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魔法が当たり前となった現代で魔法使いを教育する学園に入学する事になった。  作者: 伊基 夕霧
第1章──禁書図書館《グリモ・アーカイブ》編──
2/14

2話──五紡星

2話め、今日でひとまず5話投稿するぞ

 魔央学園。正式名、魔法技術世界中央教育学園。それは魔法使いを育成する三つの教育機関、イギリスのカンタベリー大聖堂を校舎としているカンタベリー騎士学園、バチカン傘下であるフランスに設立されているノートルダム魔法学園、それらをも超える世界で最大規模の学園が魔央学園である。

 日本から遠く離れた孤島、臨海都市に設立された、次世代の魔法使いを育てる学園、魔央学園。

 俺──御堂 熾隼は、今日からここ、魔央学園で魔法の技術を磨くために入学するのだが、柄にもなく現在は緊張の真っ只中だ。


 そもそも、俺は最初っから魔央学園に入学するつもりではなかった。

 成績は中の中か中の下。部活動で励んでいた剣道の成績で内申を上げて、どこか寮のある高校にでも進学しようと思っていたんだけど、魔法の資質があるからと言われて有無言わされず魔央学園への入学が決まってしまった。

 魔法の資質が発現するには個人差がある。早い者では小学校に入学する前の年代から魔法の資質の片鱗を見せる、才能ある人もいる。俺の場合、それが高校に上がる前に発現したようだ。それも、ただの魔法使いとしての資質じゃない。



 ──────…………星触者(せいしょくしゃ)



 魔法とは、星に眠る知識である星霊を引き出し、それらを操る事によって引き起こす事象の総称。理論上(・・・)では、魔法を用いればありとあらゆる事象や現象を支配できる。だが、あくまでも理論上だ。

 星霊は、いわば星の一部だ。人間のような小さな存在が際限なく星霊を引き出せば、暴走という現象を引き起こし、結果として痛ましい事故を引き起こしてしまう。現在でも、そのような事故は後を絶たない。

 曰く『魔法は万能なれど全能でなし』と、魔法と関わらない者でも深く教えられる。そしてその魔法を適切に、且つ安全の使えるように、魔央学園のような教育機関があるんだ。


 だけど星触者だけは違う。理論上(・・・)でしかない机上の空論を、実践(・・)できてしまうんだ。

 他の魔法使いでは決して越えられない一線を、星触者なら踏み越える事ができる。天才と讃えられた魔法使いさえも霞んで見える、天賦の資質。それが星触者だ。

 現在、星触者は俺を含めて二人しかいなくて、その希少性から俺は一躍時の人となった。なので現在も、道行く人たちから奇異の視線を浴びせかけられている。教室という密室に入れば、どこにも逃げ場は無くなってしまう。

 扉の前で、俺は一人立ち竦んでいた。


「はぁ、このまま突っ立ってるわけにもいかないか。覚悟を決めろ、俺っ」


 両頬を軽く叩いて、自分自身に喝を入れる。柄にもなく深く考えて、情けなくビビっていたようだ。

 少しジンと痛む頬に背中を押されて、俺は意を決して一歩を踏み出し教室の中へと足を踏み入れる。


『……………………』


 扉越しに聞こえていた和気藹々としていた会話はシンと鎮まり、無言の視線が一気に俺一人に向けられる。

 皆の感情はそれぞれで、星触者である俺への興味、本当に星触者であるのかという疑念などとそれぞれだが、どれも心が休まるモノではない。

 心の中でため息を一つ、辟易とした感じで適当にどこか席にでも座ろうと教室内を見渡すと、ある一箇所だけに些細な違和感を見つけた。


 ──そこに座っていたのは、一人の女生徒であった。

 腰まで伸びた、黒みを帯びている茶色の長髪に、若葉のように柔らかな黄緑色のまあるい瞳。とりわけ整った容姿もそうだが、窓際に座り、皆が遠慮しているのか周りの席に誰も座っていないその光景は、この教室とは違った雰囲気を醸し出している。

 頬杖をついて、俺が入ってきた事にも一瞥するだけで外の風景を眺めているその子なら、断然いいだろう。俺は周囲の視線を無視しながら、その子の隣まで歩み寄る。


「なあ、隣の席、座ってもいいか?」

「どうぞご勝手に」


 俺が話しかけたら、周囲が少しざわついた。俺が会話した事にではなく、その子が俺の言葉を返した事に。

 少し近寄りがたい空気は出しているけど、根は優しそうな子だ。俺は『ありがとう』と言葉を返して、隣の席に座った。

 どうやらこの子も注目されているらしく、俺への奇異の視線が若干だけど減った気がする。

 沈黙のままだと居心地が悪いし、とりあえず適当に会話でもするか。


「そういえば自己紹介がまだだったな。俺は──」

「御堂 熾隼さん。知ってますよ、有名人ですからね。私は鶴貴(つるき) 琴理(ことり)です。宜しくお願いします、御堂さん」


 どうやら、先方は既に俺の名前は知っていたようだ。しかも、星触者だという事も知っている。

 まあ……よかった、のかな? 少し反応が素っ気ない気がするけど。俺が星触者だと知って、態度を変えられるよりかはマシだ。


「熾隼でいいぞ。けど俺が星触者だと知っているわりには、あまり驚いていないんだな。まあ、そのおかげで楽なんだけどさ」

「どういう──あ、ええっと……心中お察しします」

「やめてくれ、余計に悲しくなる」


 周囲を確認して俺の現在の境遇を察したのか、琴理からお見舞いのような言葉をかけられけど、その言葉で余計に自分の現状を実感してしまい悲しくなる。

 初対面の人に気遣われるって、どれだけ酷いんだよ? 蓮夏の場合は俺を面白半分でからかっていたけど、今になって思えば蓮夏なりに俺を気遣っていたのかな? だとしたら、それとなく蓮夏の好きなお菓子でも買ってやるか。

 そんな事を思っていると、突然の闖入者が登場してきた。


「──うっすおっすちーっす! 星触者はいるかぁ! いや、いるよなぁ!」


 第一声がそれである。

 声の大きさに反射的に入り口を振り向けば、少し刈り上げた緋色の頭髪に強靭な意志を練り込んだような朱色の瞳。身長は俺と同じくらいだろうけど、身体に付いている筋肉が違うのか横にもデカくて一回り俺よりも大きく見える男が立っていた。


 腕を組み獲物を探すかのようにギロギロと教室内を見渡して、俺を見つけるや否やお祭りが待ちきれない子供のような笑みを浮かべて大股で俺まで歩み寄ってきた。


「そうかそうか、お前が噂の星触者か。実際に見ても案外と普通そうだな。なるほどなるほど…………うん、いいなお前!」


 なんか認められたらしい。

 頭のてっぺんから足のつま先まで観察して、それから俺の肩を触ってなんかを確認すると、一人で勝手に頷いている。

 いきなりの登場に、いきなりの接触、なんだか初めて会うタイプの人間に、俺はポカンとしていた。


「いや、その……お前誰だよ?」

「お? そうかそうか! やっぱり星触者でも、この俺様の只者じゃない風格に気付いちまうか! 仕方ねぇな、特別に俺様の名前を教えてやる!」

「特別じゃなくて普通に名乗れよ」

「俺様は富士杉(ふじすぎ) 謙誠(けんせい)。どうやら、お前と同じクラスのようだな。ここ、魔央学園で最強の生徒だ。よく覚えておけよ」


 最強。何も恥じる事も無く、それが絶対の真実であるかのように言い放つ。自意識過剰で不遜だと思われそうな言葉だけど、真っ直ぐすぎる瞳と邪気の無い満面の笑顔で、何も不快感を感じない。

 周囲の皆も、謙誠の言葉に怒りや疑問には思っていないようだ。琴理だけは、我関せずと頬杖をついて窓の外を眺めているけど。


 ──だけど、その謙誠の言葉に異議を唱える者が現れた。


「最強だと? 私を除けば、だろ? その言葉は聞き捨てならないな謙誠」

「ああ?」


 それは、凛と響く声だった。謙誠のような大声ではないけど、それでも群衆の中でも鋭く聞こえる芯のある声。

 教室の入り口には、一人の女性が立っている。


 ウェーブのかかった白群色の髪を右肩にかけて、まるで冷気でも帯びているかのような千草色の鋭い瞳。肌は太陽を嫌うかのようにシミの一つもない白磁の肌と、日本人離れしたプロポーションは、モデルというよりも一種の芸術品だ。

 整った顔立ちとスラッと伸びた手足には思わず見惚れてしまうけど、歩く姿はそれ以上に凛々しい。

 女性は俺の近くまで歩み寄ると、スッと手を伸ばしてきた。


「初めましてだな。星触者、御堂 熾隼。私はエーヴァ・ブリュハノフ。ロシアからやってきた。私の事は気軽にエヴァと呼んでくれ。同じクラスとなったのも何かの縁だ、宜しく頼む」

「あ、ああ、宜しく頼──」


 触れるのを躊躇うような綺麗な手を握った瞬間、エヴァの体がぐいっと間近に迫って視界を覆い、ちゅ……と頬に何か押し付けられた。

 それは柔らかくて、ほんのり湿り気があって潤っている。


 キスされた。

 そう気付いたのは、あまり時間を必要としなかった。


「なあっ!? あ、あああ……エヴァ、何を」


 エヴァの容姿は、十人が十人揃って美女と異論なく言える。俺も、エヴァ以上の美人には会った事はない。

 そのエヴァに、頬に口付けされた。

 冗談や気のせいかと思ったけど、鼻腔をくすぐるエヴァの匂いや頬の熱さが、それが嘘ではないと知らされる。

 そう実感すると、顔が沸騰したかのように熱くなる。この世に生まれて十五年、キスされた事の無い俺にはあまりに刺激が強すぎた。


「まあ気にするな熾隼、これは私の故郷での挨拶だ。日本人はこの程度の軽い挨拶でいつも驚くんだな」

「あ、あは、あはは、そうなんだ」


 本人は何も気にはしてなかったけど、俺からしたら大事件だ。

 年齢イコール彼女がいない歴である俺が、会ったばかりの美人に頬に口付けされたなんて、まさに青天の霹靂だ。

 けど、エヴァは動揺する事も無く、俺だけが慌てふためいているので、なんだか別の恥ずかしさが込み上げてくる。

 もう、乾いた笑い声しか出せない。


 現在、世界で魔法使いを育成する教育機関は三つしかない。

 しかもイギリスとフランスの学園は、あまり海外の留学生を受け入れておらず、魔央学園だけはほぼ無条件で海外からの留学生を受け入れている。

 なのでエヴァのように海外からやってきた生徒も多いのだが、まさか異文化のコミュニケーションの洗礼を受けるとは思わなかった。

 まだ顔の熱が冷めきっていない俺を置いといて、エヴァは俺への挨拶を済ませるなり謙誠を睨んだ。


「さて……それで、誰が最強だって? 謙誠」

「あン? 文句あんのかエヴァ」


 顔の熱が一気に冷める程の、一触即発の空気。

 エヴァは凍てつくような視線を投げかけ、対して謙誠は押し潰すかのような空気を放出している。

 何かの拍子で、爆発しかねない火薬庫がそこにあった。それを感じ取った皆は、入り口の壁際まで即座に退避した。


 俺は二人に挟まれている立ち位置で逃げられない。琴理だけは気にせず読書をしているけど、俺はお前のような神経が羨ましいよ。

 願わくば、火薬庫が爆発しないように。そう祈る事しかできない。


「異論だらけだ。貴様とこれまでの戦績、忘れた訳ではないだろうな?」

「83戦11勝10敗62引き分け。俺の方が勝ち越しているじゃねぇか。おめぇのほうが忘れているんじゃねぇか?」

「計算もできなければ記憶も駄目なようだな。先週での闘いでは私が勝っているから1勝加算だ。それに前々回は貴様の勝ちではなく引き分けで終わった筈だ。だとしたら、私が勝ち越している。貴様よりも私が、魔央学園最強の生徒と呼ぶに相応しいだろう」


 両者引かず、間に火花がバチバチと舞っている。その間に俺がいるので、堪ったもんじゃない。

 まるで積年の恨みでもあるかのような二人に、俺の精神はゴリゴリと削られていく。


「なあ琴理、あの二人ってさ、どういう関係なんだ? なんだか凄い仲が悪そうなんだけど」

「仲が悪そうじゃなくて、仲が悪いんです。お二人とも中等部から魔央学園にやってきましたが、お互いにどちらが強いか頻繁に揉めては、決闘しているんです。どちらも最強と呼ぶに相応しい実力の持ち主なので、誰も止められないんですよ」

「なんだ、つまりはライバルって事か?」

「──ライバルじゃねぇっ!!」

「──ライバルではないっ!!」


 あ、ハモった。

 だけど二人とも、互いをライバルとは認めていない。

 二人にとって、自身は相手より絶対的に上の存在だ。だからこそ、対等の競い相手であるライバルという存在を認めないんだろう。

 なんだ、結局はライバルじゃないか。


「……ったく。そんで、あの時はてめぇが先に倒れただろうがよ。だから戦績は引き分けだ。なんなら、今ここでハッキリさせてやろうか?」

「望むところだ。2連敗もすれば、物覚えの悪い貴様でも流石に身に沁みて判るだろう」


 世界とは、神とは無駄な争いが好きなようだ。火薬庫に撒かれた導火線に火が着いた。

 互いに滾る戦意は十分、両者が合意するや否や謙誠とエヴァは臨戦態勢となり魔力が解放される。


 どちらも自身を最強と言うだけの事はある。謙誠の周囲の地面は僅かにだが変形して、エヴァの周囲には冷気が漂い地面は凍りついていた。既に圧倒的なまでの魔力が漏れ出し、周囲の事象が歪みつつある。

 両者が、退く事はない。今まさに、戦端が開かれようとした時、それ以上の実力者である声が二人の動きを寸断した。


「──時間だぞ。富士杉にブリュハノフ、馬鹿をやってないで座れ」


 第三の登場者。けどその人は生徒ではなかった。

 入ってきたのは、見事な体格を備えた壮年の男性。首にかかるくらいの濃い紺色がかった紫色の頭髪と、年齢による威厳を感じさせる黒檀の瞳で生徒たちを見据える。


 どうやら脚が悪いのか、左手に持った杖で体を支えているけど、その体格や雰囲気からは脚の不自由さなどを感じさせなかった。

 もし一言で表すのであれば、歴戦の戦人。そんな表現がピッタリだ。いや、まさしくその通りなのだが。

 静かに、だけど厳粛たる声に火花を散らせていた二人の火種はあっという間に鎮火された。

 二人は渋々といった様子で、俺と琴理の前の席に座った。


「さて、今年度から入学(はい)ってきた生徒たちのために自己紹介をしておこう。これから一年間、諸君ら一組の担任となる狼崎(ろうざき) 康賀(こうが)だ。一年の生活指導や、魔法や魔術の教科担任を任されている。以後宜しく」


 黒板の代わりとなる電子ウィンドウに表示された狼崎先生の名前に、教室全体がにわかにざわついた。

 当たり前だ。目の前にいる狼崎先生は、世界でも知らぬ者はいないとされる、臨海都市で偉大な五人の魔法使いの一人なのだから。



 ──────…………五紡星(ごぼうせい)



 それは臨海都市で最も優れた魔法使いのみが与えられる称号。まさに最強と呼ぶに相応しい、五人の偉大な魔法使い。

 その一人が、目の前にいる狼崎先生。魔法が世間に公表され、当時設立されたばかりの魔央学園を支えた人物の一人。この世にあるあらゆる魔術の知識を修め、その叡智に並ぶ者はなしと称されし賢者。故に名付けられたあだ名は、"賢狼"の狼崎。五紡星の第三位の座に座っている。

 突然の魔法界を代表する大物の登場に、クラスの皆は興奮を隠しきれない。


「おいおマジかよ、あの"賢狼"がクラス担任になるなんてな。こりゃ大珍事だぜ」

「謙誠、狼崎先生だって先生なんだから、そりゃ担任にだってなったりするだろ。何をそんなに驚いてんだよ?」

「私の知る限りでは、"賢狼"が特定のクラスの担任になったという話は聞いた事はない。五紡星の一人が一つのクラスの担任になれば、不公平や不平等などと無用な軋轢を生じる可能性があるからな。それでも"賢狼"が動いたという事は、やはり星触者であるお前が関係しているようだ」


 そうか、やっぱり俺が関係しているのか。そりゃそうだよな、世界に二人しかいない星触者だもんな。

 星触者だと判った当時、色々な人たちが俺を壊れものを扱うように、爆発寸前の爆弾かのように一歩引いて接してきた。

 俺としては、特別丁寧に扱われるより普通に接してほしいんだけどな。


「…………ん?」


 不意に、視線を感じた。違和感の正体を探ろうと視線を向ければ、教壇に立っている狼崎先生が、皆には気付かれないように俺を見ていた。

 皆から視線を向けられるのはとっくに慣れた。けど狼崎先生の視線は、他の人が向けてくる物珍しそうなモノではなかった。


 懐旧、哀愁、親愛、感慨……様々な感情が入り混じって、明確には判別できない。けれど、少なくとも悪いモノではなかった。表情の少ない狼崎先生は、俺が見てる事に気付いて、かすかにだけど口角を上げている。

 けれどそれは一瞬で、狼崎先生はいつもの厳粛な表情に戻って、新たな電子ウィンドウを表示した。


「さて、今日から魔央学園での生活が始まるわけだが、それを祝っての学園長からの挨拶がある。なるべく静かに聞くように」

『はいはーい、僕が魔央学園の学園長、虎灘(こなだ) 恭弥(きょうや)だよ。よろしくね〜』


 やけに軽そうな声だった。

 画面に映っているのは、少し逆立った琥珀色の紙に、威厳は無いけど親しみやすそうなクチナシ色の柔らかな目つきの男性が、喜色満面の表情で手を振っている姿だった。

 厳粛で表情をあまり表に出さない狼崎先生とは真逆で、思った事と表情が直結してそうな人だ。

 だけど、一見ただの軽そうで飄々としていそうな人だけど、その実力は本物だ。


 狼崎先生と共に魔央学園の設立を支え、数々の有名な魔法使いを輩出した栄光ある魔央学園の学園長たる彼は、狼崎先生と同じく五紡星の一人として臨海都市に君臨している。

 傷一つ付けられない圧倒的な防御力を誇る事から世界最硬の魔法使いと称えられしその人の名は、"城虎"の虎灘。五紡星の第二位にして、この学園の守護者である。

 けど、臨海都市最高の魔法使いと言われている虎灘さんは、特に威張る事も威厳も出さず、まるで友達にでも話すかのように挨拶を済ませていく。


『さて、この魔央学園で学んでいる皆、学年が上がったり学部が上がったり、新しく編入してきた子たちもいるけど、まずはおめでとうと言わせてもらうよ。だけど、君たちはまだまだ魔法使いの卵で、まだスタートラインにも立ってない。高く、より高く飛ぶために、自らの羽を鍛えて切磋琢磨と励んで学園生活を過ごしてほしい。……という事で、堅苦しい挨拶もこれでオシマイ! 僕から君たちの、心ばかりのお祝いをしてあげよう!』


 ドンッ!! と外から爆音が響き、振動で窓ガラスが揺れた。何事かと思い窓ガラスを開けて外の様子を確認すると、魔法の実技授業などで使う演習グラウンドから白い煙が途轍もない速さで上空に登っていくのが見えた。

 白い煙はユラユラと危なっかしく揺れながら、青い空の更に高くまで飛翔して──そして爆ぜた。

 腹の底に響くような爆音。日本人なら夏の季節によく聞く馴染みのある音だった。


 ──だけど、花火の音が終わった後の教室はやけに静まり返っていた。

 俺も含め、なんかどうしようもない気持ちに皆が支配されている中、『あの馬鹿が……』と狼崎先生は眉間にシワを寄せて頭を抱えている。



 ──昼間に花火なんて見えねぇよっ!!


 クラスの心は、その一言で一致していたのだった。

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