プロローグ
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@chidori_whichi
彼女はいつも白い花が咲き乱れる丘の上にいた。
そこはこの大陸の一番高い位置にあり、王国にある白亜の城よりも高い唯一の場所だった。
彼女の周りにはいつもたくさんの生き物が溢れていた。彼女は大陸中の存在から愛されていて、なおかつ彼女もまた彼らのことを心から愛していた。
その丘の上は世界で唯一、弱肉強食のルールも自然淘汰のルールも関係がなかった。
それは彼女が隔絶した絶対的強者であり、この白い花の丘を他の色で犯すことを禁じるというルールを敷いていたからだ。
彼女は世界中でとても有名だった。
彼女の大陸はエレイオンといい、その大陸の名は『楽園』と同義語だった。楽園は五つある大陸の中央に位置し一番小さかったが、世界への影響力は一番大きかった。
それは彼女が最も愛した生物である魔族が、慈悲深く優秀であったからだ。
彼女の育てた最強にして最優の種族と、そして楽園と呼ぶにふさわしい豊かで平和な大地。どの大陸のドラゴンよりも素晴らしい覇者として、彼女はエリスというその名ではなく、尊敬の念を込めて『楽園のドラゴン』と呼ばれた。
彼女は幸せだった。
一番小さいといえど、島ではなく大陸と呼ばれる広さのある大地、エレイオンはたった一つの王国に統治されていた。だから国の名前もエレイオンといった。
素晴らしい国だった。
その統治者である魔族は自然を愛し、生き物を愛し、他者を愛し、何より自分たちをこんなにも優秀な種族にしてくれた彼女を、『楽園のドラゴン』を愛し、敬い、崇拝していた。
街並みは美しく、豊かな自然を保護し、教育と医療は貧富の差にかかわらず行き届いていた。大地は豊かで、食に困るということもなく、魔族は子を生しにくかったが、その分人口が溢れてしまうということもなく、故に貧困とは無縁であった。
外国からの居住者の受け入れは基本的に受付ていなかったが、世界の人々の救済にはよく貢献し、とはいえ牛耳られるということもなく、また魔力体力ともに優れ、魔獣たちを従える魔族はそれだけで世界の抑止力となっており、まさに世界の中枢と言えた。
彼女はそんな優秀な彼らといられることが、本当に幸せだった。
けれどそれはもうずいぶんと昔の話。
彼女の愛したものは、歴史に名を遺す大戦『人魔大戦』にてすべて消え失せた。
彼女の楽園は、虫の一匹、草の一本も生えられぬ死の大地となった。
彼女の魔族は、駆逐された。
彼女の体は、あの丘の上に百八本の杭でもって封印された。
けれど彼女は、すべてを奪われたその時に決めたのだ。
必ず、またここを楽園にするのだと。
必ず、魔族たちに栄光を取り戻すと。
必ず、自らを貶めた者にやり返してやると。
世界を征服し、世界に平和をもたらすのだと。
人魔大戦から300年、その日ついに最後の杭を心臓から引き抜くことに成功したエリスは、たっぷりと女神の呪詛が染みついたその杭を力の限り大地へ叩きつけた。
血が噴き出し、呻き、それでも彼女は立ち上がった。
彼女の戦争は終わってなどいなかった。立派な角は砕け、大きな翼の被膜にはところどころ穴が開き、あちこちの鱗がはがれていた。
それでも立ち上がった巨大な姿は威風堂々とし、衰えている様子はうかがえない。
GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO――――!!!!
激しい咆哮を聞くものは誰もいない。
エリスは金色の目を爛々と光らせると、その翼に力を入れ、月のない夜空に舞い上がる。
象牙色の美しかった鱗はあちらこちら乾いた血で赤黒く汚れていたが、それでも星明りを受けて淡くきらめいている。
そして彼女はかつては自身を称賛し、そして一番最初に裏切った一番巨大なドラゴンの大陸へとむけて飛び立った。楽園を取り戻す第一歩を踏み出すために。
彼女のことを『楽園のドラゴン』と呼ぶものはもういない。
白色金眼のドラゴンを、人は『破滅のドラゴン』と呼ぶ。