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バリン、とどこか間の抜けた音が魔法のバリアから鳴り響く。

エイナはその音を聴いて、背筋に悪寒が走った。まさかそんなことが。私たちの絶対の合わせ技が、と。

ゆっくりと振り向く。そこには、割れて砕けたバリアから毒のガスが漏れだしている。破壊の繭から、成虫としてシュウが生まれ落ちる。


「ふぅぅぅぅ……」

「な、なんで……生きてるんですの!?」

「オデの毒が聞いてないべ!?」

「ハッ、毒なんてチャチな物がランカーに効くとでも?」


言われても、納得できるものではないだろう。数分近く、毒で満ち満ちていて密閉されたバリアの中に閉じ込めたのだ。メンバー自慢ではないが、ボーゲックの毒は並大抵の濃度ではない。吸い込むだけで致命傷、ましてや直接触れるなど肌が爛れて最悪焼け死ぬレベルだ。

自己治癒を掛け続けて、やっとこさ生き延びれるだろうが……。彼の身体は服が溶けているものの、その素肌は傷一つない。手元に持っていたクロスボウが消えていることから、毒が効力を失っていたということはあり得ないはずだ。


「まさか、毒無効……でも、そんな限定的なスキルなわけないですわよね」

「ああ、言わねえけどな。さて、勝負はまだついていない」

「そうね。貴方がワタクシたちの攻撃を受けきれたのなら、必然戦いは続行となりますわね」

「その通りd」


シュウは崩れ去ったクロスボウの柄をそこいらにポイと捨て去り、懐から小刀を取り出した。暗殺の名を冠する女帝を相方に持っているのだ、暗器の一つや二つ隠していても何ら不思議ではなかろう。

後ろから二人が飛び出そうとするのをエイナは手で抑えて、笑いながら男に話しかける。


「貴方の目的はワタクシなのでしょう」

「そうだ、俺を騙したこと……赦すまじ!」

「であれば、最後は一騎打ちと行くのが道理でなくって?」

「フッ、潔い女だな、そういうところは、好きだぜ。潔くはあっても清くはねえがな」

「上手くないですわよ、それ」

「言うじゃねえかッ!!」


瞬間、鏡合わせのようにシュウとエイナが飛び出す。その手には、どちらもキラリと閃く刃物特有の鈍い光。エイナは左手のムーンナイフを投擲、さらに右手のムーンナイフをその豊満な胸の前に構える。

たおやかな手から放たれた三日月状の刃が、回転しながらシュウに迫る。シュウはその風切り音が肉薄する刹那、飛び上がって回避する。その動きはどこか必至で、ヤツの魔法と思しき「確率操作」の感はまったくなかった。


「確率操作は使わないのです?舐めていらっしゃるの!?」

「ハッ、そっちこそ風の魔法を使ってないじゃないか」

「どうやら魔力の状態は一緒らしいですわね!」


ガキン!!と二人の武器が激突、そのまま鍔迫り合いへと突入する。


「なぜそんなにワタクシのことが許せないんですの!?そも、初対面ですよね!?」

「女に対面した回数は関係ない、俺が見初めるか否かだけだ!」

「そういうの、理不尽っていうんですのよ!!」


エイナは怒りの言葉とともに、ムーンナイフを振り下ろす。エイナは生まれが高貴。剣術など習っていないと思いきや、子供の頃わりかしアグレッシヴな方でそれを親も容認していたので、心得はかなりある。事実剣閃は真っすぐで力を適度に入れた、きれいでお手本通りのフォームだった。

だが、そのお手本通りが通じないのがこの『最強のカムフトーム』。


「お真面目過ぎて涙が出るなッ!甘い!」


小刀を斜めに構えて、エイナの振り下ろしを受け流すシュウ。その様は堂に入っていて、シュウもなにかの武術を修めていたことは間違いない。受け流されて姿勢が崩れたエイナの身体に、鋭い拳が突き刺さる。


「カハッ……」

「俺に近距離戦(インファイト)を挑むとは、馬鹿め!俺は剣術だけなんて言わないからなッ!」



更にシュウは深く息を吐き、吸う。功と呼ばれる、太極拳の基本だ。そのまま回し蹴りへと繋がり、エイナの横腹にクリーンヒット。エイナはその衝撃に、地面を転げ回った。


「エイナ様!」

「助けに……ッ!」

「お待ちなさい!まだ戦えますわ!」


2人のお供がまたも咄嗟に飛び出そうとするが、エイナはそれを鋭い叫びで止める。傷だらけになっていても、その眼光は全く死んでいない。いや、逆に研ぎ澄まされている。

シュウはその顔を見て、ニィ、と顔を歪めた。


「いい顔するじゃねぇか……尚更惜しいぜ」

「だからって弛めるわけはなくって?」

「無論。お前は絶対に殺すからな」


そしてまた、弾かれたように飛び出す。小刀が閃き、エイナも自然な動作をもって円月刃で受け止めた。そして始まる、乱撃戦。

シュウの小太刀が女の柔肌を切り裂く。エイナのムーンナイフが男の肩口を抉る。一撃を入れては入れられ、一進一退の激戦だった。

エイナもシュウも、剣術だけで言えばほぼ拮抗している。剣術だけなら、と言う通り、徒手の武術を体得しているシュウの方が必然有利であり、事実手傷を多く負っているのはエイナだ。


「いい加減、諦めて死ねえッ!!」

「嫌ですわッ!!」


ガギン!という音を残して2人とも距離を取る。ジリジリと、横ずさりしながら互いに隙を探る。張り詰めた緊張感の中、エイナは起死回生の一手を思い付いた。それには、位置取りが重要だ。


「どうしたんですの、殺すと言っていたのは?」

「ハッ、分かって言ってる癖に……いいぜ、そこまで言うのなら、トドメを刺してやる。本来ならジワジワ殺したかったが、もう詮無いことだ」

「覚悟は決まりましたの?ではッ!」


均衡を破り、駆け出した。互いにこれが最後になることはもはや自明。2人はその顔の笑みが取れず、瞳は高揚に昂る。

先手を取ったのはシュウだ。男子と女子の、足の長さや筋力の違いによるものだろう。

小太刀を逆手に持ち、腰を捻って切り裂かんとする構え。全身をバネに、駆動してエイナに切りかかる。エイナはその手の円月刃を横にして、切りかかる刃と守る刃を合わせる形だ。


「そこまで言っておいて、受け身じゃねぇか!弱気だなッ!!」

「本当に弱気かどうか、試してくださいまし!!」


カキンと小太刀を受け止めたエイナは、精一杯の力を込めて、強く地面を蹴った。いや、地面ではない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()床を踏み抜く要領で、端っこを踏まれたムーンナイフは、勢い良く逆の端が上がった。半ば不意打ちに近い、というかもろ不意打ちにシュウは驚きで身体を固めてしまった。


「なっ!?」

「今!!」


持ち上がった円月刃をサッと手に取り、二本の扇を持つかのようにエイナは構えた。そこからは、もはや拮抗はない。

まるで舞を踊るかのような流麗な体捌きに、付随する自然な刃撃。さしものシュウも防ぐに手一杯で、押し込まれていく。


「貴様ァ!!」

「ワタクシはテラエイナですわよ!覚えておくんなましッ!!」


ただ、相手もランカーだ。そのまま押し切ろうとするエイナを、正確に小刀を使って捌いていく。しかし手数の差は埋め難く、右を捌いても左、左をとっても右と傷を負わせられる。

まずい、このままでは負ける、と思ったのだろう。シュウは一気呵成に攻める姿勢へと転じる。

互いに苛烈な攻撃を加え、加え、加えて。もはや二人の視界には互いの眼光しかない。

ボルテージが上がる。攻撃速度も上がる。

関係ない、関係ない。恨みつらみなど、もはや関係ない。

闘争心が、『最強』を名に冠する学院の一角で鎬を削り合う。

二人はほぼ同時に、溜めの構えを取った。


「「ハアアアアアアアアアッ!!」」


そして。振り抜かれた刃は。───────シュウの胸板を切り裂き、鮮血を飛び散らせたのだった。















だが、そのまま立ちすくむエイナは、フラリと倒れた。


「カハッ……、強かったぞ、テラエイナ……」


彼女の肩を叩く。勝者たるシュウは、初めて、晴れやかな気持ちで女を見ることができた。そして満足そうに、倒れ伏したのだった。

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