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第四話 妖艶に輝く双眸

 目の前の謎の少女に乾はどうすればいいのかと悩んだ。先程お前は誰だよと言ってしまったが、その答えは返ってこない。


 このままいるわけにもならない。出来るなら華が花摘みから返ってくるまでに事態を収拾しておかなければならない。浮気を疑われたり、華に先程受けた痛みを受けられたくない。せっかくのデートでこんなことは絶対避けなくては。

 

 それにしてもさっきの見られた瞬間に全身を襲った激痛は何だったのか、そしてバチッという音はなんだ。

 分かることは目の前の少女はこの遊園地で楽しんでいる人たちとは、存在が異なるということだけだ。

 

 まるで周りの人たちがいなくなったような錯覚に陥る。世界から色彩が消えた気がした。

 目の前の少女は、何か信じられないかのような表情を浮かべたままだ。一体何で驚いているのか。


 スマホが震えた。画面に視線を落とす。山口からだ。

 「いますぐにげろ」その文章は慌てて書いたために変換は一つもされていなかったが、それが何より危険なのかを示しているかのようであった。


 逃げたいのは俺もだが、こちらには華がいる。おいて逃げるわけにもいかない。

 今何が出来るだろうか。逃げ出すことは出来るが、トイレから出てきた華を連れて一緒に逃げる。幸い遊園地は人の区別もつかないほどに人が多いため、紛れ込むことも出来るだろう。

 

 隣の少女を見る。どうやらこちらを見ていたようで、目があってしまった。


 だがこちらを見ているというより、乾の向こう側を見ようとしているように目を開いているため、一体この少女は何をしているのだろうかと乾も頭を悩ませる。山口が逃げろという理由がいまいち理解できなくなっていた。先程の激痛は確かに気を失いそうになるほどの痛みであったが、いま見られてもあれ程の痛みはなく、ただ見られているだけでしか無い。こうなってしまえば相手の視界をくらませる魔術を駆使して逃げるなどの方法を使う必要が無いようにも思える。

 

 少女は瞬きをすることなく、ずっとこちらを見ている。

 「な、なんのようでしょうか......?」

 「見えないの」少女は感情がないように棒読みで答える。

 「見えない?」

 「そう見えない。まるで後ろから目を手で隠されているかのように見えないの」

 「誰も目を隠してはいないですけれど......」

 「そんなことぐらいわかってる。比喩ってものを知らないの」罵られるのも棒読み。こいつは冗談っていうものを知らないのだろうか。

 

 「病院行ったほうだいいんじゃないですか?目って行きていく上で非常に大切なものですから」

 少女は首を振る。「君だけが見えないの。他の人はいつものとおり見えているんだけれど。君何かやってる?」

 なにそれ、新手のいじめだろうか。


 「やってる?って何もしていないですけれど。それよりもうそろそろ彼女が戻ってくるので帰っていただけないでしょうか」


 こんな言い方で本当に返ってくれるのだろうか。これまで小説や漫画でこういうシーンは何度も見てみたが、大概がややこしい方向にへと進んでいくものだ。それでもそう言ってみたのは、もしかしたらこの少女なら返ってくれるのではないだろうかと思ったからであった。願うように乾は息を止める。


 すると少女は「え、あデート中でしたか。それは失礼しました」とベンチから立ち上がり、少女はこちらに向きペコリと頭を下げた。そしてそのまま行ってしまう。


 頭の中では何かしら因縁をつけられ、戦闘になるかもしれないと覚悟をしていたのだが、これほどあっさり行き過ぎるとこちらが呆気を取られてしまう。


 乾はそのまま少女が見えなくなるまで目で追った。周りの人とは簡単に区別がつくほど異質な存在。あれは天使、いや悪魔。

 

 「あれ、乾くんどうしたの?」戻ってきた華は言う。

 その声で乾は意識が戻った気がした。もうあの少女は何処かに消えていた。そしてあの魔法陣も。

 

さっきまで見ていたのは夢であったのだろうか。そう疑いたくなるが、山口に送った魔法陣の写真とメッセージはそのままであった。


 あの少女は何だったのか。魔法陣はいつの間に消えたのだろうか。しかしそんなことは後ででもいいだろう。今は華とのデートの続きだ。


 「あ、ああ。なんかジェットコースター見てて目が回ったみたい」

 「少し休む?」

 「いや大丈夫。次何乗る?」

 乾は彼女の手を取り、歩き出す。手には確かに彼女の体温が感じられ、肩が触れるほど近づけば微かに彼女の吐息が聞こえる。


 大丈夫。彼女にはなにも起きていない。このぬくもりを大切にするように、大切に優しく包み込む。

 


 ***************


 地下鉄の落書きを眺める。もうすぐ環状線の全てにこの落書きが出来る。その後なにが起きるかは山口は未だわからなかった。


 丹念にその落書きを見ていく。描かれたのはこれまでと変わらず、そして真ん中の魔法陣にも似たものは他の色とは異なり白と決まっている。そして他の色はスプレーに対し、この白は筆で描かれたものだ。


 環状線内のこの落書きがつながることによってなにかが起こるのでは、と一度地図で線を引いたりしてみて確認してみたところ出来上がるのは適当な形だ。


 つまりこの中に少しずつ点を作っていくつもりなのか。もしそうであれば相当な量を描かなくてはならなくなってくる。それほどの苦労をこの落書き魔はする気なのか。

 

 下がってきたメガネをくいっと上げる。

 そのタイミングでスマホが鳴った。そして一通のメッセージに山口は驚愕した。


 話しによればこの時間帯はデート中である乾からのメッセージだったため、デートに何か困ったことが起きたのだろうかなんて楽観的にその画面を開いたのだが、その送られてきた写真に目を見開く。これまで調べていた落書きとは異なる本物の魔法陣がそこには描かれていた。


 考えるよりも先に指先が画面を動く。変換する時間も惜しくなる。意味自体が通じたらいい。

 そして送ったあと山口は走り出した。


 今いるところは遊園地からはかなりの距離がある。近くで煙草を吸って休憩していたタクシードライバーに声を掛け、急いで車を出してもらう。

 「お客さん、いきなりどうされたのですか?デートの時間に間に合わないとか」

 呑気に言うタクシードライバーを睨みつける。だが彼には悪意がないのはわかっていた。

 「そんなとこ。とにかく急いでいるわけ。それが彼女は時間にかなり厳しく、少しでも待たせると一日中拗ねちゃって」 

 「大変ですねぇ、女性が拗ねると機嫌を治してもらうのは相当苦労しますし」

 「わかります?」


 山口はドライバーのくだらない会話をしながら、ショルダーバッグの中に入っている手札を見る。

 明らかに決め手を欠けるものばかり。日常使いを重視していたため、戦闘になることを考慮していなかった。

 ちぃ、これで対面しなくてはいけないのか。山口は心の中で毒づく。

 ここで作れるのは限られている。今は車内で揺れもある。

 

 「あれは若い頃だった.....」

 自分の昔に浸り始めたドライバーは無視して手札を増やしてく。

 全て見破られているのは、最初からわかっている。どうやって不意を付くかだ。

 山口は考えながら紙ににすらすらと筆ペンを走らせていった。

 

 ったく、乾のやつもついていない。

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