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黒眼の男は異世界に酔う

「やばい、やばい!逃げられねぇ!死ぬ、死ぬー!?」


カムフトーム魔塔学院、その2階。森の中を全力で、それはもう命がけの全力で走っている男がいた。男の名はユウセイ・シナノガワ──信濃川雄星。その名前から分かる通り、日本からの転生者だ。黒髪黒目、中肉中背のザ日本人男児高校生であり、そんな彼がこの異世界で何かから逃げている経緯は、少し前からの話となる。


 @


「────って、ここは?」


ユウセイが眼を開けると、そこは知らない世界だった。いや、知らない世界ではないのかもしれないが、ともかく急に眼の前の景色が変わり、森になっていたのだ。

覚えている限り、最後の光景は自転車に乗っているときにトラックの光が横から自分を照らしていたものだ。つまりは。


「どう考えても、転生したんだよなこれ。トラックに轢かれたのかな?」


とりあえず、周りをキョロキョロと見回し、観察する。大して日本の森と変わらないが、見慣れない花などもある分やはり異世界といった雰囲気は否めない。

そうして、一通り周りを調べ終えたユウセイは、今度はテンプレを確かめるように呟く。ここまで異世界もののテンプレートのような展開ばかりで、これができれば本当に転生したと分かる一言だ。


「ステータス、オープン」


だが、何も起こらない。


「あれ?ステータス、オープン」


小鳥のさえずりと風に揺れる葉の音がやけに耳に響いた。

どうやら、テンプレらしくステータスが任意で視られる、なんてことはないらしい。

ユウセイは面倒くさそうに頭をガシガシと掻き、身体を道のようになっている方に向き直る。街に向かうためだ。


「ま、いいか。ステータスはこういうタイプの場合、鑑定紙とかで見られるだろ。とりま、街に向かってみよう」


そうして出発し、数分で森を出ることに成功した。そこはどうやら広々とした平原と接続しているようだ。奥にはユウセイの視力1.5の両目が街らしき影があることを見つけており、そこまで木が散り散りに生えている。街と思しきものに、歩を進めるユウセイなのだった。


 @


街道と思しき道をそぞろに歩き、何事もなく到着した、軽く見えていた街。

しかしそれは、余りにも巨大で、広大で、壮麗で、堅強な壁で囲まれており、そして中から突き出ている一本の塔が、その存在感を示していた。まるで、いやまさに摩天楼とその塔下町といった風貌は、どこか天界、天国という言葉を想起させる。しかしそれにしては無骨な建物もチラホラと見えるため、相対的に整然とした雰囲気が街に帯びていた。


「うお……すっげ、キレイだな」


さらにてくてくと歩いて近づくと、入町のための列、そして壁のスケールに合わせた巨大な門扉が見えてきた。相当な量の商人と旅人たちが集まって列を成しており、この街……いや、都市が重要な場所であるということがひしひしと伝わってきた。その列に並びながら、前にいる旅人に話を聞く。


「なあ、この都市ってどんなとこなんだ?」

「ああ?お前さん、この都市のこと知らないのか?珍しい奴だな、今から這入るってんのに」

「すまない、無知なもので。勉強させられていないんだ」


この世界に義務教育があるとは思えないので、不自然な理由とはならないだろう。そう理由をでっち上げると、人の好い旅人は得心の行った顔で、懇切丁寧に教えてくれた。


「ここはだな。この世界を治めている七つの国が1つ、クレンドナフ王国の王都であるるシュッツエンだ」

「あ、王都なのか。なるほどな、ありがとう」


王都であればこの行列にも、そして堅牢な壁にも納得がいく。外敵から守るためにも壁は必須であるし、人の出入りも国内最大であろう。なるほど言われてみれば、といった感じだ。


「お前さん、お上りさんか?」

「ええ、まあそんな感じで」

「それなら、まずは宿をとって、ヒローワークに行ったほうが良いぞ」


ヒローワーク……。たぶん、職業を探せるんだろう。日本の某無職支援センターとそっくりな名前からそう察したユウセイは、曖昧に笑って、親切な旅人にお礼を言う。


「ありがとう。そうしてみるよ」


そうこうしているうちに、壁の入口に近づいてきた。衛兵が6人常備していて、検問を行っているようだ。特に何も持たずに──森を出る前に確認している──異世界に転生したユウセイはそのまま検査を素通りし、街の中へと這入る。

まず目に入ってきたのは天を衝く圧倒的なまでの巨塔だった。その威容は、街の中心ではない位置にあるのにもはや中心にあると錯覚してしまうほど巨大で、目を引くものだ。またそれ以外にも広大な館や軒先連ねる商店、アパート風の民家に噴水のモニュメントと、異世界の街と言われて思いつく情景がそっくりそのまま壁の中にぎっしりと埋め尽くされている。


「とりあえず、旅人さんが教えてくれたハローワー……じゃなかった、ヒローワークに行ってみるか」


そう独りごちて、進む。何故か、町中に書いてある言語は自然と分かった。それくらいの転生特典はあるらしい、親切なのか見限っているのかわからない神様である。そんな考えもままに、周りを観察してみる。


(結構亜人はいるっぽいな……。でも、獣人がいないってのは不思議だな)


すると、エルフらしき耳が長い者がいたり、背が小さい、いわゆる小人族らしき人がいた。しかし、ファンタジーモノであればお約束の猫耳獣人だったり人狼だったりがいないのが眼についたのだった。


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