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魔法が当たり前となった現代で魔法使いを教育する学園に入学する事になった。  作者: 伊基 夕霧
第1章──禁書図書館《グリモ・アーカイブ》編──
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7話──ある意味、お約束

次の日に投稿しようと思ったら日にち間違ってた。

次からはちゃんと投稿するよ!

「うおぉぉ、こりゃすげーな」


 目の前の光景に俺は思わず感嘆の声が漏れる。

 湯気に包まれた世界に様々な種類の湯船が置かれ、その広さはまさに大浴場と呼ぶに相応しい。

 なんか、どこかの宮殿にでもお呼ばれしたかのような豪華さであった。


「なはは、そうだろうそうだろう。今までこんな立派な浴場を使ってなかったなんて、勿体ねぇにも程があるぜ」

「そうだな。たしかにこりゃ勿体なかったな」


 素直に頷くしかない。これだけ立派な大浴場を、今まで利用しなかった事が悔やまれる。それだけ、ここの大浴場は素晴らしいものだったから。

 誘ってくれた謙誠には感謝だな。たしかに今の時間帯は俺たち以外の人は少なくて、奇異の視線で見られる事もない。


「というかよぉ蓮夏、お前さんはいつまで縮こまってんだよ?」


 謙誠が視線を後ろにやると、蓮夏は恥ずかしそうにタオルで前を隠しておどおどとしていた。

 相変わらず蓮夏の体は男にしては線が細く、少しの事でも折れてしまいそうだ。

 男にしては華奢なな体つきに、小学生時代によく女の子に間違われた事を思い出した。ちなみに、その話を持ち出すと蓮夏は凄く怒る。仕返しとして俺の恥ずかしい記憶を暴露するので、話のネタにしないようにしている。


「だって、やっぱり恥ずかしいよぉ」

「情けねぇな。男なら堂々と真っ裸だろうよ。細い体の割に、立派なナニ(・・)持ってるんだしよ」

「謙誠くんったら下品だよ!」

「なっはっは!」


 下ネタに抵抗のない蓮夏は、謙誠の下世話な話に顔を真っ赤に染め上げて、その反応が面白くて謙誠は笑う。

 高校生にもなってこういった話が全く苦手な蓮夏もそうだが、人が少なく男しかいないけど大衆の面前で下ネタをかます謙誠も相当だな。それは、それぞれの様子で見て分かる。


 蓮夏は胸の辺りでタオルを握って前を隠し、謙誠は肩にタオルをかけて自信満々にぶら下げている。

 俺は腰にタオルを巻いているだけ。この中で一番普通だと思う。


「おいおい、ずっとここで話していると体が冷めちゃうぞ。早く湯船に入ろうぜ」

「まあ待てよ熾隼。折角の大浴場に来たんだから、俺のとびきりを案内してやるよ」


 そう言って、謙誠は浴場内にある数々の風呂を無視して、外へ続いているドアを開け放った。外からは涼しい夜風が入り込むけど、構わず謙誠は外に出る。

 俺と蓮夏も続いて外に出たら、そこには水面から白い湯気を昇らせていた露天風呂があった。


「どうだ野郎ども、中々なモンだろう」

「そうだな。たしかにこりゃ自慢もしたくなるな」

「謙誠くんが作ったわけじゃないけど、本当だね」


 石で積み上げられた純和風とした露天風呂を見て、俺と蓮夏はそれぞれ感嘆の声を漏らす。

 まるで日本庭園に迷い込んだかのような造りもそうだが、真っ暗な夜に輝く臨海都市の明かりがとても綺麗だった。地上で限りなく輝き続けるその光景は、宝石を散りばめた宝箱のような絶景だ。


 俺たちはその絶景を眺めながら、肩まで湯船に浸かる。

 体の芯から温まってくる感覚に心地良さを感じ、俺は深く息を吐き出した。


「んぅ……気持ち良いな」

「ふみゅ……本当だねぇ」

「あとはここに飲み物があれば文句なしだが、生憎とここは飲食禁止なんだよな」

「お前、大人になったら絶対飲んだくれになるだろうな」

「なっはっは!」


 ったく、謙誠の奴、大人になったら絶対浴びる程酒を飲むだろうな。今から不健康思考な奴だ。

 そんな謙誠を横目に見つつ、俺は疲労を蓄積した息を吐き出す。

 本当に気持ち良いのう。


「気に入っただろ? 俺も魔法とか使って疲れた時は、よくこの露天風呂に浸かるんだ。魔法は肉体と精神を酷使するからな、ここはその両方を回復するのにうってつけなんだ」

「たしかに、お前も今日は頑張っていたからな。というか、エヴァと協力してたらもっと上手くできただろ?」


 俺の場合、琴理の共感魔術やバックアップで支えてくれてたからこそ、未熟で素人な俺でも狼崎先生を相手にあそこまで立ち回る事ができた。

 けど謙誠とエヴァは違う。少なくとも俺のような素人でもないし、その実力は俺よりも確実に上だと思っている。

 その二人が俺と琴理と同じ共感魔術を使用して協力すれば、間違いなく狼崎先生を追い詰めていた。よく喧嘩しているからこそ互いの動きもよく知っているし、即席のコンビを組んだ俺と琴理よりも上手く連携できただろう。


「冗談はよしてくれよ。あいつとは決着をつける相手であって、決して協力する相手じゃねぇ。相手が例え"賢狼"であってもな」

「そうだろうな。一つ訊くけど、なんでエヴァとあそこまで仲が悪いんだよ? 親の仇でもあるまいし」

「んー……なんて言ったらいいかな。俺とあいつは、まあ色々と複雑なんだよ。話すと長くなるけど、いいか?」


 構わない。その意味を込めて俺は頷いた。

 すると謙誠は、アゴに手を当ててうんうんと唸りながら逡巡する。一つ一つ、大事に言葉を選ぶように。


「お前たちにも言ったけど、俺とエヴァは古くからある魔法使いの家系でな。魔法使いとしての実力もそうだが、まあ金とか権力とか色々持ってるわけよ」

「そういえば言っていたな、そんな事。言われるまで気付かなかったけど」

「え、熾隼くん知らなかったの? 謙誠くんの家って、世界でも有名なあの富士杉財閥なんだよ。エヴァさんの家だって、ロシア中の魔法使いを束ねる程なんだから」

「マジで? ていうかなんで蓮夏は知ってるんだよ?」

「皆知ってるよ。ニュースぐらい観なさい熾隼くん」


 うへぇ、ニュースか。ニュースとか観てると眠くなってくるから苦手なんだよな。魔王学院に行く支度の最中に朝のニュースを聞き流しているだけだ。真剣に聞いていると間違いなく二度寝しちまう。

 ちなみに新聞とかはもっと無理だ。あの活字のせいで、眠気を通り越して頭が痛くなってくる。


 でも、高校生にでもなってそれじゃダメだよな。これからは我慢してニュースでも観てみるか。


「話を戻すけどよ、俺とエヴァはその名家の生まれでな、しかもどの歴代の当主たちよりも力を持っていたんだ。星触者のお前を除けば、同年代で俺たちに勝る才を持つ奴はいなかった。俺たちはずっと"特別"だったんだ。ずっと、俺とあいつは自分が一番だと思っていた。けど、俺はエヴァに、あいつは俺に会った」


 当時を思い出したのか、謙誠はくっくと喉を鳴らした。それがとても面白かったのか、謙誠は待ち侘びた誕生日プレゼントを貰った子供のような純粋な笑みを浮かべた。酷く、面白いといった表情だった。


「今まで一番だと思っていたのに、俺と匹敵するかもしれない奴が現れたんだ。あいつの前じゃ絶対に言わねぇけどよ、俺たちは互いに似た者同士でな。だから俺はエヴァに、エヴァは俺に勝ってみたいんだ。勝てばその先に、見た事のない景色があると思ってるんだ」


 とびきりの笑顔で、そう語ってみせる謙誠。まるで見た事のない場所へ冒険しようとする子供のようだ。

 きっと、あいつらにとって互いは同じ標高の山なんだろう。その高い標高で常に眼下を見下ろしていたけど、そこで出会ってしまったのが同じ標高の山であるエヴァであり、謙誠だったんだろう。

 だから謙誠とエヴァは、同じ標高の山である互いを超えてみせたいんだろう。その先にあるであろう、更なる景色を見たいがために。


「……お前ら、やっぱり良いライバルじゃないか」

「ライバルじゃねぇっての! 俺はあいつより既に強いっていうか……あいつが俺に突っかかってくるっていうか……とにかくそんな感じなんだ!」


 こいつ、本当に素直じゃないんだな。そういうのを世間じゃライバルっていうんだよ。

 でも、それを言ったって謙誠は納得しないだろうな。もちろんエヴァも。

 この二人、どうしようもない程に似た者同士だな。けど第三者として見ている分には、そんな関係も羨ましいと思ってしまう。

 そっぽを向く謙誠を見て、つい笑みが零れる。


「ったく、お前のせいで興が醒めちまったぜ。おい熾隼、ちょっと付き合えよ」

「謙誠、壁に耳を当てて何してんだよ?」

「ここの隣は女子の露天風呂なんだぜ? やる事は決まってるだろうがよ。……お、この時間でも何人かはいるようだな」


 こいつ、バカだ。本当にバカだ。こんなに堂々と女子の風呂を覗き見ようなんてする輩は、今まで会った事もない。

 謙誠は竹の壁に耳を当てると、向こう側にいる女子の声を聞いて興奮していた。


「やめろよ謙誠、バレたらヤバイって」

「なんだよビビってんのか? 情けない奴だな」

「情けないとかそういう問題じゃないだろ。いいから早く離れろよ」

「おいっ、熾隼お前、邪魔すんじゃねぇよ!」

「僕しーらない」


 もしこれで謙誠の所業が露見して、俺にまでいらない悪評が寄ってきたら堪らない。

 ただでさえ星触者として周りから奇異の視線を向けられているのに、これで女子風呂を覗いたとか冤罪を被せられて女子たちから嫌悪の視線まで向けられたら堪ったものじゃない。

 誰でも、嫌われて良い気持ちはしない。


 竹の壁の隙間から女子風呂を覗こうとしている謙誠の肩を掴んで、なんとか離そうとするけど謙誠も抵抗をしてきやがる。

 そんな感じで謙誠と取っ組み合いをしていると、壁の向こう側から不穏な空気が伝わってきた。


「──〈冷たい牙〉ハロードヌィ・クルィーク


 聞き覚えのある凛とした声が響いたかと思うと、竹の壁は白い煙をあげて爆ぜた。そして猛烈な冷気が襲ってくる。


「うお!?」

「おわ!?」

「わう!?」


 突然の爆発に驚き、三者三様の反応を見せる。

 特に壁から近かった俺と謙誠は、石の床の上に尻餅をつく事となった。

 何事かと思い思考を巡らしている間に、白い煙は夜風に運ばれて消えるのだが、その煙が晴れた光景に俺の思考はストップした。


「え……あ、あ……エヴァに、琴理……」


 男風呂と同じ外観をしている露天風呂。だけどそこにいるのは、二人の女性。しかも良いのか悪いのか、二人は俺の知っている人物であった。

 この学院で知り合った、琴理とエヴァ。けどここは風呂場であって、二人も当然な事に裸である。


 特にエヴァの体は、目に宜しくなかった。

 真っ白な白磁の肌に、日本人離れした抜群のプロポーション。服の上からでもそのスタイルの良さは分かっていたのに、脱げばもっと凄かった。

 しかもそのボディを隠そうともせずに立っているのだから、非常に目に宜しくないわけで俺の顔は一気に熱くなる。


 それとは逆に、琴理のプロポーションは年相応と呼ぶには少し大人しくて、湯船に使って肩を抱いて隠している。


「おいなんだよ、エヴァに琴理じゃねぇか。こっちは期待してたってのに、ガッカリだぜ」

「ほう? 私の裸体を見ておきながら、そのような言い草を放つのか、謙誠」

「お前の裸なぞ見たって興奮なんざしねぇよ。琴理は……まだ色気が足りねぇな」


 だというのに、謙誠はいたって冷静で、二人を見比べていた。こいつ、なんだかんだで大物になりそうだよな。

 そして、惜し気もなくその魅惑的な体を晒していても全く動じていないエヴァも。

 というか、謙誠もエヴァも何か体に巻けよ。お互いすっぽんぽんだぞ。


「しかし、このような馬鹿げた行為に熾隼も加担していたとはな。少し幻滅したぞ」

「え? いやいやいや! 俺だって謙誠を止めようと──」

「御堂さんの……」

「はえ?」


 エヴァにかけられた冤罪を必死で晴らそうとしていると、ずっと機能を停止させていた琴理が再起動した。

 俯いていた表情は窺えないし、その声は小さく聞き取りにくかった。

 けど、なんだか良くない感じだけは伝わってくる。


「御堂さんの、ばか……」

「えっ」


 琴理が顔を上げると、目尻にはうるうると涙が溜まっている。顔も恥ずかしさで真っ赤に染め上げて、その視線はキッと俺を睨んでいる。

 周囲の風は琴理に集い、なんだか嫌な予感が全速力でやってくる。というか完全に誤解されている。


 弁明を頼もうにも、謙誠とエヴァは二人で言い争いをしているし、蓮夏にいたっては壁が爆発した際に飛んできた竹の破片が頭に直撃して目を渦巻きにして気絶している。


 この現状、非常にマズイ。ただでさえこの状況は誤解をされやすいというのに、誰も俺の無罪を証明してくれる者がいない。


「あのぉ……ですね、琴理さん? きっとあなたは勘違いをされていると思うんですよ? 俺は謙誠を止めようと頑張っ──」

「御堂さんの、ばかぁぁぁ!!」

「なんでこうなるのぉぉぉ!?」


 琴理の悲鳴と共に、強烈な風が俺に襲いかかる。

 俺の必死の訴えも聞き入れてもらえず、俺は強風に巻き上げられて漆黒の夜空に舞ったのだった。


 夜空に、悲痛な俺の叫びは虚しく響いた。

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