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魔法が当たり前となった現代で魔法使いを教育する学園に入学する事になった。  作者: 伊基 夕霧
第1章──禁書図書館《グリモ・アーカイブ》編──
5/14

5話──共感魔術

今日はこれで終わり

明日からは1話ずつ投稿します。

「──最後だ、熾隼と鶴貴、前へ」


 謙誠とエヴァが狼崎先生と戦って敗北した以降も、狼崎先生と生徒との手合わせは行われた。

 結果から言うと、謙誠とエヴァ以上の生徒はいなかった。善戦した生徒もいたけど、狼崎先生を相手にしては何もできなかった。

 いや、五紡星である狼崎先生に一撃を与えた謙誠とエヴァが凄いのだろう。魔央学園最強の生徒の、面目躍如といったところか。

 そして最後に俺と琴理の名前が呼ばれたわけだが、緊張しないと言ったら嘘になるな。


「御堂さん、大丈夫ですか?」

「んー、ちょっと緊張してる。悪いな琴理、こんな初心者と一緒で」

「大丈夫ですよ。ランクだけならこのクラスでは私が一番ですけど、例えそこに富士杉さんとブリュハノフさんが加わっても狼崎先生には勝てませんよ」


 琴理は冷静に、狼崎先生との戦力差を分析する。やっぱり五紡星を相手に、俺たちのような学生が勝てるわけないか。

 でもまあ、俺も素直に諦めるような性格はしていない。

 星霊器に、猛々しい火を灯した。


「二人とも準備は整ったようだな。合図はいらないから、いつでもかかってこい」

「胸を借りるつもりでいきますよ、狼崎先生。琴理、バックアップをお願いできるか?」

「ええ、お任せを」


 俺は足に力を込めて、一足飛びに駆ける。

 これも星触者としての力なのかは分からないが、俺は既に魔法という力の扱い方を知っていた。まるで昔からそうであったかのように。

 俺は言葉を紡ぐ。イメージするは、猛々しく燃ゆる刃。


〈火剣〉(ヒケン)!」


 赤々と燃える刃を、狼崎先生に向かって振り下ろす。

 純粋な物理攻撃であれば、おそらく狼崎先生には効かない。だけど膨大な熱量ならば、狼崎先生の魔法といえど防ぎようがない。それこそ、俺の火を消すか熱を防ぐ壁を出さない限り。

 そして、狼崎先生ならば容易に防ぐだろう。


「ふむ、良い太刀筋だな。これならば私の魔法でも防ぎきれないだろうな」

「だから、魔術で対抗ってわけですか。堪りませんね」


 俺の刃は、やはり止められた。なにか強力な反発力によって。必死に力を込めても、押し返されてしまう。だけど星霊器に灯した火の熱で一矢報いれると思ったが、それは思い違いだった。


 俺の星霊器はいつしか水で覆われていて、火は呆気なく消されてしまった。どうやら狼崎先生が水流系の魔術を使ったようだな。

 そして俺の体には何人もの俺が積み重なったような重さがのしかかり、堪らず地面に膝をつく。


「ぐ……っ、やっぱり、狼崎先生の魔法は重力系でしたか。身動きができませんね」

「ほう、よく見抜いたな熾隼。お前の言う通り、私の魔法は重力や引力と、それらの類を支配する。引力を反転させれば、あらゆる物理攻撃を防ぐ事もできる。流石に、お前の火は防げないがな」

「それじゃあ、琴理の一撃はどうしますか?」

「──〈鏃風〉(やじりかぜ)!」


 俺の背後から、数多な風の鏃が降り注いだ。

 石礫を投げたかのような威力しかないが、それが数え切れない程の数量ならば堪ったものではない。

 狼崎先生を標的とした無数の風の鏃が押し寄せるが、狼崎先生は軽減した重力の中を軽やかに動いて回避した。


「御堂さん、大丈夫ですか?」

「ああ、まだ平気だ。にしても、お前の魔法も中々にエグいな」


 さっきまで狼崎先生がいた場所は、地面が抉り削られ小さなクレーターが出来上がっていた。もし標的が俺だと思うと、背筋がゾッとする。

 琴理の魔法は、風を自在に操る。圧縮された風ならば、狼崎先生の防御も破れるだろうと思っていたが、どうやら正解だったようだ。


 狼崎先生が、初めて動いた。

 謙誠とエヴァが一緒に挑んでも、一歩も動かなかった狼崎先生がだ。これは狼崎先生に一撃を与えたのと同じくらいの功績だな。


「流石は鶴貴家の現当主だな。一連の動きに無駄がないし、たったの一工程でこれだけの魔法を操るとはな。私でも危なかった」

「またまたご冗談を。噂に聞く工程破棄を、しかも魔術で行ってしまうなんて。"賢狼"の異名に偽りはないようですね」


 魔法や魔術には、行使する際にそれぞれ工程と呼ばれる段階が存在する。それは名を呼んだり、魔法陣を描いたり、詠唱をしたりと様々だが、その工程を重ねる程に魔法や魔術の成功率や効力が上昇する。

 しかし練度を上げれば、少ない工程でも魔法や魔術を発動できる。俺の〈火剣〉(ヒケン)〈鏃風〉(やじりかぜ)は名を呼ぶ事で一工程の魔法となっているが、狼崎先生のソレ(・・)は俺たちとは違う次元にある。


 工程破棄と呼ばれる技術だ。

 あらゆる手順や準備を無視して、魔法や魔術を行使する世界最高最難の技術。それが、狼崎先生がなんの前触れもなく魔法や魔術を操っている仕掛けだ。

 当然、工程破棄など簡単に扱える代物ではない。下手すれば暴走を引き起こしかねない危険性を孕んでいるからだ。

 しかも本来は複雑な手順を必要としている魔術を工程破棄で行使するなんて、ただの自殺志願者と思われてもおかしくない。

 工程破棄を行うには、魔法と魔術に深い知識を持ち、長い時間を修練に費やし、そして才能が必要とされている。

 流石は"賢狼"と言うべきか。俺たちとは別次元に位置している人物だ。


「なに、いつかはお前たちも扱えるようになるさ。その前に、まずはこの一撃をどうする?」

「っ!? 御堂さん避けてください!」

「うおおっ!?」


 琴理の声に反応して訳も分からず咄嗟に転がると、さっきまで俺がいた場所は強烈な重力で押し潰され、綺麗な四角錐の穴が空いていた。

 こんなもの食らっちまったらひとたまりもないな。危ない危ない。


「よく避けたな。それでは次だが、これはどう対処する?」

「やっべ、離れろ琴理!」

「え、きゃ!」


 琴理の目の前に、鮮やかな紫色に輝く球体が現れた。プカプカと浮遊しているだけだが、内に込められた力が暴れ出して次第に細かく振動していく。あれは……ヤバイ。

 俺は咄嗟に琴理を抱えて退避を始めると、遂に球体は耐え切れずに崩壊した。

 それは、重力の爆弾であった。球体を中心として、反転した重力が全てを押し潰す。

 あの場に留まっていたら、琴理でも危なかったな。


「すみません御堂さん、ご迷惑をおかけしました」

「気にするなって。それより、なんか良い手は思いついたか?」

「それは、狼崎先生に勝つという事ですか?」

「んー、違う。狼崎先生をあっと言わせるような事。あの人にはどう考えても勝てそうにない」


 魔法同士の戦いならば、俺と琴理の魔法は比較的狼崎先生の魔法に優位に立てる。だけどそれは狼崎先生が防御だけに専念した場合だ。一度狼崎先生が攻勢に転じれば、俺たちでも防ぐ手段はない。重力など、どうやって防げばいいんだ。

 だとすれば、間断なく一切の切れ目もなく攻撃を続ける事こそが最大の好機。


「こっちが受けに回ってちゃジリ貧だ。狼崎先生に一矢報いるには、こっちが絶えず攻撃を続けるしかないと思うんだけど、お前の考えはどうだ?」

「悪くない考えです。ですがそれには、私と御堂さんとの密な連携が必要不可欠です」

「それを可能にする方法は?」

「手を貸してください」


 俺の手から、柔らかな感触が伝わってきた。

 くすぐったくもあり、細くも力強く握ってくるそれを琴理の手だと認識するのに、少しの時間を要した。

 女の子にこんな強く手を握られた経験なんてないんだ。自分の身にはまず起こらない出来事に、俺の許容量の少ない頭が混乱を引き起こした。


「こ、琴理さん、何やってるんですか?」

「黙ってください。私たち二人とも腕が吹き飛びますよ」

「はい、すみません」


 事情を尋ねようにも、琴理の固い口調に寸断された。腕が吹き飛ぶなど、真顔で言われてしまったら黙るしかないだろ。それに琴理は、真顔で冗談を言うような子じゃない。

 俺は自身の胸から飛び出そうな心臓の鼓動を感じながら、石像のようにジッとしていた。


「『縒りて紡げ糸車、回す事に一つ、二つ、三つ、西方に至れり絹の帆を張る』」

「お? おおぉぉお?」


 呪文が紡がれると、俺の体に変な感覚が流れ込んできた。まるで他人の感覚が入ってきたようで、自身の感覚とのズレに思わずくすぐったくなる。

 琴理が手を離し、自分の手を試しに握ったりするけど、握る感覚と握ってない感覚の両方が介在していて妙に面白い。


「なんじゃこりゃ?」

「これは共感魔術です。私と御堂さんとの感覚を共有させました」


 ──例えば、このように。


「おお?」


 頭の中に琴理の声が響いて、つい声が漏れる。

 これが共感魔術ってやつか。感覚の他にも、互いの意識を交換できるってわけか。これなら俺と琴理だけで言葉が交わせられるし、伝達も速い。これなら隙のない連携が可能だ。


「これで、ひとまず反撃の下地は整ったかな。狼崎先生すみません、お待たせしたみたいで」

「気にするな。遠慮なく、持てる全ての力を注いで挑め。あらゆる手段を講じて、私に向かってこい」

「それじゃあ、お言葉に甘えまして。──〈爆駆〉(ハゼカケ)!」


 足元に集中させるは、爆ぜる火炎。俺の足からは爆炎が生じ、それによって生まれた爆発的な加速で狼崎先生に向かって一直線に駆ける。

 刃に纏うは火。そこに加速によって生まれた突進力を以って、狼崎先生に刃を突き立てる。

 が、地面からせり上がった土の防壁によって阻まれる。


「真正面から挑むその気概は認めるが、なんの考えもなしに突撃するのは褒められた事ではないぞ」

「すみませんね、愚直に前に出るしか考えが無いもので。──〈貫火〉(ヌキビ)

「むっ」


 纏っていた火を鋒へと集中させ、一気に火炎を放出させる。

 それはあらゆる障害を焼いて貫く、火炎の槍。土の壁など容易く溶解して後ろの狼崎先生を襲うが、即座に異変を察知した狼崎先生は右に飛んで回避する。


 ──琴理、右に狼崎先生だ。

 ──任せてください。


 俺の攻撃など、狼崎先生が避ける事くらい分かりきっている。大事なのは、狼崎先生に攻撃させない事だ。

 俺の動きに注視していた狼崎先生に、次は琴理が襲いかかる。


「『重ねる帆に飛び立つ南風』──〈風切羽〉(かざきりばね)!」


 琴理が杖を振り上げると同時に、圧縮された風の刃が狼崎先生に目掛けて飛翔する。

 地面を容易く切り裂きながら飛ぶ風の刃だ。その威力は語る必要もない。

 しかし狼崎先生は、回避中で身動きが取れない中で空中に浮かび上がり、琴理の風の刃を飛び越える。自身の周りにある重力を軽減させて浮かび上がったようだな。

 だけどその着地、もらった!


〈火影〉(ホカゲ)!」

「おっ」


 俺は星霊器を地面に突き刺す。

 狼崎先生が着地する寸前、狼崎先生の足元からは火で形作られた刃が生え、真っ直ぐに狼崎先生に向かって伸びる。が、それを紙一重で避けられる。


 ──御堂さん、私はこれから広域型魔法で狼崎先生を追い詰めます。それには時間が必要なので……。

 ──時間を稼げって事だろ。任せな。


 琴理は地面に魔法陣を描き始め、これより引き起こす大魔法の準備を進める。その間琴理は無防備になってしまうので、俺が矢面に立たねばならない。

 琴理の邪魔をされないように、狼崎先生に魔法や魔術を使わせる隙を与えないように、俺は星霊器に一層の大火を纏わせて狼崎先生に引っ付く。


「うおおおぉぉぉぉぁぁぁ! 〈火剣〉(ヒケン)ッ!!」

「ふむ、鶴貴の魔法が発動するまでの時間稼ぎというわけか。凄まじい気迫に思わず呑まれそうだ」


 最早、呼吸をするのを忘れて星霊器を振るう。その一振り一振りが全身全霊。地面よりせり上がる土の壁を焼き斬り、星霊器にまとわりつく水は瞬時に蒸発させ、氷の塊は膨大な蒸気を巻き上げ溶かしていく。

 一振りの全てが一撃必殺。文字通り、一撃で相手を倒すだけの威力を秘めている。


 だが、それも当たらねば意味は無い。

 狼崎先生は体捌きのみで避け、時には浮いて、時には手に持った杖で太刀筋を変えられてしまう。これで片足が不自由だというのだから、とんでもない人だ。

 だけど、いつまでもそんな冷静な顔をしていられるのも時間の問題だ。


「『吹き荒べ西の塔、尖塔に揺れし東の風車、北には凍えし南に種を芽吹きし微風、洋上を旅し巡りて、大雲を引き連れよ』」


 琴理の口から詠唱の言の葉が紡がれる。すると大気中の風は意思をもったかのように流れ、次第にその力を増して狼崎先生の周りを吹き荒ぶ。

 やがて大気は荒れ、風は突風となり、そして暴風へと変貌し狼崎先生を取り囲む。


「ふむ、これは流石にまずいな。いくら私でも、防ぎきれるか分からない。先に鶴貴をどうにかしなければな」

「それを俺がさせると思ってるんですかッ!」

「残念ながらできるんだ。──〈圧潰〉(プレス)

「ぐうっ!?」

「あう!?」


 横薙ぎに払った攻撃を半歩後退して躱した狼崎先生から、魔法が紡がれた。

 瞬間、俺の体には凄まじい重力がのしかかり、俺は情けなく四肢を地面につける。その姿はまるで、圧倒的な強者に首を垂れて許しを乞う弱者の如く。

 そして琴理も俺と同じく、この強大な重力の中で膝を屈していた。それによって、狼崎先生に集まりつつあった暴風は幻の如く消え去ってしまう。


 琴理は十分に狼崎先生と距離を取っていたのに、それなのに狼崎先生の魔法を受けてしまった。これは俺と琴理のみを対象とした魔法ではない。周囲全てを重力で呑み込んでしまう、広域型の大魔法だ。

 この重力、俺が最初に受けたモノより段違いだ。


「お前たち二人は誇っていい。この私から、一工程の魔法を使わせたのだから。生徒たちに使うには威力がありすぎて、敢えて工程破棄をして威力を下げていたというのに」

「ぐっ……最初から、手を抜いていたわけですか」

「そうではない。ただ、安全のために必要だっただけだ。お前たち二人は、既に一人前の魔法使いと同程度の力を有していると私が保証しよう。まあ二人がかりだから、半人前が二人といったところか」

「嬉しい、ですね。五紡星である狼崎先生に、そこまで言われるなんて」

「十分に誇れる事だ。特別に二人には、五紡星の真の力の、その一端を見せてやろう」


 狼崎先生から、高密度の魔力が間欠泉のように噴き上がった。しかしそれらは全て統率され、暴力的に俺たちを威嚇したりはしない。ただ、全ての意思が統率されて俺たちにのしかかってくるので、普通に威嚇してくれた方がまだマシだ。


 俺たちに到底できないような魔力の制御。それが、五紡星という存在がいかに遠いのかを俺たちの体に教え込まされる。

 俺たちにまとわりつく重力は次第に力を増し、段々と意識が遠のき視界がボヤけてくる。


「──〈圧潰〉(プレス)


 その言葉を最後に、俺たちの体は硬いモノに打ち付けられ、そこで意識は途切れたのだった。

あっそうだ、投稿するまえに誤字や脱字はチェクしてるけどもし誤字とかあったら報告頼むよー

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