クマとヘビと、ドングリ池
「よし、今度こそドングリ池で願い事をして、僕の怖がりの性格を治して貰うんだ」
朝、起きてそんなことを思い立ったクマは、そう何度目かの決意して森の中を彷徨っていた。
そして、ドングリを見つけては拾い見つけては拾って、いつの間にかクマが持っていたカゴいっぱいになっていた。
「よし、これだけドングリがあれば何とかなるよね」
クマは、そして辺りを見渡す。
「あ、もう辺りが暗くなってきている。・・・こ、これから、ドングリ池に行くなんてむ、無理」
既に夕暮れとなっていた。クマは、朝から夕方まで一心不乱にドングリを集めていたみたいだ。
現在クマがいる場所は、ねぐらから近い。そして、ドングリ池は、ねぐらから遠い。
そして、クマは、極度の怖がりだ。
当然の帰結として・・・
「よし、明日、ドングリ池に行こう」
となるのだった。
次の日、
「うん、今日もいい天気。今から、ドングリ池に行こう」
クマは、ドングリが入っているカゴを背中に背負いながら、ドングリ池に出発した。
ドングリが落ちないようにクマは、ドングリ池に歩いていった。
「やあ、クマさん。どこへ行くんだい?」
途中、根っこ広場を通ったとき、ヘビが声をかけた。
「わっ、・・・び、ビックリした。な、何だ、へ、ヘビさんか。こ、こんなところで、ど、どうしたの?」
クマは、あまりにもビックリしたのか、どもってしまった。
「相変わらず、怖がりだなあ、クマさんは。そんなに驚かなくてもいいじゃないか?」
「ご、ごめん。つい・・・」
「クスクス、謝らなくてもいいよ。何時ものことだし」
それ程頻繁に、クマの怖がりは有名だった。
「うっ。そ、そうだね。ごめん。・・・今度こそ怖がりを克服したい」
「ところで、もう一度聞くけど、クマさんはどこに行くんだい?」
「ドングリ池だよ。願い事をしに行くんだ」
クマは、ヘビに言う。
「そっか。・・・もしかして、願い事は、その怖がりの克服?」
ヘビは、クマの願いを先に言う。
「うん」
「じゃあ、そのカゴの中は、ドングリ?」
何故か、ヘビは、カゴの中を気にしてきた。
「そうだけど。・・・そういえば、何でヘビさんはこんな所にいたの?」
一瞬、何か不吉な予感が過ぎったが、すぐに消えた。
「食べ物を探しに来たんだ。・・・お腹すいたなぁ」
ますます不安感が増す。
(・・・何で、ヘビさんは、僕の背中のカゴを見ているのかなぁ)
「じゃ、じゃあ、ぼ、僕もう行くね」
クマは、急いでその場を離れようとした。
「お腹がすいたなぁ。・・・あ、そうだ。あんなに沢山カゴの中にドングリがあるんだから1、2個食べても、バレない、バレない」
そんな物騒なことをヘビが呟いたことをクマは、知らない・・・。
「あれ? ちょっとカゴが重くなった? 気のせいかな?」
「ふう、やっと着いた。重かった」
クマは、やっとドングリ池に着いた。
そして、カゴを下ろして、ドングリを取り出すためにカゴの中を覗こうとして、気付いた。
あんなにカゴいっぱいになっていたドングリが見えないのだ。
「あ、あれ? ない! ドングリがない!! え? え!? 何で、カゴの中にヘビさんが寝ているの?」
その声が聞こえたのか、ヘビの目が開いた。そして、クマと目が合った。
「あ、・・・」
ヘビの気まずい顔を見て、クマは、全てを悟った。
「ひ、酷いよ、あんなにあったドングリを全て食べてしまうなんて」
「ご、ごめん。だ、だって、あまりにもお腹が空いていたんだ」
本当に申し訳なさそうに、ヘビは、クマに謝った。
「だからって、全部食べなくたって・・・」
「ごめん、本当にごめんよ。代わりに僕が今度ドングリを拾ってクマさんにあげるよ」
余りにも憔悴しているクマを見てヘビは、言った。
「ダメだ。ダメなんだよ。だって願いを叶えるためのドングリは、願いを叶えたい本人が集めなければならないんだから」
そう、願いを叶えるためにそれ相応の対価を必要とする。それは、強い強い願いの気持ち。ドングリを探し見つけ拾う。そのドングリを拾うときに願いを込める強い気持ちが、ドングリ池にドングリを投げ込むことで願いが聞き届けられると言われている。
「何で、何で、何で。いつも、いつも、いつも。みんな、邪魔するんだよ」
そう、クマがドングリを集めたのは、初めてではない。
初めは、歌上手のコマドリに綺麗な歌の報酬として、いたずら好きのリスには、イタズラでドングリを盗まれた。
そして、今度は、食いしん坊のヘビ。
クマの願いは、また聞き届けられない。