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窮地はどこでも誰にでも

鋭い痛みが足に走ると同時に、エイナは唐突に思い当たった。相手の男の能力の仮説(こたえ)を。

ジクジクと刺さった箇所から血が抜けていく感覚は有るものの、致命傷とはならない程度だ。

痛む足に顔を歪めながらも、地面に落ちていたムーンナイフを回収する。無論風属性の魔法でだが。

そして指を指して、指摘する。


「……分かりましたわ」

「おっと、何がだい?」

「貴方の能力ですわ。それは────自分に都合のよいことが起こりやすくなる魔法、ですわね?」


そう、それだ。先程からエイナは500回に一回あるかないかの魔法の失敗や足が絡まって避けるのに失敗したなど、普通では起こり得るにしては確率の低いことが何度も起きているのだ。それが自分のせいではなく、相手の魔法による効果と考えればすべて説明がつく。先程の矢も、あれほど乱舞する刃でも一度も当たらないことは確率的にあり得る。


「そこまで読めるのか……失敬、お嬢さんの察しの良さを舐めていた。まあ、ニアミスと言ったところではあるけど」

「ニアミス……つまりはほぼ正解と言うわけですわね」

「そうとも言える。わかったから何、と聞きたいけどね」


男は嗤いながらそういった。エイナは押し黙るしかない、なぜなら図星だからだ。相手の魔法がわかったからこそ、隔絶した実力差にも気づいてしまった。

確率を操る敵にどう足掻こうと?人間はそもそも偶然の行動や現象を積み重ねて生きるものだ。その偶然を思い通りに歪めるなど、他人の行動どころか精神丸ごと操作できるに等しい。もはやそれは神や運命の操作者というほかあるまい。これが『最強のカムフトーム』なのか。

エイナは遅まきながら戦慄し、そしてこの男がルイズという女……つまりは学院ポイントランキング上位と一緒にいたということから、この男も相当にポイントを稼いでいるのだろう、と当たりをつけた。


「貴方、まさかランカー……」

「ああ、自己紹介がまだだったね、ルイズはしてたけど。僕はシュウ・クーロン。カムフトームポイントランキング9位、"凡人(ノマラワイゼン)"だ」

「9位……!」


順位はルイズのほうが上では有るが、実際前にしてみると脅威度はほとんど変わらない、なぜなら戦いを挑めば負けるか逃げるかの二択しかないからだ。

エイナは円月刃(ムーンナイフ)を手の中で弄びつつ、隙を伺う。だがいざ第9位と知れると、その構えは不気味で不敵に見えた。


「どうしたのかな、さっきまでの威勢はさ。すごく良かったのに」

「うるさいですわね……!そんなに倒されたいんですの!?」

「強がりはよしなよ、君は僕に負けることはほぼ確実なんだから。僕が勝ったら、君をエスコートしてあげよう」


その言葉が、男の本心のようだった。つまりは、下卑た下心でしかないのだ、コイツは。エイナはその気持ち悪さに嫌悪感を抱くものの、どうすればいいのか全く思いつかない。


「──隙ありだべ!!」

「──この僕の防御に沈め!」

「ッ!?」


─────その膠着をブチ破ったのは、すでに忘れ去られかけていた、パーティメンバーたちだった。

突如シュウの後ろの樹から、人影が2つ飛び出してきた。大柄なものと、ひょろりとしたものの2つだ。大柄な方が腕を振るような動作をすると、即座に飛来するは紫の泥のような弾丸。もちろんエイナのパーティメンバーのボーゲックが扱う毒の弾丸だろう。

シュウはその毒塊を予期することはできず、そのまま直撃してしまった。確率を操るとは言えど、本人が感知しない確率は操ることができないのだろうか、あるいは、魔法の発動条件を満たすことができなかったのか。咄嗟の反射行動で腕を構えることはできたものの、回避もままならぬまま腕を毒々しい色に変貌させてしまった。

そのまま2つの人影……モオトとボーゲックが華麗に着地した。


「エイナ様!無事でございますか?」

「よく見るべ、モオト。足の部分に矢が刺さってるのは無事じゃねぇべ」

「いや、これくらいは許容範囲よ。2人とも心配ありがとう」


エイナは強がりではなく本心から言っていることを示すように、微笑った。その顔を見てお供二人は安心したようで、安堵の表情を浮かべた。

その二人の顔とは対照的に、顔を憤怒の形相にしているものがいた。シュウだ。


「お前……よくもやってくれたなあ……!よくも、よくもぉ……」

「よくもなんですの?戦闘中ですわよ、これくらい覚悟をしてなさって?」

「俺が傷つくことなんてどうでもいい……よくも、俺を騙してくれたなあ!男がいるなんてッッッッ!」

「はっ?」


何を言っているのだ、この男は。言っている意味が全く分からず、エイナとお供2人は、呆けてしまう。

───まあ、知らないのも宜なるかな。この男、シュウ・クーロンは、ルイズと組んでいることからもわかる通り、転生・転移者だ。そして彼には、とある悪癖があった。それこそ、潔癖症というものだ。それも重度の。そして何より、女好きという元来の性格も相まって、自分が見初めた女に男がいると、すぐさま相手に見当違いの怒りをぶつけてしまうのだ。


「2人も侍らせて……とんでもないビ○チじゃないか!!」

「何を言ってるんですの!?」


不運にもエイナはシュウの好みにとても近い姿。そんなタイプの女が2人も男を連れていることに、そしてそれを隠していたことに、シュウは言いようのない極大な怒りを燃やしていたのだ。

その毒で爛れた手を前に突き出し、一瞬で治癒する(・・・・・・・)


「俺を騙した罰だ、死んで報いろ」

「一瞬で回復した!?」

「そんな、オデの毒が!」

「死ねぇぇぇえええ!」


怒りの化身はその手に持つ、弩を乱射する。装填から発射まで1秒の、慣れた手つきだ。迫る矢衾に、魔力の現実改変が出迎えた。モオトの、念属性魔法【防御壁(シチルド・ワンド)】だ。

カキン、と甲高い音が弾かれて、矢はボトボトとその場に落ちていく。だが。


「クッ……、コイツ」

「そんなチャチな防御で俺の怒りを止められるか!」


シュウは狙いを一点に定めた集中砲火に切り替えたようで、展開されたバリアの一点がミシリミシリとひび割れていく。そしてついに、耐えかねたのかパキンと砕け散ってしまったのだった。

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