人に助けを求めるということは稀有という言葉すら甘いほどない。どんなに強い相手に喧嘩をふっかけようとも自己責任であり、自身で片付けることだ。しかし、男が語るように、なんらかの外因によって危険に晒された場合は例外であり、基本的にその場にいる誰かに助けを求める暗黙の了解が有る。

ちなみに、生徒依頼(クエスト)は戦闘の助けではなくお使いなどが多いので、その不文律には抵触していない。


「ああ。11階層で、崩落が起こったんだ」

「崩落?何が崩落したんだ。まさか天井とでも言うのか?」


この塔、カムフトーム魔塔学院は、非常に歴史のある学院だ。人魔戦争から百年余り、その終結と同時に作られたのがこの学院なのだ。いわば、終戦の記念碑のような。

だがそれだけの時間が経っていても、この塔はなお堅牢だ。それはこの塔の材質が、この世界における最高硬度を誇る、アダマンタイトと黒鉄の合金であるが故。更にその上に、管理職らが『賢者の石』による純粋な魔力を借用して、防御を兼ねた耐久性増加の魔術を掛けているので、ほとんど破壊されることはないのだ。

つまり崩壊することは可能性的に低く、ユウセイが懐疑的な声を出したのも其の為だ。しかし男は首を振った。


「天井じゃない、お前らもしかして11階層に行ったことないのか?」

「すまない、行ったことはない」

「謝らんでいい、こっちも言葉が過ぎた。11階層は、鍾乳洞じみた場所だよ」

「なるほど、それが崩落したのか」

「それで、助けてくれるか?」


男の、絞り出した懇願の声。アウルたちは眼を合わせる必要も、ためらう素振りも全く無いままに、全員が頷いた。揃って頷いてくれたことに、男は安堵の表情を浮かべた。張り詰めていた精神の糸を、一時的に緩められてほっとした、という感じだ。


「それで、アンタの名前は?」

「ああ、俺の名前はゴドウィン。3年生だ」

「ゴドウィンさん、ですね。私たちは……」

「『エーゲン・ラフト』。1年生四人のパーティだ」

「今は1年の手でも助かる、本当にすまない。そしてありがとう」

「いえいえ、困っている人は見逃せないので」


そうして、ゴドウィンを含めた即席の5人パーティとして、エーゲン・ラフトの面々は動き出した。

勿論向かう先は11階層。転移陣に魔力が注がれ、視界が白一色へと染め上げられる。いつしか慣れきっていた熱波は、感じなくなっていた。代わりに感じるのは、肌を刺す軽い冷気。

視界が白から色を取り戻すと、そこは使われている材質は8階と全く同じで、しかし雰囲気が全く異なる場所だった。天井から垂れ下がるは巨人が使う槍の穂先のような鍾乳石。そこらの岩肌もゴツゴツとしていて、まさに鍾乳洞といえば、といった光景だ。冷たく感じるのは、どうやら地下水──地下ではないからただの水か──が流れていて、そのせせらぎの音と見目から、より空間が冷たいと感じるのだろうか。

ともかく、女子連中はこの光景に眼を奪われ、しばらく忘我の状態になった。


「綺麗……」

「いいわね、ここ。足場が一杯あるわ」

「鍾乳石を足場っていうのやめろ。雰囲気も景色もぶち壊れるやん」


急にフィズのような(おおさかべん)口調でツッコんでくるユウセイはさておいて、アウルはその布の下の鋭い瞳をさらに細める。違和感を感じたからだ。その違和感は、この塔においては大きな手がかりになる。何とか言語化しようと思索を広げて、思い至る。


「この階……〈ヴータリティット〉がいない?」

「確かに。音が聞こえないわね」

「カレハさんの聴力でそれ……本当にいなさそうですね」

「……いや。この塔に〈ヴータリティット〉が湧かない階なんてない」


ゴドウィンが、3年らしい経験則から首を横に振った。そしてそのまま首を捻る。何故、〈ヴータリティット〉が居ないのか、そういった表情だ。


「おかしい。俺たちが逃げてきた時には、大量の〈ヴータリティット〉がいたはず」

「誰かが倒し尽くしたとか?」

「有りうる、がそんな実力がある奴はもっと上の階に行くはずだ。こんなポイントの収穫が良くない場所に来るはずがない」


曰く、この場所は大量に耐久性の高い〈ヴータリティット〉が生産されるのだとか。鍾乳石がそこらから生える足場の悪さもあって、あまり好まれないのだそうだ。

つまりは、故意的に〈ヴータリティット〉を移動させている何者かがいる、という訳だ。そんじょそこらの実力で行えることではないから、犯人が相当なポイントを持っているだろうことは容易に予想がつく。


「まあいい、それよりも生き埋めになったメンバーの方だ。もしかしたら、そっちの方に〈ヴータリティット〉が集められているだけかもしれない」

「確かに。崩落したこの階に異変が起きているというのは、それすなわち2つの間に関連性があるかもしれないということだしな」

「それで、崩落した場所はどこ?」

「ああ、こっちだ」


ゴドウィンが右手を上げて先導する。その背中は焦りに揺れていて、本当にパーティメンバーを心配しているようだ。カツカツというブーツと石の協奏曲を奏でながら、5人は進む。進む道中にすら、人の影どころか〈ヴータリティット〉にすら出会わない。まるで、この世界に5人だけになってしまったかのようだ。


「おかしいですね……」

「って、多分ここか」

「そうだ」


そこに鎮座しているのは、ほとんど壁と言っていいほどにうず高く積み重なっている鍾乳石の瓦礫だった。見上げれば天井まで届くほどではないものの、カレハの脚力ですら容易に飛び越えることのできない高さだ。徐ろに近づいたエディアが拳でコンコンと叩く。それだけで手が痛くなったようでエディアは手をプルプルと振りながらこちらを向いた。


「いや、とても硬いですよ、これ。なんなら、衝撃が帰ってきているような……」

「避けろエディア!!」

「ッ!?」


エディアはその叫び声に咄嗟に反応して、床をゴロゴロと転がった。そして転がった数瞬後、エディアが立っていた場所に衝撃が落ちる。ドゴンッッ!!!という凄まじい音とともに、鍾乳洞の床が爆砕された。

アウルは翔んでくる地面の破片を難なく回避しながら、それを成した犯人を睨みつける。


「〈ヴータリティット〉……擬態していたのか!」


鍾乳石の壁が動いた。否、鍾乳石の壁に張り付いていた、鉱石を背にする〈ヴータリティット〉が動いたのだ。それは、地上の生物で言えば、トカゲに似た形状をしている。瞳孔は縦に割れていて、爬虫類的な瞳でこちらをアウルと同様に睥睨しているソイツは、空間を震わせる名状しがたい叫声を上げた。


「ギャガガアアアアアアアッ!!」

「────戦いがいの有る相手で頼むわよ、石トカゲ!!」


カレハが先陣を切って、地面を砕きながら飛び上がったのだった。

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