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第八話 追手

 夜は未だ深い。どれだけ歩いても夜が明けるような気がしない。

 踏み出す足は重く、だんだん山口も黙り込んでいく。それでも歩くのは一刻も自宅に帰り、温かい布団の中に潜り込みたいという一念からであった。


 本当にここ最近ついていない。乾はつくづく思う。

 遊園地も少女のせいでデートに集中できなくなったし、それに今回は財布とスマホ全て奪われちまった。それに今こうやって深夜に歩いて彷徨っている。


 いつからこうなってしまったのだろうか。

 


 「山口、いまここどこだ?」

 「しるか」


 そしてまた無口になる。

 その繰り返しだ。だんだん住んでいる場所に近づいているということはコンビニの店名を見れば分かる。だが、それ以上に道は続く。

 泣きたくなってくるぜ。


 男二人、誰かに追われながら。

 漫画のような光景なのかもしれないが、漫画のように二人気持ちの良い笑顔ではないし、わくわくもしない。一体あのコマのキャラクターはどんな事を考えて笑顔になっていたのだろうか。

 

 

 「おい乾っ!!」

 山口がいきなり叫ぶので、乾はひっっと変な声をだしてしまった。それでも山口がからかってこないのに不気味なものを感じてしまう。

 「な、なんだよ驚かしやがって」

 「あれ」指をさす方向には三人の人影がある。


 別に人がどうしたと言おうとしたが、点滅していた街灯がその影を照らしたときに、血の気が引いていくのがわかった。

 白色にも見える金色の髪に、暗闇でもはっきりと分かる金の瞳。隣りにいるのはその手下だろうか。

 長身のゴリラのような肉体の男と、それとは反対にひょろとした眼鏡の男。

 

 

 乾の頭の中では、やっぱりついていないとため息をついていた。


 「逃げれるか?」隣の山口に乾はささやく。

 「無理。こんだけ歩いたのに、走れってお前は言うのか?」

 「だな」


 疲れてその場で立っている俺ら二人とは違い、目の前は三人はこちらにすたすたと歩いてくる。

 隣では降参と手を挙げている。まあ第一そんなことで許してもらえる相手ならそのような手足にはならないだろうに。

 

 三人はつかつかと歩いてきた。 


 「ちなみにどちらが爪を?」

 「ゴリラ。あいつ爪を剥がす瞬間を見せるためにわざわざ目隠しを取るんだぜ」

 山口は恨みを込めたように吐く。

 

 どうやらその声はゴリラにも聞こえていたようでその強面を崩した。

 「そっちのあんちゃんにはなかなか楽しませてもらったよ。お前も今のうちにある爪をしっかり見ておいたほうがいい」

 その声も見た目通りに低く、どっしりとした声。怒鳴れば恐ろしくて子供であれば泣いてしまいそうだ。

 

 言い方であり、声色であり、何もかもが自信に満ち溢れいており、こちらを見下している。

 確かにこちらには不理な状況であるのは確かだ。山口の負傷、そして魔術が苦手な人間。

 相手がどのような力を持っているのかはわからない。だが相手には山口がどのようなことをするのかまで見透かされている。

 

 情報、そして実力ともに相手に勝っているところは見当たらない。


 「まるで俺の爪まで剥がすつもりみたいじゃないか」精一杯強がりで乾は言ってみるが、目の前の男はニヤけ、

 「ゆるい大学生にはわからなかったかな?」と返した。



 「ゴリラ語がムズすぎるんだ」煽るかのように山口は突然口を挟む。

 「殺すぞ糞が」ゴリラという単語でブチギレるところがゴリラだった。

 

 ゴリラは襲いかかるように拳を振り上げてこちらを振り上げてこちらに歩いてくる。しかし少女、いや女性の待てという言葉で冷静になったのか、その拳を下ろした。まるで飼いならされている猛獣ではないか。

 

 「飼い主は頭がいいようだ」馬鹿にするようにケッケラ笑いながら山口は指をさす。

 それでも女性の命令には逆らえないようで、拳を握りしめているだけであった。


 「ねぇ、あなた。この前に遊園地であったあなた」

 乾は自分を指す。それをみて少女、いや女性は小さく頷く。

 凛とした可愛らしい声だが、熱がこもっていないかのようで冷たかった。


 「誘拐して、なんのようだ」

 「私は見えない相手のことを知りたかっただけなの。だからその隣の人みたいにはなっていないでしょ?」

 「確かに。俺みたいになっていないわな」隣で大きく山口が頷く。

 

 

 「それで見えない理由でもわかったのか?」 

 「いえ。何をしても駄目だったわ。本当になにか、妨害の魔術、いや魔法でも使っているのじゃないの?」

 

 何をしてもって、一体何をしたんだ?と疑問はかんだもののそれを聞かなかったのは、何も知らなければ何もされていないのと変わらない、からだ。


 「なら見えないってことでいいじゃないか。もう気は済んだのだろう?」

 「この魔眼に不可視はないの。わかる?」

 

 全て見通せる魔眼に、見通せないものがあるという矛盾。

 それが彼女、そして教団には大きな意味を持つのかもしれない。

 


 「つまり見えない俺が邪魔というわけか」

 「ええ。そういうことなの」


 つまり俺を殺し見えない人間を消そうというつもりなのか。

 って俺が殺される?

 

 「よし。山口、いい作戦が思いついた」

 「知っているか乾。作戦というのは相手に知られてはいけないものだ。なのになぜ相手がそこにいるというのに、そのことを言うんだ?丸聞こえじゃないか」

 「作戦が思いついたところで、それを仲間に伝えなかったらそれこそ作戦が実行できないだろう?それにこの作戦は聞こえても問題ない」

 

 「ほう、それほどすごい作戦なら聞いてみたいな」 

 ゴリラが口を挟む。戦闘準備のように筋肉を鳴らしながらほぐしている。

 となりの眼鏡は街灯の光を不敵に反射させている。


 「彼女は俺を殺そうとしている。そうだな?」

 「ああ。間違いない」山口は大きく頷いた。

 「俺が逃げれば山口が助かるってわけだ」

 「なるほど。それ、俺を置いて逃げるってわけじゃないよな?」

 「ぜんぜん違う。俺が囮になってお前が生き残るってわけだ」


 置いて逃げる、と囮になるのは大きく意味が違いすぎる。

 まるで俺が足手まといの怪我人を置いていくみたいじゃないか。失礼な奴め。

 

 「そんなことさせないがな」ゴリラが口を挟む。まいどまいど挟むのはこいつだ。「教祖様がそんなこと見抜く」


 ゴリラはどうやら教祖様に心酔しているようで、言い切る。確かに全てを見抜けるという異能を持って、山口が言っていたようなカリスマ性があればそうなってしまうものなのか?

 

 「だろうな。しかし、ここで来れたのは山口を見てきたのだろう?なら俺だけなら逃げれる」


 山口の未来を見えたとするなら、ここに来るということまでわかり、ここまでこれたのだろう。ついてきたのではなく、先読みをした。

 もし俺が見えないとするのであれば、山口と一緒に居なければ逃げ切れるに違いない。


 「おい、おいおい。それじゃあ俺はどうするんだ?」

 「しらないな。お得意の魔術で逃げてくれ」

 

 

 「でも殺さない手はある。君が私の味方になればいいの」これまで黙っていた女性が話す。「見えない相手が味方なら、別に問題ないでしょ?」

 

 「それは味方にならなければ殺すって言っているようじゃないか」

 「そう言っているの。見えない相手が味方なら問題ないでしょ?それに組織としても、なんでも見通せる魔眼持ちと、その魔眼ですら見通せない魔術師という大きな力の存在にもなれる。良い考えでしょ?」


 「それはそうかもな」

 一番それが安全で、平和的な解決なのかもしれない。

 

 「それは俺が組織に手を貸すことになる。だがお前らの考えもあまり納得できていないし、何より胡散臭い組織に関わりたくない」

 「なら敵対するということですね」

 「ま、待て、敵対する気もない。不干渉で行きたいという意味なんだ」


 彼女は納得出来ないような表情をした。

 まるで味方以外は敵としか考えていないかのようだ。


 乾には今にも横の二人にやれ、と命令するのではないかとびくびくしていた。

 隣の山口にはめらめらと怨恨の炎が燃えるかのごとく、やる気になっており、今のうちにできることはしようと足元に血で陣を書いている。

 暗いため詳細は見ることはできないが、これは相手にも見破られないだろう。


 暫くの間睨み合っていた。

 少女は考えているに違いない。不干渉がどういう意味を持つか。


 「不干渉。でも私が見えないというのは変わりない」そしてその言葉を口にする「やって」

 「「承知」」ゴリラと眼鏡が同時に返事をした。


 くそ、やはりこうなるのか。

 乾は覚悟を決め、山口に書いてもらった背中の血の陣に魔力を込めながら身構えた。

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