魔力は踊り、世界を塗り替える
魔力はすぐさま熱を操る彼女の性質によって、熱波に変換される。
「気づいていないとでモ?そんな見え透いた罠なんテ、逆に利用されるだけヨ」
「フッ、これだけか?」
アウルはニィと嘲笑う。まるで、完璧な回答と提出された回答に綻びを見つけた先生のような。
恐ろしいほどの勢いで迫りくる熱波はアウルを焼き尽くさんとしているが、アウルはそれをくぐり抜けた。紙一重という言葉がこれ程似合う瞬間はない、とユウセイはその等速の瞳で思うほどの精密さである。アウルは元来より動体視力の異常性を持ち合わせていた、それは巨人と麒麟との戦いからもわかる。そしてそれに、レスポンス性の高い神経と過剰なまでに強化された脚力。合わさるとどうなるか。それが眼前の光景なのである。
「遅い、避けれる、これもッ!」
「ナ、何なノ、この男ハ!?」
連続で放たれる炎弾や熱波の間にある唯一の正解を手繰り寄せ続ける、ある種気持ち悪いまでの回避軌道をしながら近づくアウル。もちろん眼を合わせた瞬間致命的な隙ができる、絶死の組み合わせだ。
「アウル、やりなさい!」
「任せとけ」
強化された脚力ならば、数秒もすればルイズに肉薄できる。そう踏んだアウルは、更にギアを上げて走り出す。ルイズはその近づいてくる脅威に対処しなければならないが、カレハが視線を強制的に固定させる。
このままではやられる、と判断したのだろう。アウルに襲いかかった魔力よりも強く、多く、濃い波動が放たれた。エディアは、一端の魔法を主体にする者としてその魔力のデタラメさに眼を剥いた。エディア自身魔力量は多い方ではあるが、そのエディアが圧倒されるほど膨大なのだ。いよいよ第4位としての実力を隠す気がなくなったのか。
「あんまり私を舐めないで貰えるかしラ!燃え尽きなさイ!!」
その尽くが熱波、もしくは紅蓮に猛る炎へと変貌する。カレハもこれにはたまらず距離を取り、アウルも突撃を停止しなければならなかった。だが、それで終わることがないのが”暗殺姫”。その熱波や炎はのたくる蛇のような軌道で、4人に均等に襲いかかる。
「俺もかよ!」
「盟友もに決まっているじゃなイ!」
「ユウセイさんは下がってて!【精土操作】!!」
エディアが熱波からアウルを男らしく守るように、手で制す。そしてルイズとはまた異なる、繊細で優しい魔力がエディアの矮躯から放出される。それは地面へと沈み込み、土を勢いよく、シャッターを閉じるようにせり上げた。
「熱ならこれでどうですか!」
「フ、やるわネ。盟友のパーティメンバーとしては認めたくないけド。でも、甘いわヨ……」
「不味い、エディア!」
「どうしたんですか!?」
「熱は物体の裏に回り込める!」
「やっぱり地球人には伝わるカ」
瞬間、空間の気温が一気に引き上がった。茹だるような熱に、身体が本能的に汗をダラダラと出させてくる。何の効果が、ただ暑いことが不快だという以外実害はないのでは、と思うかも知れない。しかしそれは違う。戦闘中に暑いと容赦なく身体の中の水分を使い果たしてしまい、最悪脱水症状となって戦闘関係のない所で倒れてしまうのだ。また滴る汗は動けば顔を流れて、ひどく集中を削ぐ。なかなかにいやらしい戦術と言えるだろう。
「サ、ジリジリと消耗していくカ、壁を解いて一瞬で燃えるカ、どっちがいいかしラ?」
「3、壁を解かずにこの距離からお前を倒す、だ!【情報付与】対象:手の中の石 効果:秒速400メートルで射出!!」
魔力は踊り、石の「静止している」という情報を「高速で射出された」という情報に書き換える。これによって慣性の法則が世界に適用されているので、石が銃弾に等しい速度で放たれていくのだ。石は炎を遮っている土壁を、ヂュン、という音を出して貫通した。もちろんこれはルイズに見せていないので、ほぼ不意打ちに等しいはずだ。
「なッ!?」
珍しく、それも本当に珍しくルイズが驚きの声を上げた。ルイズはその派手な見た目と軽薄に聞こえる物言いから感情的な人物と取られがちだが、内心は不動的なのだ。そのルイズが驚いたのはただ不意打ちを取られたからだけ、というのはないだろう。と、これは詰めても詮無いことだろう。
ルイズが手傷を負ったことで、魔力の操作がブレ、炎の包囲網は熱からして弱まった。その隙を見逃す奴はこの戦場にいるはずもない。
「カレハ!」
「言われなくとも!」
「頼みましたよ、カレハさん!」
カレハは地面を勢いよく蹴飛ばし、エディアが作った土のバリケードをヒラリと超えた。即座に響いてくるのは鈍い肉弾戦の音、そして衝撃波が土壁を揺らす音だ。いい加減に維持も大変なのだろう、土の壁が轟音を立てて崩れ去れば、音の通りカレハとルイズがプロボクサーもかくやといったように殴り殴られの激闘を再び展開していた。だが今回は先程の拮抗した様相とは全く異なる。ルイズは手負いなのだ。ルイズはカレハの対処に魔力を相当量使わねば拮抗はできなくなってしまった、ように見える。
「クッ、しつこい女ネ!くたばりなさイ!」
「アンタはめちゃくちゃに強いわ。でも、一つだけ私と違うことがある。仲間の支えよ」
「ニンジャは孤高に生きるものヨ!アンタにわかるわけがないワ!」
「孤高なんて頼れないことの言い換えじゃない!?」
「違う!頼れないじゃない、頼らない!!アンタがニンジャを侮辱するなら、私はアンタを殺すつもりになるわよッ!!」
「いいわ、出来るのなら!その4位まで伸し上がれた自信、砕いてあげるッ!!」
白熱した戦いは、佳境へと突入していくのだった。




