8.ドラゴンと少年とヒストリー 前編
今日は18時にもう一話アップします!
彼女はまず死の大陸、いや、『エレイオン』という今はその名前すらも忘れ去られた大陸の話をした。
彼女は、大陸を守るドラゴンとして、精いっぱい努力したのだという。
それはドラゴンとして、生物の頂点として生まれたのだから、大陸の一つくらい、必ずや素晴らしい楽園にしてやろう、という彼女の誇りと使命感からくる目標だったのだという。
楽園にするにはそこに住まう生き物が幸福でなければならない。そして幸福であるためには豊かな大地が必要不可欠だ。そして、大地を豊かにするにはエネルギーがいる。エネルギーを効率よく収集するには大陸に住む生き物たちから慕われるようなドラゴンであることが何より大事だった。
愛され、感謝されることが何よりも得られるエネルギーが大きいからだ。
こうして彼女は人々に慕われるよう、生き物には親切にし、愛し、慈しんだ。そして得たエネルギーでどんどん大陸を豊かにした。そうするとまたたくさんの生き物に感謝され、慕われた。
話を聞く限り、エレイオンでは大陸を統べるドラゴンである彼女に会うのはとても簡単なことだったという。癒しを与える白い花を創造した彼女は、一面その花の咲く丘を作り、その花が血で汚れることを禁じ、そしてその場所はドラゴンと憩いの場として大陸中の生き物に提供された。
彼女はその丘の上で穏やかな時を過ごしながら、大陸中にエネルギーが行き届くように、神経を配る。そうすると自分以外にこの大陸を統治する生き物が必要だということに気が付いた。
誰に任そうか。そう考えたとき、足しげく毎日エリスのもとへと通い、何くれとなく彼女の世話をする魔族の夫婦を思い浮かべた。
その頃の魔族はまだ貫頭衣を着た、魔法もあまり使えない種族だったという。角もなく、ただ長寿であるため子はなしづらい。そんな生き物だったという。
彼女はいつもこの丘へと来てくれる生き物たちすべてが可愛くて愛おしくてたまらなかったし、また、こうしてこの場に来てくれることに感謝していたが、この夫婦への感謝は特別深かった。
なにしろ、彼らは毎日毎日来てはエリスの鱗を磨き、彩り豊かな花輪を編み、甘い果実を持ってきてくれた。そして周囲の生き物たちにもとてもやさしく接し、なんのかんのと困っている者へ手を差し伸べた。彼らが心から自分に感謝してその行動を起こしていることを感じ取れるエリスは、この大陸を統べるのであればこのような心根の優しい生き物がいいと思ったという。
だが、このままでは魔族はあまりにも弱い。
大した武力も持たぬひ弱な種族だ。正義が勝つのではなく、勝ったものが正義なのだ。正義を通すためには力も必要だ。
そこで彼女は、彼らにエリスとおそろいの巻角を与え、自らの眷属とした。魔族は強靭な肉体と、エリスを慕う動物たちと会話する能力を得た。そしてエリスから龍脈から力を循環させて使う強力な魔術の使い方を教わった。
こうして後世に名を遺す魔族という種族が完成したのだった。
彼らはうまい具合にほかの生き物たちと折り合いをつけながら、瞬く間に発展していった。
彼らは菜食主義で、無駄な殺生を好まず、しかし優先順位をつけて取捨選択し、この大陸がどうなるのがいいのか、エリスとよく相談しながら大陸を治めた。
そうして、様々な動物たちから協力を得ながら王都を造り、豊かな自然を守り、ほかの大陸ともうまくかかわっていくエレイオンという国は誕生したのだった。