第百二十七話 謎の出産
本年四月十六日付け中日新聞『話題の発掘・ニュースの追跡』面に、興味深い見出しが踊っていた。
長崎の動植物園 園長びっくり
一匹飼育のシロテテナガザル
隣のサルと金網越し密会?
長崎県佐世保市の動植物園で飼育されているシロテテナガザルが出産し、話題を呼んでいる。このサルは獣舎で一匹で飼われていた。雄と接触した気配がなく、なぜ妊娠、出産したのかが謎なのだ。父親は誰か。同園では隣り合う獣舎のサルの可能性を考えてはいるものの、謎解きにはしばらく時間がかかりそうだ。(佐藤直子)
(中略)
両手の毛が白いのが特徴のシロテテナガザル。二月十日、モモ(十歳)のおなかに赤ちゃんザルがしがみついているのを、獣舎に入った飼育担当者が見つけた。モモの様子は毎日観察しているため、十日に出産した可能性が高い。
(中略)
岩岡さん(九十九島動植物園森きらら園長)はおりを仕切る金網の隙間に注目している。モモの隣りでは、フクロテナガザルやアジルテナガザルの雄が飼育されている。仕切りは二重に張った網目約一㌢四方の鉄柵。「その隙間を通して交尾したのでは」というのだ。
山中幸盛は、先月号の『発情猫』に引き続いての交尾話に苦笑しながら、この事件をネットで検索してみた。それによると、赤ちゃんの父親候補は、モモの獣舎の両隣と裏を合わせて三種類、五頭のテナガザルのオスがいるそうだ。
父親が誰であろうと良さそうなものだが、テナガザル類などの希少種はとくに国内外で血統管理が厳しく、『交雑種』というレッテルが貼られるし、あるいはこの五頭の候補の中の一頭はモモの実父であるため、父親と交尾したとなると『近親交配』となって、これもマズイらしい。
赤ん坊が成長してからDNA鑑定して父親を特定するようだが、いずれにせよ、この赤ん坊は人間様からみるならば望まれぬ子だから、やがて優生保護を理由に去勢か避妊手術を施されるにちがいない。
それにしても、このシロテテナガザルがどのように交尾したのか首を傾げるばかりだが、調べてみると交尾にも色々あることが分かった。トンボやチョウが二匹つながって飛ぶシーンはよく見かけたし、電線に留まったハトが羽根をばたつかせながら上に乗っかる場面も見たことがある。一瞬で終わるようなので、なんてせわしなくて器用なセックスと感心もしたが、今回調べてみて驚いた。
なんと、ほとんどの鳥には生殖器がないそうだ。だから鳥の交尾のイメージとしては、肛門(総排出口)と肛門(総排出口)を合わせるだけ、ということになる。だから『交尾』と呼ばずに『交接』と言うそうで、どうりで一瞬で終わるはずだが、きっと精子はスーパー逞しくものすごい勢いで卵巣に向かって突進して行くのだろう。
そこで幸盛は想像をふくらませる。テナガザルのオスが狭くて距離のある隙間の中にペニスを伸ばすのは考えにくいから、『交尾』ではなく『交接』の手法で身ごもったと推理してはどうだろう。
というのも、幸盛が青年の頃、佐賀県伊万里市の山の中腹に住む従兄の家に遊びに行った際、庭にヤギが繋がれていたのだが、このヤギがたまたま発情中のオスで、近くにメスのヤギはいないというのに、ペニスをシュッシュッと伸び縮みさせ、精液をピュッピュッと勢いよく飛ばしていたのだ。
つまり、モモが金網に尻(生殖器)をピタッとくっつける。そこに向かってオスが金網ごしに精液をピュッピュッと飛ばし、見事に生殖器に命中させた結果、その中の有能元気な精子が卵巣に向かって突進して行き、受胎に成功した、という『交接』説の方が最も現実的ではなかろうか。
話は変わるが、今回ネットで交尾について調べている中で、馬の種付けの動画にも出くわした。人の男根が立派なことを「馬並み」と喩えるがごとく、オス馬の性器はアゴが外れるほどに太長い。あの太長い一物を引力に逆らって水平に保つのだから、付け根部分は油圧ジャッキのごとき強靱な筋肉でできているのだろうが、それで思い出した古い話がある。
幸盛がまだピチピチの若い頃、財布にコンドームを忍ばせて出歩いていた時期があって、その頃に、なぜか幸盛に「先輩、先輩」となついてくる、職場の後輩にS君がいた。
昼休みに仕事仲間とたわいない下ネタ混じりの雑談をしていると、S君が言った。
「ボク、まだコンドームを見たことないス」
「それなら一つあげるよ」
幸盛は財布からそれを一つ取り出し、気前よく進呈した。
それから一週間後くらいに、トイレでバッタリ顔を合わせた時に彼は小声で囁くように言った。
「先輩、アレ、きつくて入らなかったス」
幸盛はすぐにコンドームの話と分かったので、目をまん丸に見開いて呆れながら言った。
「キミは馬並みかあ」




