誰っすか、マジで
「第6位……??」
「そうだとも。なにか?」
「すみませんが、急すぎますよ。急に現れて、話しかけて、第6位を自称して信用しろと?」
無理がありすぎる話だろう。仮にこの女が6位だったとして、なぜ話しかけてくるのか。鍛冶の話をしていただけなのに、なぜそんなにも食いつくのか。分からないことだらけで、大混乱だ。
ただその混乱を、何故か眼の前の女は疑っているのだと確信したらしい。わかったような笑みで、手をちょいちょいと動かした。
「あっ、さては疑ってるな……オイラの鍛冶の腕を」
「いや、そっちじゃないですよ!?」
「私たちが疑ってるのは、アンタの素性のほうよ!?」
全くの見当違いの解釈に、思わずツッコんでしまったエディア&カレハのコンビに、違ったのかと彼女は口を尖らせた。なんというか、豪放磊落というか泰然自若と言うか……と、ユウセイは勝手に思ったのだった。
「オイラの素性、っていうんなら、直接見てもらったほうが速いか。それに、鍛冶の話んなら鍛冶場でやるべき」
「なにか?」
「うんにゃ、信用してくれねぇのは山々なんだが……とりあえず着いてきてくれるか」
ウィーナは振り返り、こちらに来いと手招きした。ボソリと呟かれた言葉からして、彼女の鍛冶場へと連れていくつもりなのだろう。そこまで言うのなら、とユウセイは押しに弱い日本人らしく思う。アウルも損得勘定をし終えたようで、眼線を向ければ首肯した。
「とりあえず、ついて行くか」
「……そうですね。話だけならまぁ……」
「おし、場所は8階層だ」
人混みをかき分け……ることなく(多分理由は変人がいっぱい集まっているからだろう、特にアウルとウィーナ)、1階の転移陣へと辿り着いた。
転移陣に乗り、8階へと跳ぶ。
先導されて、カムフトームの8階へとアウルたちは踏み入れた。その瞬間、襲いかかったのは、熱波だった。何処か感じたことのあるような、懐かしさも有るその感覚に、アウルたちは咄嗟に身構える。
ただその様子を見て、ウィーナは苦笑した。
「ハハ、警戒しなくていい。これは攻撃じゃない、機構だよ」
───カムフトーム魔塔学院は、1階層ごとにその様相を大きく変える。迷宮要塞も同様の性質を持っており、極寒の大地の次の階層が日出る砂漠ということもあるくらいだ。これが迷宮要塞の迷宮たる所以であり、要塞たる所以であるのだ。然らば、その迷宮に潜る者を育成するここで再現するのは、道理と言ったところか。
この階層は、どうやら溶岩が噴出する火口を模したものらしい。どっかの第4位がやってきた熱波を、より濃密に、断続的に感じるような暑さだ。壁や床は剥き出しの岩肌で、所々グツグツと煮えたぎる溶岩が走っている。
「なんでこんな暑いところに?」
「そりゃお前、鍛冶師なんだから熱と岩は必要だろ」
「……」
あまりにも当たり前に即答したウィーナに、エディアは押し黙る。
その瞬間、岩の影から、何かが飛び出してきた。その正体を、眼敏くアウルは看破する。
「〈ヴータリティット〉!蛇型!」
「了解!」
それはかなりの巨体を誇る蛇のような形状をした〈ヴータリティット〉だった。舌をチロチロとだして、熱を帯びた吐息をゆっくりと吐いている。とぐろを巻き、値踏みをするような瞳でこちらを文字通り蛇睨みする。
熱波にも負けじと、カレハが飛び出そうとした。しかし、ウィーナが右手でそれを制する。
その顔は、ルイズやシュウが浮かべる狂気的なそれと全く同質だった。
口の端の歪みを隠そうともせず、ウィーナが一歩前に出た。
「どうせならオイラの実力を見てってくれや。第6位ってことを証明してやらぁよ」
「一人で大丈夫なんですか?」
「おうともよ」
そう言って、腰に下げている布袋に手を突っ込み、取り出す。取り出したものは、握りこぶしより少し小さいくらいの石だった。まさか俺と同じ攻撃を、とユウセイは思うが、流石に違うだろう。
彼女は取り出した石を左手で力強く握りしめる。魔力が滾り、左手が淡く輝いた。
「【複製具】音位階武具:レ:||」
突き出した左手に右拳を合わせ、まるで鞘から抜剣するかのように右手をスライドさせていき、そして引き抜く。その手には、鍛え上げられた一本の剣が、握られていた。
ぬめるような刃の光沢に、相対する蛇をして一筋の恐怖を持ったようだ。その巨体を這わせ、突撃を敢行してくる。
「お前さんから向かってくれるとはねえ。やりやすい、よッ!!」
構え、振り抜かれる。その一閃は、あまりに自然であまりに巧みだった。何も反応できやしなかった蛇はその顔を上下に分かたれ、光の粒と消える。いかに、かの刃の切れ味が鋭かったのかが伺えるだろう。
彼女は作り出した剣をサラリと撫でて、愛おしそうに見つめる。
「ありがとう」
そう呟かれると、その剣は元の岩へと戻ってしまった。
アウルたちは一瞬の裡のその出来事に、驚愕と感嘆を隠しきれない。あの巨体の〈ヴータリティット〉を、一撃で殺したのか、と。その魔法はなんなのか、と。
このレベルの光景を見せられては、もう疑う余地もないだろう。彼女……ウィーナ・アマゾンは正真正銘の化け物、第6位であるということに。
「で、わかったろ?」
「ああ、勿論。貴女は本物の化け物だ、尊敬するよ」
アウルがエーゲンラフト全員の意見を代弁すると、ウィーナは満足そうに頷いた。そしてまた歩き出す。
ついてこい、ということだろうに、皆唯々諾々と従った。
灼熱の気温に耐えながら歩いていく。道中に生徒の姿はほとんどなく、ここはポイント稼ぎにはあまり向いていないということだろうか。襲いかかってくるのは塔の機構だけであり、順調な旅路だった。
「ランカーってことは、やっぱり決闘をたくさんしているの?」
「実はオイラはそんなに戦闘が得意じゃないんよ、特に対人戦は」
「え、じゃあどうやってランキングに乗るレベルまでポイントを稼いだのですか?」
「ふふ、それはナイショだ……って言いたいところだが、多分すぐ分かるさ」
「どういうことだ……」
そう雑談を挟みながら歩くこと10分程度、とある岩場までやってきた。
そこには、場違いなような、鉄の両開きの扉がくくりつけられていた。
どう見てもそこが工房です、と言わんばかりの光景に、エーゲンラフト組は絶句する。塔の中に、このような部屋を作っていいのか、と。私的に改造は可能なのだろうか。
エディアが絶句から立ち直り、ウィーナに問い詰める。
「塔の中に、部屋を作っていいんですか!?」
「ああ、言われてなかったのか。このカムフトーム魔塔学院は、ポイントがあるだろ?そのポイントを使えば、塔の中にこうやって拠点を作ることが出来るのさ」
「そうだったのか……」
眼から鱗の情報に、アウルはちょっと怒りを覚えた。そんな事ができるのなら、拠点を作り得ではないか、と隠されていたことに対してのだ。
ウィーナと一行は何の気もなく扉を開けて中に入る。
そこには、一人の男が佇んでいた。
その男が気軽に手を上げて、歓迎する。
「よ、おかえり」
「まーーーーーーたアンタかッッ!!」
怒声が、8階層を響き揺らしたのだった。




