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魔法が当たり前となった現代で魔法使いを教育する学園に入学する事になった。  作者: 伊基 夕霧
第1章──禁書図書館《グリモ・アーカイブ》編──
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1話──新しい生活

仕事で何もできなかったけど少しずつ時間が空いたので活動を再開。

ひとまず第1部までは毎日投稿するので見とけよ見とけよ~

────……世界が、燃えている。

 朝も昼も夜も判別できぬ明るさを放つ赤々と燃ゆる炎は天をも焦がし、あらゆる万象を灰燼に帰す。

 そこに死屍累々と骸が横たわる様は、さながら地獄が現世に召喚されたかのような情景だ。


 あらゆる生物の活動を許さぬ獄炎の世界。そこに一人の青年が、一振りの日本刀を地面に突き刺して立っていた。

 頭や腕などから血を流しながらも、煤けた衣服も気にせず佇むその姿は、まるでこの世界の主のようにも見える。


 青年は燃ゆる世界で尚も笑みを浮かべ、握った刀は猛々しく炎を噴出させた。


「やめるんだ■■! それ以上の力は引き出せば、お前の身がもたないぞ!」

「ちっくしょうがっ! おい■■この野郎! てめぇ一人でおっ死ぬつもりか!?」


 身を包み込む炎を纏う青年に飛ばされる怒号。炎を操る青年と同い年だろう、血で濡れた紫紺の髪とくちなし色の髪をした二人の青年が怒号を飛ばしている。

 しかし相変わらず、顔は影がかかっているようにうまく見えない。それに日本刀を握る青年の名前らしき声も、水中で喋る声のように聞き取れない。


 ……やっぱり、これは夢なのか。


 少し前から繰り返し見るようになった夢。その内容は幾度見ても変わる事はない。

 だったら、この先の結末も同じだろう。

 青年は、この状況とは不釣り合いな明るい笑顔を向けて、そして二人に謝る。


「……二人ともゴメンな。全て丸投げしちまって。すまねェけど、あとの事は宜しく頼んだ。──最果てに燃えて落ちろ、〈火舞棺烙〉(カブカンラク)


 友達と世間話でもするかのように、二カッと笑いながら青年は炎を激しく燃え上がらせた。

 それを見て二人は悲痛な叫びをあげるが、その声に答える事なく炎は青年を呑み込み、天を突く程の巨大な塔がそびえたった。


 炎の棺は全てを呑み込んでは燃やし尽くし、全てを灰燼にして消え去ってしまったのだった。

 自身を生み出した親である、青年も一緒に……。




 ***




「ん、ぅ……朝、か……」


 遠くから聞こえてくるアラームが次第に明確となり、カーテンの隙間から差し込む太陽の光が強制的に意識を覚醒させる。

 しょぼしょぼした眼をこすって大きな欠伸を一つ、もう一度安眠の世界へと手招きしている睡魔を外に追い出して、上体を起こす。

 けど、頭の中は依然とスッキリしない。


「またあの夢か。何度も何度も、なんだってんだよ」


 朝っぱらから、ついつい悪態をこぼしてしまう。

 それも仕方ないよな。お世辞にも、良い夢とは言えない内容なんだから。

 激しく燃え上がっている世界に、目の前に広がる骸と押し寄せてくる敵たち。おそらく夢に出てきた青年たちは、その敵の大群を迎え撃っていたんだろう。そこで炎を操る青年は、自分の命を犠牲に敵を全滅させた。


 そんな夢を、いつしか何度も何度も繰り返し見るようになったんだ。もちろん夢に出てきた場所や人物は、全く記憶に無い。とはいえ、同じ内容の夢をただの夢と切り捨てる事もできない。

 いくら考えても答えが出るわけもなく、気持ち良くない夢に朝からテンションは最悪だ。


 気分も落ち込む気怠いため息をこぼしていると、ベッド脇に置いてあるスマホのバイブレーションが鳴った。

 電話の相手を確認すると、幼馴染の名前が表示されていた。


「えっとえっと、テレビ電話だからこのボタンを押してっと……」

『やっほー熾隼くん、もう起きてる?』

「よお蓮夏、おはよ」


 慣れないスマホの操作をしながらボタンを押すと、スマホから小さな電子ウィンドウが展開され、見知った顔の幼馴染が映っていた。


 茶色っぽい褐色の髪を肩にかかるくらいの長さまで伸ばし、灰色がかった黄赤色の丸い瞳、そして俺よりも頭一つ分低い小柄な身長と、見てるこっちも和みそうな温和な顔付き。本人が聞けば間違いなく怒られるが、着るもの次第では女子と誤解されそうな容姿。

 小学校からの長い付き合いである、親友にして幼馴染の坂蔵(さかくら) 蓮夏(れんか)が、電話の向こうで手を振っていた。


「そんで、テレビ電話なんてしてどうしたんだ?」

『新しいスマホを渡されたばかりだから、試しに熾隼くんにかけちゃった。ホントにスゴイ機能だね』

「まあな、俺も驚いた。さすが臨海都市の機械だな」


 俺たちが今いる臨海都市は、実はただの都市ではない。ある学問を追求するために設立された、先進的な設備が整っている近未来的な都市となっている。



 ──────…………魔法。



 それが、この都市では学問として扱われている。

 今から十五年前、ある一人の男によって、魔法という存在が世間に公表された。

 当時は世界も大混乱していたようだけど、今では立派な一つの学問とされて、大きな学園も設立された。

 それがここ、日本から遠く離れた小さな孤島、四方から海を眺望できる臨海都市にある。


 現在、魔法使いを育成する三つの機関の中でも世界で最大の教育機関。その名も、"魔法技術世界中央教育学園"──通称"魔央学園"。

 俺──御堂(みどう) 熾隼(おきと)と幼馴染の蓮夏は、その魔央学園の高等部に入学する事になっている。


 しかし魔法と言っても、なんでもできるファンタジーな代物ではない。

 魔法は、この星に眠る知識である星霊(せいれい)を引き出して引き起こす万物の総称。そこには、まだ俺たちが知る由もない理が死蔵されている。

 臨海都市では、その引き出した理を科学へと転換して発展。既存の科学から半世紀も時計の針を進めたと言われている。


 現在も日々進歩している臨海都市は、尚も新しい機器や技術を開発。その新商品のテストを俺たち魔央学園の生徒にやらせているんだ。

 このスマホも臨海都市がまだ発売していない新機種であり、俺が今住んでいる魔央学園の学生寮には他にも様々なモノが商品テストとして置かれている。

 俺たちは使った感想をアンケートに書くだけだ。その結果、機能を改善させたモノを新たに試したり、そのまま臨海都市に商品として発売される。

 渡されたこのスマホは、まあ上々といった感じかな。


『あと、今日は魔央学園の入学式だけど、熾隼くんは準備できてるの?』

「準備? ……ああ、これからするところ」

『はあ……やっぱり、この時間にかけてよかった。早く準備して、遅れないようにするんだよ。僕は先に学生寮の一階で待ってるからね』

「あいよ」


 通話が終わると、宙に浮かぶウィンドウは消えてスマホは元の形に戻った。

 さて、身支度をしなければという事で、少し名残惜しいが柔らかいベッドから起き上がる。

 入学初日から遅刻なんて、ぼっち待ったなしの笑えない冗談だ。まずは目覚めたばかりの顔をシャキッとするために、洗面台へと向かう。


「……だけど、相変わらず広くて立派な部屋だよな」


 二人くらいは寝れそうな大きなベッドや、四、五人は集まって騒げそうなリビング。きっと俺は使わないだろうけど、最新のシステムキッチンを設えている。

 どこぞの高級ホテルよりも立派な内装に、改めて驚かされる。

 やっぱり金がたんまりあるんだなと俗な思いを抱きながら洗面所へと入り、そんな思いも一緒に洗い流す。

 銀色のレバーを引き上げれば、冷たい水が手桶の中へと貯まっていき、一気に顔に浴びせかける。


「んっ……スッキリしたぁ」


 顔一面に冷涼さが駆け巡り、まだ少し重い瞼は瞬時に開き意識が覚醒した。あと二、三回冷や水を顔にぶっかければ、頭は完全に覚めた。顔を上げれば、鏡の前にはいつもの俺の顔が映っていた。

 寝起きで少しボサボサしている消炭色の髪を水を付けて整えて、煤竹色の眼はいつも通りに鋭い。初対面の人──特に子供には怖がられて泣かれてしまう事もある俺のコンプレックスなんだけど、今更治ってくれるわけもないか。

 備え付きの柔らかなタオルを手に取って顔の水気を拭き、使い終わったタオルを洗濯機に放り込む。


 顔も洗い終わってリビングに戻れば、埃一つない魔央学園の制服がかけられている。

 黒を基調として、白の細いラインが引かれている制服。袖を通せば、これから魔央学園の生徒なんだという思いが込み上げてきて、新しい学園生活に期待で胸が高鳴る。

 下ろしたてでまだ少し生地が固いのはご愛嬌。部屋の隅にある姿見で確認してみるけど、どこも変な所はなさそうだ。


「……よし、問題なしっと」


 制服は大丈夫。あとは床に置いてあるカバンの中を確認してみるけど、特に何も不足している物は無い。腕を持ち手に通して肩にかけて、玄関のドアを開ける。


「俺しか住んでいないけど、いってきますって言えばいいのかな?」


 誰もいない部屋に語りかけても、もちろん言葉が返ってくるわけでもない。けど、この部屋が俺の帰るべき場所なのだと、改めて実感させてくれる。

 これから世話になる部屋に挨拶をして、俺は静かにドアを閉める。

 孤独な室内に、鍵のかかる音だけが最後に響いたのだった。

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