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ハッピーアニバーサリー

作者: 木村よし

「あーやっぱりショウタはかっこいいわぁ」

「今度月9の主役やるんだよね?絶対見る!!」


放課後、よくある会話。

だけど私はその会話を聞いて少し複雑な気持ちになる。


「ショウタって浮いた話題ないし彼女いないのかなぁ?」

「いないでしょぉ。売り出し中だし事務所が許さないって。」


私は鞄を持って賑やかな教室を後にした。


廊下を歩いていると、携帯が震えて。

メールが一通。


『FROM:翔太


返信遅れた。

来週の約束ちゃんと覚えてるから。

安心しろ。』


一日ぶりの翔太からのメール。


返信遅れたって何よその言い方。

悪いとか絶対思ってないでしょ。


だけどね。

それでもね。


頬の筋肉が弛んじゃって。

忙しいって分かってるから。

それでもメールくれたのが嬉しくて。


「もぉ…」


来週の日曜日。

久々のデート。

その日はずっと前から頼んで予定を空けてもらってて。


「早く来週にならないかなぁ。」




メールの送り主、中森翔太は、私、後藤美帆の幼馴染み兼恋人。

中学までは同じ学校に通ってたけど、高校からは別々になってしまって、会える時間はかなり減った。

理由は、

翔太はショウタになったから。


今人気急上昇の彼氏にしたい若手俳優No.1の、ショウタだからなのだ。




*********




「それにしても中森今本当売れっ子だよねえ。」


日曜日のお昼。

駅前のカフェで親友の夏奈子とランチしてます。

静かに流れる音楽と、ワンプレートのオムライスランチが私たちのお気に入り。

夏奈子は中学から仲が良くて、私と翔太の関係を知ってる唯一の人物。

まあよき相談相手だったりする。


「うん。なんか先月からドラマの撮影も始まったみたいでさ。ますます忙しいの。」


「あのくそムカつく奴が今じゃ世間の王子様なんてねえ。世も末だわよ。」


男勝りの夏奈子と(ぶっちゃけ)俺様気質の翔太は、中学の時はしょっちゅう張り合ってて。だけどそれは私から見たらなんだか楽しそうで。ちょっと羨ましかったんだ。


「来週だっけ?」

「うん。」


「久しぶりじゃん。美帆嬉しそう。」


「えへへ。」


来週のデートのことはずっと前に夏奈子に報告した。

嬉しくて(笑)


「可愛いなぁ、美帆は。楽しんでおいでよ」

「うん!ありがと。」


楽しみ。

楽しみ。

楽しみ。


オムライスを一口口に運んだ時、


「美帆、携帯振るえてない?」


ブブブ…


「あ、メールだ。」


夏奈子に一言断ってから携帯を開くと、翔太からのメールで。


あ、どうしよう。

なんか嫌な予感。


「・・・。」

「美帆…?どした?」


「来週…駄目になったって…デート…。」


『FROM:翔太


悪い。来週駄目になった。』


「え?マジで…?」


セットで付いてたオレンジジュースを一気に飲み干す。


只今テンション最低です。




*********




「よっしゃー!歌うぜー!」


重低音が響く室内。


「きゃー!」


友達の奈央の掛け声。


騒がしい室内。

カラオケの一室で。


約束の日曜日。

翔太にデートをキャンセルされた私は、今まさに合コン中だったりします。


奈央と私、奈央の友達のタカくんとヨシくん。

四人でカラオケに来てる。


「ほら、美帆も歌おうよ!」

「あ、うん…」


奈央にマイクを渡されて、皆で歌えるような有名な曲を入れる。

軽やかなメロディが流れ出した。


デートキャンセルのメールが来てから、私は翔太と連絡を取ってない。

一日一回くらいのペースで翔太からメールか着信があったけど勿論総無視!

だから私が今合コンしてるなんてことは翔太は知らない。


…いいんだもん。

私、悪くないもん。

ずっと楽しみにしてたんだから。


翔太は、私よりショウタが大切なんだ。

だから。

今日私より仕事を選んだんでしょ。


今日は、

今日だから、

一緒にいたかったのに…。




「ねえ、ミホちゃん。」


「へ?」


名前を呼ばれて顔を上げるとヨシくんが私を見ていた。


フリータイムだから、時間をそんなに気にせず歌ってるけど、もうすぐ二時間くらい経つかな?


私は知らない間に翔太のことを考えてたらしい。


「ぼーっとしちゃって、大丈夫?もしかして楽しくない?」


ヨシくんが聞いてきて。


「ううん、そんなことない。ごめんね。」


正直、ヨシくんやタカくんの歌よりずっと翔太のが上手いとか思ったりしてしまうのは内緒だけど。


「無理しないでいいよ。」


「無理なんて…」

「ねえ、もっと楽しいことしよっか?」


え…?



「きゃあっ!!」



「奈央?…いっ!」


奈央の短い悲鳴が聞こえたと思ったら、急に視界が反転して。


そしたら、部屋のドアが開いて知らない男の人が二人入ってきた。



なに…?

どうしたの、これ。


どうして、

ヨシくんに私組み敷かれてるの?



「タダでヤれるとかラッキー」


ヨシくんでもタカくんでもない男が言った。


その言葉でやっと、逃げなきゃ駄目だって理解できて。


「やっ!タカ、離してよ!最低!」


奈央の声。


「離して…どいて…!」


私の足掻き。


「威勢がいいねぇ」

「虐め甲斐がありそう」


知らない男の一人は奈央の方へ、そしてもう一人は私の方へ歩み寄ってくる。


その人が私の服に手を掛けてきたから、私は思わず足をばたつかせると、その人は舌打ちをして手を振り上げた。


乾いた音が鳴って、頬が熱くなる。


「ちょっとは大人しくしろや」


男が吐き捨てるように言った。


頬が、

頬が…。


やだよ。

お願い。

やめて。


ごめんなさい。

怖いの。

翔太がいいのに。

初めても、その後も、ずっと翔太だけがいいのに。



助けて。


翔太。





ごめんね。








バンッ!!



「んだテメェ!?」


え?


いきなりまたドアが開いて、二人の人が入ってきて。


みるみるうちに男たち(ヨシくんとタカくんを含めた)が倒れていく。



目の前には、

一人の女と

サングラスを着けキャップを深く被った男。


夏奈子と

翔太だった。



「てめぇら、今度俺の女に手出したらマジでぶっ殺すぞ。」


翔太のその一言で男たちはオタオタと逃げていった。


「あなたも大丈夫?」


夏奈子が奈央に声を掛けたのが聞こえて。


私は、


「おい、美帆…」



翔太の声を頭の隅で感じながら、ゆっくりと意識を手放した…。














『俺さ、次のドラマでキスシーンあんの』


学校からの帰り道の途中にある河原。

二人でならんで座ってて。

夕陽が辺りを橙色に染めていた。


翔太が芸能界に入って半年ほどして、初めてのドラマの仕事が回ってきたらしくて。


『へ、へぇ…』


キスシーン…。

そりゃ俳優なんだから、キスシーンの一つや二つあってもおかしくないよね。


『そっか…頑張って』


翔太が誰とキスしたって関係ないじゃない。

なのになんで?

どうして胸の奥がずきずき痛むのかな…。


『美帆は俺が誰とキスしてもいいんだ?』


翔太が私の方を見る。

私は、それから逃げるように顔を逸らす。


『あ、当たり前じゃない。なんで私が翔太の…』

『こっち向けよ。』


逸らした顔をぐいと戻されて。

翔太の視線と私のそれが絡み合う。


『…嘘つき』

『!!』


『んな泣きそうな顔してんじゃねえよ』


なんでそんな風にするの。

なんで私にそんなこと聞くのよ。


『もう…離し、て、』


『俺は嫌だ』


え、なに?


『俺は、美帆以外とキスなんかしたくねえ』


何言って…。


『しょ…』


最後まで言えなかった。

目を瞑る暇なんてなくて。

目の前には翔太の顔が間近で。


触れるだけの、キスだった。


『お前、俺のこと好きだろ。』


耳元で囁かれる。


『好きだろ?』


どんだけ俺様なのよ。

私はなんだか悔しかったけど、さっきのキスが何故かすごく嬉しかったから。


一回だけ頷いてやった。




















「…ん…」


ここは…。

ゆっくりと開かれる視界。


「気が付いたか。」


翔太…?


「あたし…」


上体を起こして周りを見ると、そこは翔太の部屋だった。


記憶が、曖昧なような気がする。


合コンに行って。

奈央にタカくんとヨシくんを紹介されて。

四人でカラオケに入って。


それで…


頭の中がいきなり真っ黒になる。


「あっ…あた、あたし…ゃっ、やだっ…」

「落ち着けって!」

ヨシくんに押し倒されて。

知らない男の人が入ってきて。


「殴らな、ぃで、お願…しょ、ぅた…翔太…」


翔太。翔太。翔太。


「俺はここにいるから!!」



いきなり抱き締められて、体が熱で包まれる。


「しょ、うた…?」


「俺だから。大丈夫だ。」


その体温はとても心地好くて、気持ちが落ち着いていく。


そうだ。

翔太と夏奈子が助けてくれたんだ。


そして私は意識を失って。


「ふぁっ…怖かっ、たよぉ…」


私の目から、なんだか糸が切れたように涙が溢れてきた。

翔太の背に腕を回すと、応えるように私を抱きしめる腕の力が強くなった。


「ったく、たまたまお前が男とカラオケに入る所を夏奈子が見てたからよかったものの。じゃなかったらお前、最後まで完璧にヤられてたぞ。」


夏奈子が見てたんだ…。

それで翔太に連絡を…


「って、え…翔、太、仕事、は?」


今日は仕事でデート無理になったはずで。


「…抜け出したんだよ」

「え?」


「夏奈子から連絡貰って抜け出してきたの!悪いか!」


翔太がなんだか照れているように頭を掻いた。


うそ。

それって、すごく嬉しい。


「男と密室に入るなって、あんだけ言ってきただろ。」


「…だっ、て」


「だってもくそもねぇ」


「…今日、は…どう、しても…翔太と、いたかったの、に…」


ずっと楽しみにしてたデート。

キャンセルした御返しに合コンしてやろって思って。


だって、ただのデートじゃなかったんだもん。


今日は絶対一緒にいたかったんだもん。


「ひっく…しょぅ、たが…ひっく…悪い、んだもん…」


翔太が、忘れてるから、


「お前なぁ、まさか俺が今日を忘れてるとか思ってんじゃねえだろうな?」


「ぇ?」


「やっぱか、はぁー…」


翔太?


翔太は大きくため息を吐くと、私の方を向き直った。


「忘れるわけねえだろ。馬鹿が。」

「ばっ!?」


馬鹿!?


「馬鹿とは何よ?!大体翔太が…んんっ!」


最後まで言えなかった。

またあの時みたいに口を塞がれたから。


「ふぁっ…んっ…はぁ…んん…?」


長い口付けの途中、

何故か左手の指を翔太に触られた。


「はあ…」


ゆっくりと唇が離れていく。

息が少し乱れてて。


脳にまた酸素が回り出した。


だから私は、やっと気が付いた。


「これ…」


左手の薬指で光る指輪。


「ちゃんと覚えてたっつーの。」


当たり前だろ、と翔太が言った。


覚えてたんだ…?

忘れてなかったんだね?

この日のために指輪を用意してくれてたんだ…。


「ぅうー…」

「ぇ、おい、何でまた泣くんだよ!?」


また泣き始めた私を見て翔太があたふたして。


そんなの、


「翔太ぁ…ごめんね、好きぃ…大好きぃ…!」


幸せだからに決まってるじゃない。



あの夕陽で染まる河原で、私と翔太は初めてキスをして。

恋人同士になった。


それが丁度一年前の今日。



「…わかってるっつうの…」


「ひっく…うぇっ…ひっく…翔太ぁ…」


「あーもう泣くなって」


子供みたいに泣き続ける私に翔太は苦笑い。




恋人一周年記念は、

涙でちょっとしょっぱかったけど。



来年もまた一緒にいれたらいいな、なんて。


そんな風に思った。




☆おわり☆


どうも、木村よしです。

最後まで読んでくださった方、ありがとうございます!


この作品はかなり昔に考えていた内容で、とにかくキュートに仕上がればいいなぁと思って書きました(笑)


文章が下手なのは軽くスルーして下さい…


ではでは、本当にありがとうございました!

これからも木村よしとその作品たちを、暖かく見守って下さい☆



木村よし

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― 新着の感想 ―
[良い点] はぁーよかったー。 ハッピーに終わって・・・という感想です♪ [一言] 付き合い初めのお話が、途中に入っていたのが、ぐっと物語を盛り上げてる感じで、とても素敵でした。
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