うらみくずのは
遺言。
あなた様との出会いを、まるで昨日のように思い出します。
その優しい瞳は、どのような存在にも分け隔てなく。
その愛は、永遠と降り積もる雪のようでありました。
ええ、はい。初めて出会い、お助けされたときに、わたくしはあなた様しかいないと思ったのですよ。
それからは、あなた様に尽くすことだけを考えて生きて参りました。
ですから、あなた様にお仕えすることができて、本当に嬉しかったんですのよ、わたくし。
ええ、わたくし以上にあなた様を愛せる方などいらっしゃらないでしょうから、
そこから先は……愛し合うのは必然のことだったと思われます。
けれどもあの婚姻は、奇跡、としか言いようがありませんでした。
わたくしのような娘を妻として迎えて下さって……本当に嬉しかったんですのよ。
ひと時も離れたくない、けれどそのような感情、殿方には迷惑でしょう?
だからわたくし、とても我慢しましたのよ。
それから間もなく、わたくしの身体に変化がございましたでしょう?
あなた様の御子を孕んだ時、私は神さまに感謝したのです。本当ですよ。
それからは、あぁ、まるで夢のような日々でございました。
いいえいいえ、あなた様と二人きりの時分も、とても恍惚とした日々でしたのよ?
けれど、考えても下さいませ。
二人の間には生まれないと思っていた御子が生まれたのです。
それはそれは、奇跡としか言いようがないではありませぬか。
あの子は……あなた様に似て、それはそれはとても賢しい御子でございます。
きっといつか、わたくしの正体も知ってしまうでしょう。
そうなれば、あなた様に全てが伝わって……わたくしはもうここには居られなくなってしまうでしょう。
だからその時まで……せめて、我が子が全てを壊すその瞬間までは、あなた様のお傍にお仕えすることをお許し下さい。
きっとこの子は、将来まで名を馳せる天才となりましょう。
この家の名を、千年先にも伝えて下さるでしょう。
わたくしの名が残らずともよいのです。あなた様が、その父親として永劫語り継がれますように、わたくしは妻として祈っております。
母として、妻として、誇らしく想っております。
……この手紙にあなた様が目を通すころ、わたくしはあなた様の前にはおりますまい。
何十年、何百年経とうがこの未練は断ち切れそうにありませんけれども、
これだけは信じて下さいませ。
わたくしは、心の底からあなた様を、お慕い申しております。
ゆめゆめお忘れなされますよう。
恋しくば
尋ね来てみよ
和泉なる
信太の森の
恨み葛の葉