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魔法が当たり前となった現代で魔法使いを教育する学園に入学する事になった。  作者: 伊基 夕霧
第1章──禁書図書館《グリモ・アーカイブ》編──
4/14

4話──学園最強vs臨海都市最強

4話め

「──さて、高等部に上がってからの初めての授業だ。各自、気を抜かないように」


 広い、ただ広い敷地のど真ん中で、狼崎先生の声が静かに響いた。場所は、主に魔法の実技訓練で使われる第四演習場だ。

 魔央学園には初等部から高等部までの校舎だけではなく、俺たちが生活している学生寮や学生たちが利用する店や施設が立ち並び、その広大な敷地面積は一つの街といっても過言ではない。昨日皆で行った寝る獅子亭も、魔央学園の敷地内に建っている店の一つだ。


 その魔央学園の敷地内では、魔法や魔術の使用は認められている。なんでも、魔央学園の外周には強力な結界が張られていて、魔法や魔術の被害を抑えてくれるんだ。その中でもこの演習場には更に強力な結界が張られていて、完全に魔法や魔術を遮断するらしい。

 魔法の訓練をするなら、うってつけの場所というわけだ。


「まずは、各々の実力を見せてもらう。この学園に新しく入った者もいるからな」


 狼崎先生がそう言うと、皆はそれぞれの得物を取り出した。

 それは杖であったり、小さなナイフであったり、メダルであったりと多種多様だ。

 琴理も懐から、指揮棒のような小さな杖を取り出した。


「よぉし、いっちょ暴れっか!」

「久々に血が騒ぐな」


 そして何かにつけて暴れたがる問題児が二人、謙誠とエヴァも何か札を取り出すと自身の武器を召喚した。

 謙誠の性格を表したかのような、無骨で華美な装飾も施してない、岩肌からまるごと持ってきたような鋼鉄の大斧。その全長は謙誠の身の丈をも超える、見た目にも圧巻な逸品だ。

 対して、眩く輝く銀の槍は氷山から削り出したかのように煌めいて美しく、瀟洒で華麗な装飾や意匠を凝らしており、その穂先を振れば深紅の布がなびいている。まさに、エヴァのイメージそのものが具現した凛々しく芸術品の如き槍がエヴァの手に握られている。


 他とは明らかに隔絶された造形と纏う威圧感に、周囲からはどよめきが走った。

 その手の情報には詳しくない俺でも判る。あれらはとびっきりの魔道器(まどうき)だ。


 魔道器とは、ファンタジーで描かれている魔法使いがよく使っている杖とか箒と言ったら分かり易いだろうか。魔法や魔術を使う触媒である。

 その形状や性能は千差万別で、一級品になると家一軒分の値段になったりする。おそらく謙誠とエヴァの魔道器はそれくらいするだろう。それと二人が魔道器を取り出す際に使った札も、おそらく転移魔術の術式が組み込まれた代物だ。これもたしか、高級外車クラスの値が張っていた筈。やっぱりこの二人、良い家柄のセレブなのかな?


「どうしたんですか御堂さん。見たところ、何もお持ちではないようですが?」

「ああ、うん……俺はもう持ってる(・・・・)んだ」


 そう、俺に魔道器なんていらない。魔道器とはもっと別で、それよりも破格の代物をこの身に内包しているんだ。

 魔法を扱う上で必要な存在である星霊。この星に眠っている知識であり本来ならば姿を表さない存在だが、星触者のみが星霊を具現化する事ができる。



 ────……一度目を閉じて、深く精神を集中させる。

 周囲の世界から隔絶されたかのような静寂に包まれ、それを表すならば明鏡止水の境地。

 やがて精神の最奥まで辿り着き目を開けば、そこは白だけが無限に広がる無の空間。そして目の前には城門のごとき巨大な扉がそびえ立ち、背後には無限に伸びる壁がそそり立っている。


 ここは、人間の精神の最奥地。深層意識であったり悟りであったり、阿頼耶識などと色々な呼び名が存在する場所だ。

 そして目の前にあるのは、人間と星とを分け隔てる門──星門(ゲート)である。この先こそが星の領地であり、人間が足を踏み入れてはならない絶対不可侵の領域。そこに星霊が眠り、ありとあらゆる知識が死蔵されている。

 そして星門(ゲート)の大きさが、どれだけ星霊を多く引き出せるかという、魔法使いの実力だ。

 一般的な星門(ゲート)は家の扉程度の大きさとされているが、俺のそれは見上げなければならない程の巨大さだ。星触者がどれだけ規格外な存在なのか、それだけで窺い知れる。


 その星門(ゲート)に向かって、開けと念じると、重い音を軋ませながらゆっくりと星門(ゲート)が開き、隙間から不定形の存在が漏れ出してきた。

 これこそが、星に眠っている知識である星霊だ。

 燃え盛る茜色をした星霊は、まるで親を探す迷子のように辺りを不安げに漂っていたが、俺がそっと触れた瞬間に一斉に殺到した。


「──御堂さんの体から、火が……」


 琴理の声で、元の世界へと意識が戻ってきた。

 そして俺の体からは、琴理に言われた通り火が纏わり付いていた。

 赤々と燃え盛る火が俺を包む光景はまさに魔法が暴走した状況だが、俺も授業を監督している狼崎先生も慌てていなかった。


 他の皆が驚いている中、俺は踊る火に意識を注いで自在に操り、目の前に火の球体を形成する。

 そして中へと手を突っ込んだ途端に火球は爆ぜ、手には火だけで形成された柄と、その先には刃が伸びていた。

 鞘の役割をしている火が消えると、そこには一振りの日本刀。しかしその全容は真っ黒であった。柄頭から鋒に至るまで、鍔も刃も全てが大火事に晒されかのように真っ黒に焼け焦げていた。


 これこそが、魔道器を超えた存在──星霊器(せいれいき)だ。

 本来であれば具現しない星霊によって形作られた、星触者のみが扱える道具。だけどその見てくれは、謙誠やエヴァたちの魔道器よりも遥かに悪い。だからあまり人前で出したくなかったんだ。

 案の定、周囲からは落胆の視線が向けられる。


「へぇ、そっかそっか、これが噂に聞く星霊器ってやつか。その……あれだな」

「予想していたよりも、随分とみすぼらしいな。それに脆そうだ」

「ですが、強大な魔力を内包しているようですね。おそらく現存するどの魔道器よりも強力だと思います」


 三人は俺の星霊器を見ながら、思い思いの感想を述べている。にしても、エヴァの物言いには遠慮がないな。まあ否定はできないけどさ。


「ふむ、星霊器はちゃんと出せるようだな。それに、魔法の扱い方もある程度は心得ているようだな」

「狼崎先生、でもなんだかこれ、ボロくてみっともないんですけど」

「見た目だけで判断するな。この焦げは、どうやら星霊器の封の役割をしているようだ。おそらく、まだ未熟なお前に危険が及ばないようにしているんだろう。──まだこの子を守っているんだな」

「え? 狼崎先生、今なんて」

「いや、何でもない」


 一瞬、俺の星霊器を見て懐かしむような微かな笑みを浮かべていた狼崎先生だったけど、俺が尋ねるとすぐにいつもの厳つい顔に戻った。

 何を言っていたのかよく聞き取れなかったし、今は授業中だから無理に尋ねる事もできない。

 なんか釈然としないけれど、それが解消される事もなく授業は進む。


「皆の準備ができたところで、本格的に授業を始めよう。まず手始めに、皆には私と模擬戦をやってもらう。諸君らのランクの参考とするので、手を抜かないように」


 その言葉に、クラスの皆に激震が走った。

 この魔央学園には、生徒一人一人にランクがつけられている。蓮夏がいる魔術科では魔術の成績。俺たち魔法科では、魔法による実技での成績によってだ。

 実技といってもその内容の中には生徒同士の魔法を使っての戦闘が含まれており、魔央学園の敷地内であれば生徒同士の決闘は認められている。謙誠とエヴァがいい例だ。


 そしてランクに応じて生徒たちには、魔央学園内のみで使える仮想の通貨──MAGI(マギ)──が支給され、様々な品を買う事ができる。といっても、ランクの高い者が高額な魔道器や機材を買えば更に差が開いてしまうから、買える物は精々ジュースとかお菓子、あとは昼食とかのメシ程度だ。それ以外を買いたいなら、バイトして金を貯めろって事だ。

 ちなみに、俺は高等部から入ってきたからまだランクはつけられていない。


 そのランクを決めるため、五紡星の一人である狼崎先生が直々に手合わせしてくれる。

 この臨海都市において最強とされる五人の魔法使いの一角、通称"賢狼"の狼崎と呼ばれる男との直の手合わせ。これに興奮しない者はいないだろう。……琴理、お前さんだけはいつも通り素っ気ないんだな。


「では最初に、このクラスでランクの低い者から呼ぶ。富士杉とブリュハノフ、二人とも前へ」

「えっ?」


 狼崎先生の言葉に、思わず耳を疑った。

 ランクの低い者から呼ぶと狼崎先生が言ったけど、呼ばれたのは謙誠とエヴァだった。俺の記憶違いでなければ、二人は自他共に認める学園最強の生徒と言っていた筈だけど、これじゃ話が違うじゃないか。


「おい、お前らってそんなにランク低いのか? 学園最強じゃなかったのかよ」

「いやぁ、まあ……その、あれなんだよ」

「話せば長くなる、とは言えなくもないが……」

「どっちが強いかお二人で争っているだけで、他の人とは殆んど手合わせしてないんですよ。だから勝率も悪くて、順位だけならお二人ともほぼ最下位ですよ」

「お前らどんだけ喧嘩に明け暮れてるんだよ」


 二人とも目を逸らすな目を。

 ったく、本当にどうしようもねぇなこいつらは。頭に火薬しか詰め込んでないんじゃないか? 互いの事になるとすぐに熱くなりやがって……こりゃもう一種の病気なんじゃねぇか?


「なはは、まあたしかに俺たちのランクは低いけどよ、この魔央学園にはあるルールがあるんだぜ」

「五紡星と手合わせして勝利すれば、そのまま五紡星の席に座れるというルールがな」


 そう言うや否や、二人から強い魔力が迸った。その勢いは、俺が初めて会った時よりも遥かに強い。この二人は間違いなく本気だ。

 対して対峙している狼崎先生はというと、特に何もしていなかった。周囲の人間ですら退避する魔力を向かい合いながら受けているにも関わらずだ。

 柳に風とばかりに、二人の魔力など脅威ですらないとばかりに平然と立っている。これが、五紡星と呼ばれる者の胆力か。


「そうか、その歳にしてこれ程の魔力とは、なるほど凄まじい才だな。しかし魔力にムラが多い、加えて構えもまだまだ改善の余地があるな」

「呑気に観察なんてしてる場合か"賢狼"さんよぉ! エヴァ、俺に続け!」

「貴様が指図するなっ!」


 あの二人、本当に仲が悪いのやら良いのやら。

 口では喧嘩しつつも、謙誠の号令に従ってエヴァは謙誠と一緒に地面を駆ける。

 身体強化によって強化された脚力は踏み出した地面を砕き、二人の加速はそのまま最高速となって狼崎先生に飛来する。


 ずっと二人だけで喧嘩をしていたからこそ、互いの呼吸や動きがわかるのだろう。

 圧倒的な速力と絶妙なコンビネーションを以って狼崎先生を左右から挟み込み、その大斧と槍で狼崎先生を仕留める──事はできなかった。


「ぐっ、おいおいマジかよ……」

「手加減したつもりはなかったのだがな」


 二人の刃は寸分違わず狼崎先生に目掛けて振るわれたのだが、急激な減速によってピタリと止められてしまった。二人の顔を見る限り力を抜いているわけでもなく、その証として刃も対抗してカチカチと刃先が鳴っている。


 おそらく、狼崎先生の周りはナニか強大な力で覆われ、それが二人の攻撃を阻んでいるのだろう。

 狼崎先生は、間近にある刃に一切の動揺も示さず、二人の先ほどの動きに指摘をする。


「動きは申し分ない。息もちゃんと合っている。だが直線的で、これではいくら速くても見切られてしまうぞ。もう一回だ、次はそれを踏まえてやってみろ」

「ぐおっ!?」

「うあっ!?」


 瞬間、二人は強力な磁石が反発したかのように弾き飛ばされた。

 宙を舞う二人はすぐに体勢を立て直して危なげなく着地するが、その額には玉の汗が流れている。

 二人に実力があるからこそ、判ってしまったんだ。

 さっきの動きだけで、狼崎先生との間に越えられぬ程の差がある事を。


「やれやれ、五紡星の名は伊達じゃねぇってか。ちったぁ迫れると思ってたけど、こりゃどうひっくり返っても無理そうだな」

「なんだ謙誠、貴様はもう諦めるのか? 口先だけは威勢がいい、ただの腑抜けだったか」

「はっ、冗談! こんなもんで引き下がる俺じゃねぇよ!」


 しかし、それだけで素直に退く二人ではない。

 謙誠は大斧を地面に突き立てると、魔力を漲らせて詠唱を始めた。


「『唸れ大地の脈動、吠えろ大地の鳴動、押し潰し、圧砕し、粉砕せし礫、総意に従いて敵を潰滅しろ』──〈礫岩降潰〉(れきがんこうかい)!!」


 足元から感じる僅かな揺れ、それは次第に地響きとなって、皆は思わず地面に手をつく。

 何事かと思い周囲を確認すると、辺りの地面が砕け、その破片が宙へと集まり巨大な岩石と化した。

 宙で静止している、トラック程の大きさのある岩。それは狼崎先生目掛けて真っ直ぐに落ちてきた。


「御堂さんっ、離れてください!」

「え──うげぇっ!?」


 琴理の声が聞こえた途端、俺の首が締められ視界が回転した。

 尻を強打し、頭を打ち付け、唐突に首を締められて咳き込む。痛いし苦しい。

 この苦しさの犯人である琴理を、俺は睨みつけた。


「げほっ、げほっ! 琴理、何しやがるんだ!」

「富士杉さんの魔法に巻き込まれるより、マシだと思いますよ?」

「なに言っ──うおっ!?」


 突然、強大な衝撃波に見舞われた。

 耳をつんざく程の音と目を覆う程の突風、それに地震と思う程の地面の揺れ。それらの発生源は、狼崎先生の頭上であった。

 謙誠が生み出した、その質量だけで人などミンチにできそうな巨岩。それを狼崎先生は受け止めていたのだ。


 ──いや、受け止めるという言葉には語弊があるかもしれない。狼崎先生は、特に何もせず立っているだけなのだから。

 先ほどから狼崎先生を覆っている強大な力が、謙誠の巨岩を押し返しているんだ。

 思わず、謙誠は苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべる。


「くそったれが……これでも駄目だってのかよ」

「これ程の魔法制御をするとは驚きだ。だが詠唱に時間がかかり過ぎで、加えてこの遅さだ。これでは命中も難しいし、実戦には不向きだろう」

「──それはどうかな? 狼崎教諭」


 異変は、狼崎先生の足元。気が付けば、先生の足は氷で固定されていた。

 おそらく魔法を放った本人であろうエヴァの足元には、槍の穂先で描かれたであろう魔法陣が掘られている。

 発動を察知させない魔法の行使に、狼崎先生も舌を巻いた。


「してやられたな。よもや生徒からの攻撃をもらうとは」

「貴方の魔法は物理的な干渉には強いが空間そのものを対象とする魔法には弱い。だから貴方の周囲を凍結させる魔法を使ってみたが、効果は覿面なようだな」

「それだけではないだろう。富士杉が敢えて派手に魔法を使い、それに注目している間にブリュハノフが私を拘束する。詠唱の代わりに魔法陣を使って、私に悟らせないよう工夫もした。二人の見事な連携だ」

「笑えない冗談だ。こいつと連携だコンビなど、虫唾が走る。それで狼崎教諭、私の一手はどう対抗してくれる? ──〈凍える農夫〉ザミェルザーチ・クリェスチャーニン


 最後の仕上げに呪文を唱えると、足元の氷が一気に狼崎先生の全身を覆い、あっという間に狼崎先生は氷漬けの氷像となってしまった。

 さっきまでの激闘が嘘だったのかと思える程の静寂が、辺りを包み込む。

 狼崎先生は物言わぬ氷像と成り果ててしまったが、相手はあの(・・)五紡星だ。この程度で終わりな訳がない。


 ──なにかある。


 謙誠とエヴァは油断も隙もなく、眼前に狼崎先生を捉えて注視している。

 そして俺たちも、次に狼崎先生がどんな手を打つのかと、固唾を飲んで観戦する。


 ──そしてやはり、なにかが起こった。


「やれやれ、教師相手にも容赦がないな。私でなかったら、無傷では済まなかっただろう」


 凍っていた狼崎先生の足元から火柱が噴き上げ、エヴァの氷を容易に溶かしていく。

 全身を氷漬けにされていた筈なのに、狼崎先生の髪には水滴一つすら付いておらず、スーツにも濡れた形跡は見当たらない。

 あまりにも平然として無傷である姿は、エヴァの魔法が一切効いていない証拠であった。


「エヴァの魔法も効かねぇってか。五紡星ってのはつくづくバケモノじみていやがるな」

「それだけではない。私の氷を溶かしたのもそうだが、氷漬けにされて一切ダメージを負っていない。おそらくは、何かの魔術だろう」

「正解だブリュハノフ。お前が私を氷漬けにする寸前に、私は自らの体を氷で覆ったんだ。自らが使った魔法や魔術では、使用者本人には効果を及ぼさない能力も付随できるからな」


 そう言うと、狼崎先生は自分の手に火を灯した。

 けど狼崎先生は熱そうな顔もせず、手にも火傷のしたような形跡はない。

 俺の魔法もそうだが、魔法や魔術は基本的に本人を傷付けないように使用者本人が調節している。それを使って狼崎先生は、エヴァからの魔法から身を守ったのだろう。


 咄嗟の判断力もそうだけど、何より凄いのは魔術の使用に全く淀みが無い事だ。

 おそらく、エヴァの氷を溶かした炎も自身を覆わせた氷も、狼崎先生の魔法ではなく魔術だ。けどそこが問題なんだ。

 基本、魔術は術式などの手順さえ覚えれば誰でも行使できる。反面、魔法よりも扱いが難しい上に効果も魔法より弱い。それを狼崎先生はいとも容易く操り、エヴァの魔法に打ち勝ってしまったのだ。

 それがどれ程の事か、どれだけの差が開いているのか、謙誠とエヴァなら嫌でも判ってしまうだろう。


「本当に、お前たち二人は将来が楽しみだ。まあ、何かある毎にいざこざを起こすのは勘弁してもらいたいがな」

「あー、それは無理。俺はどうしてもこいつとケリをつけなきゃならないんで」

「同じく。なんとしてもこいつには私が上だと教え込む必要がある」

「だろうとは思っていた。お前たちを見ていると、昔の自分を思い出す。お前たちなら、いずれ私を超えるだろうな。──だが、今はまだ力をつけておけ」

「うおぉ!?」

「なに!?」


 異変は二人の足元で起こった。

 謙誠の足には地面が生き物のように絡みつき、エヴァの足はいつの間にか氷で拘束され、二人の身動きは完全に封じられていた。

 なんとか振り解こうと二人も魔法で応戦するけど、相手のレベルが違いすぎる。謙誠が足に絡みついている地面を砕けば新たな地面が鎖となって絡みつき、エヴァも氷を砕く度にすぐさま氷で足を再度拘束されてしまう。狼崎先生の魔術は完全に二人の魔法を上回っていた。


「私たちの魔法を上回る魔術、それを詠唱も魔法陣も使わずに行うか……。それに私たちの足を拘束して、さっきの意趣返しというわけか」

「ご丁寧な事に、俺たちの魔法と同系統の魔術を使いやがって。力の差を見せつけようってか? 性格悪いぜあんた」

「教師に対してその言い方はないだろう。本当にお前たちは、昔の私と虎灘によく似ているな。どれ、特別に私からの一撃をくれてやろう。お前たちなら、絶対的な敗北でも立ち上がれる強さがあると信じているぞ」


 ──刹那、狼崎先生から感じる魔力が強くなった。気のせいとも思えるような、一瞬で僅かな魔力の揺らぎ。でも高まった魔力にはたしかに狼崎先生の意思が込められており、それは精密機械かのような緻密な魔力の扱い方であった。

 瞬間、身動きを封じられていた二人は見えない力によって、その全身を地面に叩きつけられる事になった。


 ……沈黙した二人の姿が、終了を報せる合図となってのであった。

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