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ソフィアと夕食を食べて、彼女が自室に立ち去り、ずいぶんしてからジョンは動き始めた。上着を羽織り、帽子を被って一人前の紳士の服装で彼はホテルを出た。
ソフィアには詳しく話さなかったが今日、一風変わった招待を受けた。そのため出かけなければならない。向かう先は王立美術館だ。ソフィアがテーブルで見かけたチケットを持って彼は日が変わる時分に外出したのだった。
当然こんな時間に美術館はやっていない。ただホテルのフロントから届けられた封筒にチケットと一緒に手紙が添えられていた。書体は流麗かつ読みやすく気品を感じさせるものであり、また趣味のいい便箋や封筒にはお金が掛けられていた。それだけにいたずらとは思えなかった。
『明日午前一時、王立美術館展示室十五、展示作番号四十七の前で』
言葉はそれだけだった。
美術館にたどり着いてみれば驚いたこと正面玄関の前に男が一人立っていた。玄関は閉ざされているが中は驚いたことに明るかった。警備員の制服を着ている彼はジョンの姿をみると、何も声を発する事無くただ手で招いた。そしてガラスと金属でできた扉を無言で開く。
石階段を上ったジョンは、そのまま警備員に顔を向けることもなくただ示されるままに中に入った。おそらく彼はただ金で引き込まれた門番だ。話をしても無駄だろう。チケットを差し出すと彼は恭しくそれを受け取って室内を無言で指し示した。
深夜の美術館に人がいないのは当然としても、そこは想像以上の耳が痛くなるような静けさに満たされていた。歩き出して自分の足音が響いてようやく現実感を帯びる。
展示室を幾つも抜け十五番を探す。
そして見つけた場所は、もっとも巨大な展示室だった。広く取られた壁面にこの美術館最大の絵が飾られている。
展示作番号四十七番『建国王の戴冠式』。
人物がほぼ等身大でかかれ、その登場人物の数は百人近い大絵画だ。
ジョンはその場所で立ち止まった。
あまり歴史に興味は持っていないが、さすがに建国王のことぐらいは知っている。概ね善政を敷き、後継者もそれなりに納得できる人材を選んだ。議会制に移行するまでに数人、どうしようもない王は出したものの、その末裔は今でも国民に愛されている。
建国王の唯一の失策と言えば……。
ジョンの思考はそこで遮られた。
「強引な誘いをしてしまって、申し訳なかった」
その男はふいに柱の影から現れた。表情にこそ出さなかったが、ジョンもさすがにぎょっとした。そこは先ほど通ってきた通路だ。その時はもちろん誰も居なかった。そしてジョンが入ってきてからこの部屋の扉は開いていない。
ふいに現れたそれを超常の力だとは思わないが、ただ、いい気持ちはしない。
「貴様はシナバーか」
「然り」
奇妙に古めかしい言い方でその男は頷いた。
年のころは三十歳くらいだろうか。若かりし頃は単なるハンサムだったのだろうが、今は渋みと品のあるいい表情を持ち、その魅力は数倍増している。着ているものも適度に流行を押さえているが、自分の流儀は崩していない芯の通ったセンスの良さがあった。
男は持ち手に金属でできた狼の飾りがついた杖を持っていた。それ一度床を突くと一歩踏み出す。足取りの確かさからして杖はただのお洒落だろう。
それから男はにこりと笑った。
どこから見ても、感じが良いという見本のような雰囲気なのだが、一点どうしても人を不安にさせる要素がある。
男は短く切りそろえられた豊かな髪を持っていたが、その全てが雪のように真っ白だったのだ。顔立ちがそんな年では無いだけに、どこかちぐはぐで不安にさせられる容姿だった。
「ジョン・スミス……ジョンと呼んで良いかな?」
「断る」
ジョンの断言にも気を悪くした様子はなかった。ただチャーミングに見える動作で肩を軽くすくめただけだ。
「スミス、君と話ができて嬉しいよ」
「僕も、貴様が名前を名乗れば少しは嬉しいかもしれん」
「失礼」
男は杖に両手をかけた。しかし姿勢はぶれない。
「私はアーサー」
「僕の手持ちの名刺リストにあるかもしれないが、あなたのことは興味の範疇外だな。申し訳ない、パーティでは挨拶するべき人間が多いもので」
そっけない言葉にアーサーは苦笑いを浮かべた。もちろんそれに愛想笑いを返すようなジョンではない。
「さっさと用件を言いたまえ。僕も忙しい」
「それは知っている。君の『用心棒』は少々気の毒だね」
アーサーはジョンの素性を知っていると言うことがその言葉でわかった。
ソフィアがジョンをただの変人だと思っていることはジョンも知っている。ソフィアの場合は彼の正体については深く考えていないようだ。アーサーはジョンの正体は知っているようだが。
では僕の性格については知っているのだろうか?
そんなことを思いついた。
「……私もね、話をする相手は選ぶのだよ」
アーサーは気分を害した様子も無いが感銘を受けた様子もなかった。
「なんの話だ」
「君が巻き込んだソフィア・ブレイクは、なかなか努力家で誠実な娘のようだ。君なんかよりよほどまともだろう」
そして彼はため息をついた。どうもアーサーはジョンに敵意に近いがそれだけではない複雑な感情を抱いているようだ。
「だが残念なことに、この話はシナバー患者にはあまり聞かせたくない話だ」
そこでジョンはまっすぐにアーサーを見た。通常の人間よりは幾分白い肌を持つその男を。
「お前もシナバーだろう」
「だからこそだよ。ジョン・スミス」
得体の知れない深遠を含んだ菫色のまなざしでアーサーは答えた。
「君は今、連続首切り事件を追っているのだろう」
どうしてそれを、とはジョンは尋ねない。ただ不機嫌そうな顔になっただけだ。
「本来市警が行うべきことだ。ただ、私は君を応援する。別に市警が嫌いとかそういうわけじゃない。ただ、大事にならないことを願っているだけだ。市警はあちこちと繋がっている。どうしても話が大きくなりやすい」
「何を隠したい」
それにはアーサーは直接的な返答をするつもりはないようだ。
「君に、ぜひとも事件を解決してほしい。そう思っているから私は君に助言に来た」
「一市民なら、犬死しても大事にならずにいられる」
「その通り」
悪びれず彼は快活な笑い声を上げた。
「ただ、犬死はしないでほしいと願っているよ」
「……助言とは?」
「君は大いに勘違いをしている」
その言いようにはジョンも不快感を持った。もともと負けず嫌いである彼は自分の考えを否定されることを嫌う。
「どういうことか、よく聞かせてもらいたいが」
「君は、ここしばらくいろいろ手を尽くして、嗜虐趣味など異常な趣向をもつ人間の犯罪者を洗っているようだな。首切り事件の犯人がそのあたりだと狙っている。特に屈強な肉体を持つような人間」
ソフィアには言っていないことまで当てられて、ジョンはアーサーを不思議そうに見た。
「僕が国防省や内務省をつついたことか?」
「その通り。君の権限は一般人が想像もできないくらい大きなものだ。でも君は、自分が全てを知ることができない立場だということを、知らないでいる」
アーサーの言葉はまるで何かの問答のようだ。いますぐ胸元をつかんでがくがく揺さぶって問い詰めたいが、ジョンではシナバー患者に敵うはずがない。ただ不機嫌に問い返した。
「それじゃわからん」
「まさかと思うことも考えたまえ。君はそういう事は得意だろう?実際にまさかと思うような裏切りにあったわけだし」
アーサーの言葉にジョンは目を眇めた。彼を検分するように上から下まで眺める。
「あなたは僕の何を知っている?」
アーサーはそれには答えなかった。
「……私は、未来を見通したいとは思わない。しかし歴史を全て俯瞰して眺めることができたらどれほど爽快だろうと思うことはある」
「僕も未来に興味は無い。しかし過去にもそれほど執着は無い。やむなく過去を学ぶのは現在を豊かにするためだ」
言い切ったジョンに視線こそ合わせなかったものの、アーサーは苦笑いをした。
「まったくね」
アーサーは大絵画を見上げた。その淡い紫色の瞳には、紛れもない苛立ちがある。いや、嫌悪感か。
「建国王は今日も実に立派なお姿だ。あんな乱暴なことさえしなければ、と思うよ」
「焚書のことか」
「許されない出来事だ」
アーサーがいっているのは先ほどジョンが思い浮かべたことの続きだった。建国王唯一の大失策。
彼はなぜか全国の図書館の本を焼いた。当時の国内の蔵書の四割がそれによって失われたといわれている。稀少な歴史書もあったとされ、未だに喪失については惜しまれているのだ。
「これをあげよう」
急に振り返ったアーサーは、ジョンに向かって拳を突き出した。なんだ、と眺めるジョンにそちらも手をだせという。しぶしぶ出したジョンの開いた手の平に、ぽとんと銀色の冷たい破片が落ちた。
「……銀の弾丸など、シナバー患者には効かないだろう」
それはジョンの持つ回転式の銃に合う銀の弾丸だった。美術館の光をうけとめ小さく鋭く輝く。かつてシナバーが得体のしれない魔物とされていた頃は銀は効果があるとされていたが、今はそれは単なる迷信で、普通の弾丸と同等以上の効果は無いと知られている。
今更迷信を持ち出すのか、という口調でジョンが問いかけると、アーサーはさらりと端的に答えた。
「だが化け物には効果がある」
銀は清浄な石とされているのは伝承に過ぎない。それを堂々といってアーサーは恥ずかしげも無かった。
「話はそれだけだ、ジョン・スミス」
アーサーはくるりと方向を変えて美術館の奥の暗がりに向かって歩き始めた。
「まて、アーサー」
「たまには先祖の墓参りでもしたまえ。何も得られなくても実りはある」
杖を掲げてアーサーは最後にそれだけ言うと振り返らない。彼の上質の靴の底の響きが遠ざかっていく。
ジョンはその背中が展示室の向こうの闇に沈むまで見送った。あまり機嫌の良くない表情で。
翌日、ソフィアは学校が終わるとヒューゴの元を訪れ、マデリーンのパーティの招待状を彼に差し出したのだった。
「いいなあ。マデリーン・レノルズのパーティかあ」
にこやかにヒューゴは言った。まるで他人事みたいに。
「楽しんでおいでよ」
「そういう問題じゃないのよ。だってヒューゴも呼ばれているんだから!」
一拍置いてヒューゴはええっと声をあげた。ソフィアは招待状を指先でひらひらと振ってから彼のデスクに有無を言わさず置いた。
「なんで?だって私はただの貧乏医者だよ?」
「マデリーンはあなたの論文を読んで興味を持ったって言っていたわ」
「あんなの何年も前のだよ……」
ヒューゴは困り顔を隠しもしない。
「ジョンもそう言っていたけど、まあ呼ばれているなら行けば良いさ、礼服は僕が用意する、とも言っていた」
「いや礼服の問題じゃない」
ヒューゴはため息をついた。
「気が重いなあ」
「でも美味しいものが食べられますよ」
「ソフィアらしいな」
相変わらず廃屋同然の診療所で二人は向かい合って話していた。今日は患者もあまりこなかったらしく、診療所も片づけが終わっていた。
ヒューゴはあまり気乗りしないらしく、とりあえずマデリーンの招待状については話を棚上げして別の話題を持ち出した。
「ところで、ジョンと一緒に暮らしているんだって?」
ソフィアにとってはものすごい爆発物であったが。
「なんで知っているんですか!?ひひひひ人聞きが悪いですよ!ホテルをあてがってもらって彼の面倒を見ているだけです。別室です別室!」
「知ってるよ」
ヒューゴは笑った。
「この間ジョンが来て、私にちゃんと説明していった。ソフィアが兄のように頼っている人間だと思っているので事情を説明に来たそうだ。筋は通したと威張っていたよ」
「そうですか……」
さすがのジョンもソフィアの過去の恋心を暴露するほど外道ではなかったようだ。と、ソフィアが安堵した時、ヒューゴは幾多の患者の絶大な信頼を得てきた笑顔を向けた。
「ちなみにソフィアは、昔、私を好きだったそうだね」
「ぎゃー!」
思わず立ち上がって叫んでしまう。
言いやがった!あいつ鬼畜だ!悪魔の申し子だ!とパニックに陥りそうだ。いますぐあいつを殺してわたしも死ぬー!と言いたくなる。
「いやいや、光栄だよ」
くすくすと喉の奥でおかしそうに笑ってヒューゴはソフィアの手を引いて座らせた。ソフィアは耳がほんのり赤くなっているだけだが、それは血色の良くないシナバー患者だからであって、普通の人間だったらユデダコ状態だ。
「でもね、ソフィア。君は兄のように慕って一時は憧れのお兄さんだった私には頼ってくれなかったんだね」
まだ微笑みは消さないまでも、ヒューゴは少し寂しそうな口調で言った。
「ジョンに聞いたよ。君の下宿が焼けた事は。確かに僕にはお金も権力もないから君に出来る事は少なかっただろう。でも愚痴なら聞けるし心配することぐらいはできたから、言って欲しかったな。僕も君の御祖父様にいろいろ話を聞いてもらった。恩を返す前に亡くなってしまったからせめて君の役に立てればと願っている」
「ヒューゴ……ありがとう……」
まだ顔をうまく上げられないくらい恥ずかしいが、感謝だけは告げた。
「ソフィア、君は人に頼ることが苦手な子だ。自立心旺盛なのは良いけど、あまり自分の首を絞めないようにね。ジョンの無茶な頼みも適当に聞き流しておけばいい」
「はい……」
「でも」
ヒューゴはそこで一度言葉を切った。そして興味深そうに言う。
「そうか、君はジョンには頼れたんだね、うんいい兆候だ」
「た、頼ってなんて。いえ頼ってますけど!どっちかっていうとわたしがお世話している場面も結構あると思うんです。あの人どうやっていままでやってきたんですか?相当変人ですよ?」
「ジョンは変人だけど優しいよ?あと結構甘えても倒れないし」
優しい人間が人の恋の話を相手に喋るものか!と憤りを感じたのだが、ヒューゴに八つ当たりするわけにもいかず、ソフィアはジョンをいつか殴れる機会があったら三回にしようと決意した。殴りたいカウンターはぐるぐる回っている。
「ヒューゴせんせえ」
と、荒れまくっているソフィアの内心を安らげるような優しい声が外から聞こえた。小さな女の子の声だ。木戸が叩かれる。
「せんせえ開けて?」
「おや、あれはフローレンスかな?」
ヒューゴはとりあえず話を中断して立ちあがり、診療所の扉を開けた。そこに立っていたのは、素朴な花柄のスカートを履いた五歳ほどの少女だった。
「遅くなってごめんなさい。ママのお薬取りに来たの」
少女は硬貨を差し出した。それを受け取ってヒューゴは言う。
「そうかい。いいよ、持ってお帰り。準備するから中に入りなさい」
ヒューゴに招かれて少女は診療所の中に入ってきた。処方をするべく机に向かったヒューゴを見て、ソフィアは少女を自分の横のストーブの近くに招いた。
「お茶を入れてあげるわね。お砂糖いれるといいわ」
少女は頷いた。立ち上がったソフィアは自分の代わりに椅子に座らせる。近づいてソフィアはあれ、と気がついた。仲間同士でしかわからないあのほのかな気配。そう思って彼女を見れば、この寒さなのに鼻の頭すら赤くなっていない。
「フローレンスって言ったかしら?」
「うん。フローレンス。フローレンス・ペニー」
「そう。可愛いお名前ね。わたしはソフィア・ブレイク。ヒューゴ先生のお友達よ」
古びたカップに入れた紅茶に角砂糖を一つ落としてソフィアは彼女の前にしゃがみこんだ。
「ねえフローレンスはシナバーなのね?」
「しな……???」
「ああそうか、子どもには難しい病名ね……。えーと、フローレンスは血を飲んでいるでしょ?」
その言葉にフローレンスは頷いた。
「おねえちゃんも同じなの。会えて嬉しいわ」
「そうなの!?」
ヒューゴが、え、と振り返った。
「フローレンスはシナバーなのかい?」
「あら、ヒューゴも知らなかったの?」
「僕の患者はフローレンスの母親だからね」
驚くヒューゴには興味を持たず、フローレンスはソフィアの手を握った。冷たい手に予想外の必死さを感じてソフィアは思わず少女の顔を覗き込む。
「パパもママもおにいもおねえも違うの。おともだちにもそんな人いないの。フローレンスだけ」
「そう、寂しいね」
フローレンスはまだ幼すぎて、自分の境遇を把握できないのだろう。ソフィアも医師であった祖父がわかりやすく噛み砕いて何度も説明してくれてようやくわかったくらいだ。
ぽろっとフローレンスの頬に涙が伝った。ずっと堪えていた辛さが零れ落ちたように静かに溢れた。
「おともだちがね、フローレンスは変だって!」
まだ幼くて語彙がなく、自分の辛さをうまく説明できないフローレンスに胸が痛んだ。きっと彼女が理解できないだけで様々な棘のある言葉を投げかけられている。言葉はわからなくても悪意は伝わる。子供同士ならば子供ならではの残酷さもあるはずだ。わからないことで傷つけられるフローレンスが気の毒だった。
ソフィアはフローレンスを抱き上げて、椅子に座った。膝の上のフローレンスを抱きしめる。本当は親がもっとしっかり守ってあげないといけないだろうが、母親は病気でそこまで手が回らないのだろう。
「元気出して、フローレンス。わたし達は変かもしれないけど悪い事は何一つしていないのよ」
「ほんと?」
しゃくりあげながらフローレンスは首を傾げる。
「大丈夫。パパとママはフローレンスのことを好きでしょう?」
フローレンスは小さく頷いた。家族仲は良いようでとりあえずほっとする。
「おにいもフローレンスに意地悪した子を怒ってくれた」
「だから大丈夫。変だって言われても変じゃないって言っていいのよ」
フローレンスはソフィアの胸に額を押し付けた。
「今度、またわたし達のお話をしてあげるから、ここに来てね。別にわたし達はなにも変じゃないの」
もう一度繰り返すと、フローレンスはうんと返事をする。
「ソフィア、ここにまた来る?」
「来るわよ」
「じゃあまたね、絶対ね」
フローレンスの髪を撫でてソフィアは頷いた。
「薬が出来たよ、フローレンス」
「ありがとうせんせい」
フローレンスはソフィアの膝から降りた。ヒューゴの手から薬を受け取る。
「あ」
帰ろうとするフローレンスをソフィアは呼び止めた。
「ねえ、フローレンス。わたしと一緒に行こう。送ってあげるから」
「本当?」
ソフィアはヒューゴを見た。
「ヒューゴ、わたしこれでフローレンスを送りがてら帰ります。ほら首切り事件があるから。わたしならともかくフローレンスはまだ小さいでしょう?」
「ああ、そうだね」
ヒューゴも頷いた。でもソフィアも気をつけるんだよ、と続ける。なんとなくくすぐったく感じながら、ソフィアはフローレンスと手を繋いだ。
「そうそう、ヒューゴ。マデリーンの舞踏会よろしくお願いしますね」
うっ、面倒くさいという顔をしたヒューゴについては見なかったことにした。恋心とは別物だが、ハンサムなヒューゴの素敵な姿を見てみたいという好奇心ぐらい、ソフィアにだってもちろんある。