第十八話 祟り神
「後は面談室に連れてかれて、言い当てられたわけだ」
「それで入信?」
「そうだ。もう俺が魔眼目当てだということまで、見通し。んで、魔眼のことを調べるぐらいなら私には問題無いことだからと色々調べさせてもらったさ。あれは確実な魔眼だったぜ。目に魔力が通じていて、仕組みはしっかりとは解明することはできなかったものの、面白いものが見れた。ああ、もちろん自白魔術は使って調べたぜ。だが彼女は3年前ぐらいに、突然魔眼が開眼したぐらいしか彼女自身理解していない」
つらつらと自分の出来事を話す錦は饒舌であった。そして話は、錦が入信した話ではなく、錦が調べた魔眼の話へと変わっていっていた。
「3年前、というといろいろあっただろう?特に祟り神とか、お役所ストライキとか」
「祟り神、お役所ストライキ?」乾は首を傾げる。お役所ストライキって語呂が良い気がする。
いろいろあったと錦は言っていたが、その覚えが全く無い。初めて聞いた。
「知らないのか?お役所ストライキは違うが、祟り神はテレビ放送にも出ていたぜ。特番なんて組んだりしてな。偉そげな教授たちが的はずれなことばかり言うのだから笑いが止まらなかったぜ。何処かのアニメ映画に出てきたものを彷彿させるとか、小学生の好みそうなオカルト話みたいだとか。それをまともな大人が討論し合うのだからな」
「それは面白そうだが、知らない」
「まじかよ。どういう生活をしていたら知らずに入れたのかが不思議だぜ。まあ話に戻るとしよう。教祖の話を聞いていたら、その魔眼が開眼した時期が祟り神が消えた時期と一致している」
「つまりその祟り神とやらが教祖の正体っていいたいのか?」
「いや、そうじゃない。というか祟り神を知らないんだったな」
錦は祟り神について話し始めた。乾はこの時点で錦の熱弁を聞いていて彼には敵ではないと確信していた。教祖の信者だったら魔眼のことをここまで教えるとは思わないだろう。
事の発端は、噂話であった。夜の4時に黒いモヤッとしたものを身に纏った幽霊がでるという、小学生が言いそうな噂だ。まだその時は祟り神といった大層なものではなかったらしい。祟り神となったのは噂が伝染していくうちに、伝言ゲームのように、噂は人が怖がるように盛られ、最終的には全ての穢を受け止める神として伝えられるようになった。
「祟り神でも、手厚く祀り上げることで守護神にもなるんだろう?」有名な大宰府の菅原道真公の話がそうだった。
「本来はな。だけどそれは噂で作られたものであり、本当の神じゃない。都市伝説の架空の存在さ」
都市伝説は認知されることにより力が増していくというのは、よくある話だ。都市伝説や怪異、そして存在しないものですら。
「それでも、都市伝説ぐらいでテレビに出るほどになるのか?眉唾ものをおおっぴらに出しても視聴率は稼げないだろうに」
錦は首を横にふる。「話はここからだぜ」
テレビに出るほど災厄へ至るのはそう時間はかからなかった。
噂が噂を呼びそして認知を広げ続けた祟り神に穢を受け止めきれくなり、この辺りに災いをもたらし始めたという。乾燥した風が吹く冬に大火災、そして病を患う人が増え、謎の通り魔の出現。全く都市伝説と関係が無いことですら、祟り神によるものとすることでその力を増していっていた。
祟り神の力は増していく。そしてそれを聞きつけたテレビが美味しいと思い、表沙汰にしてしまう。
「それで?」
「それがあっさり終わっちまった。役所の出番だ」
精鋭部隊がその祟り神の穢を払った。
「それだけ?」
「ああ。全国にまで知り渡った祟り神様も、お役所にかかれば一日で消滅。それでお役所は問題を解決し、さらにその力を見せつけたと」
ここまで祟り神について聞いてみたが、信じられないな。そんな大事になっていたのであれば、知っていてもおかしくない。錦が知らない俺に対して驚くわけだ。 そしてお役所が祟り神を祓って終わらしたというのも信じられない。全国レベルに知れ渡った都市伝説を、一日で祓えるわけがない。乾には何をしたのか全く見当がつかない。
そしてなぜ役所はここまで大事になるまで動かなかったのか。本来テレビに出されるのを阻止したり、噂が広まらないようネットの掲示板などを削除したり出来だだろうに。錦が言うように力を見せつけたかったなんて理由はあるのだろうか。
話を聞いて乾には逆に疑問ばかりが浮かんでくる。
ん?なにか忘れているような......。「ああ、錦、それで魔眼と何の関係が?」
「その膨大なる魔力に感化されて魔眼が開眼したんじゃないかと思ってさ」
時期的にはあっているのかもしれないが、それは偶然では?と思ったが言わないでおく。
例え偶然だとしても、それが魔眼を開眼させる理由だとは十二分に考えられる。
「そういう考えもできるな」乾は小さくうなずいた。
「ここまで話を聞いて俺が神の目に入った理由がわかっただろ」
「まあ」先程と変わらず曖昧な返事だが、もう懐疑の念はなかった。
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「まじかぁ」
二人はまだ教室で話し続ける。だが席は後ろに下がっており、教壇には先生が何やらを話していた。つまりサボりだ、授業に出ているだけましだ。まあこうやって教室で話しているのは、席を外してレストランやカフェに行って話すよりも安全なのだ。それに単位がもらえてお得。
この授業は乾は特に興味がない分野であるため、特に罪悪感も無く話すことが出来たのだった。
乾は錦は信用できる人間だと思い、魔眼の持ち主にして神の目の教祖渡辺には、どうやら自分を見通すことが出来ないことを告げた。これを知っているのは乾、山口、錦。そして神の目の渡辺、溝渕、上原ぐらいだろう。
そんな驚いた様子ではなかったものの、その矛盾にはう〜んと頭を唸った。
「見えないっていうのは、透明にか?」
「本人曰く真っ黒らしい」
「腹黒だからじゃないのかい?」錦は冗談めかして言う。「だが、真っ黒というのはどうなんだ?まるでお前が死んでいるようだな」
そんなふうには考えたことはなかった。もし渡辺が全てではなく、生きている、または情報があるものであれば見通せるのなら。残念だけれど俺は死んでいないけれど。
「死んでいる、かぁ。なら俺は一体何なんだろうな」
「決まっているさ、ゆーれい」
「じゃあまずはお前から取り付いてやる。15股ぐらいして修羅場に成ってから体は返してやるから安心しろ」
「15は怖いな」そんな風に言っているが、錦は余裕そうだった。きっとその修羅場を潜り抜けたことがあるに違いない。
閑話休題
「んで乾はようやく大学に来れるようになったと。大層な冒険譚だな」錦は羨望の目を向ける。一体どこに羨ましがるところがどこにあるというのか。
魔術師は非日常に憧れる。まあそれは人間なら誰しもが憧れることだろう。
だが魔術師の場合は少し意味合いが異なる。そう修練を積んだ魔術を使いたいのだ。大体こんな日本に住んでいるのだから派手な魔術を使う機会なんてありゃしないし、使えたとしても細々とした捜し物を見つけ出したりなどばかりだ。その気持は乾はわからない。
「本当に酷い目にあった」乾はため息を付きながら言う。それはそうだろう、ボコボコにされたのだから。それに酷いトラウマを植え付けられた。
「それにしても乾も大変だなぁ。俺なんて女に追い回されるぐらいだし」
「そっちのほうが羨ましいに決まっている」乾は即答した。「むさ苦しいゴリラみたいな男に追われるよりな」
少し雑談で盛り上がりすぎたからか、声のボリュームが上がっていたみたいだ。真面目に話を聞こうとしている人間に睨まれていた。乾は頭を下げるが睨まれているままだったが女子であったため錦がバチコーンとウィンクすれば直ぐ黄色い悲鳴に変わる。それを確認してまた錦は話し始める。
「なんかあったら俺に声をかけろよ〜。面白いことは直ぐに駆けつけるからな」
「頼もしいな。全く戦闘系でもないくせに」
「うるせ。でも確かに言えるのはお前らより女の子の的には有効的だぜ」
「それ自分で言うのかぁ。まあなんかあったら言うさ」
溝渕に対してはこいつを出そう。そう決めた。まあ敵対することはもうないだろうが。
錦と話が終わってしまえば乾はこの授業に出ている意味はなかった。リュックに荷物を片付け席を立とうとする。そのときに「あ、そういえば」と錦は思い出したかのように言った。
「おまえに用があったから話しかけに来たんだったな」
「用?」
「合コンに数合わせに来てくれねぇか?」
「行くかどアホ」




