5.ドラゴンと少年と軽めの真実
「さーて、戻ろっか!テオ!」
ダンジョンコアを片手で握りつぶした彼女は、俺を振り返り、にこやかにそう言った。
彼女の背景ではだらしない表情をしたケルベロスがどすの利いた声できゃうんきゃうんとはしゃいでいる。
シュールだ。
ここまで来て、一旦落ち着いた。
この町にいるやつで、このダンジョンの最深部まで来られるようなやつなんていないから、誰かに邪魔されるということもないだろう。
俺なんてどうせ彼女がどうこうしようと思ったら一ひねりでおしまいだろうからもはや警戒するだけ無駄だ。なら正直にいこう。
「助けてくれてありがとう、エリス。ところでお前、いったい何なんだ?」
「え?普通の17歳の女の子ってことにしてるよ?」
「『ってことにしてるよ』の時点でもう誤魔化す気ないよな?」
思わず突っ込む。
あまりにも雑すぎるだろう。ピクニック気分でダンジョンを攻略し、背後にケルベロスを侍らせ、片手でダンジョンコアを握りつぶすような『普通の17歳』がいてたまるか。誤魔化す気があるならもう少しちゃんと誤魔化してほしい。
「結構抑えたつもりなんだけどなぁ。これだとまだ変?」
「もうどこから突っ込んだらいいのかわからないレベルで変」
まさかのあれで抑えていたらしい。もう本体がなんなのか全然わからない。
でもこんな物凄い強さの生き物が、なんだって飢えて動けなくなっていたんだろう。
俺は優しくケルベロスの頭を撫でてやっているエリスの横に腰を下ろしてから尋ねた。
「なんであんなに飢えてたんだよ。お前なら別に食べ物を撮るのに困ったりしなかったろ」
「私の食事はちょっと特殊だからね」
エリスもおしゃべりに付き合ってくれる気になったらしく、ケルベロスによりかかるようにして座り込んだ。
「私が必要なのは純粋なエネルギーだからね。こういうやつ」
こういういやつ、といって彼女は握りつぶしたダンジョンコアをこちらに翳した。
あ、それ、食べ物の認識だったんだ。
「今はこの大陸の龍脈とつながるわけにはいかないし、怪我してるから体力ないしであの時は本当に助かったよ」
「けど、俺はあの時干し肉を渡しただけだ。それでも動けるようになるのか?」
「あれは、干し肉と一緒にテオが私を助けようとしてくれた気持ちを食べたんだよ。そういうのはエネルギーが強いから、結構お腹が膨れる」
「なんだその仙人みたいな話は」
「あながち間違ってないよ。ドラゴンなんて物理的なエネルギーで暮らそうと思ったらとんでもなく燃費が悪いもん。毎日食事してたら一日が終わっちゃうよ。だからもっと高次元のエネルギーで生活していく必要があるんだ」
ドラゴン、だと?
なんか今とんでもない暴露話をされた気がするけどいいんだろうか。
「エリスは、ドラゴン?」
「そうだよ!私は楽園のドラゴン。まあ、今は破滅のドラゴンって呼ばれてるらしいけど、失礼しちゃうよね」
彼女はものすごくあっさりと、自分が化け物であることを認めたのだった。
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