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青春体験ツアー

しかし、美香は、奇跡で終わらせなかった。


その日から、美香は「青春体験ツアー」とか称して、俺を外に出そうと奮起するようになった。


引きこもりだった俺をなにがなんでも外に連れ出したいらしく、公園の花が綺麗だとか、夕陽が綺麗だとか、一番星が登ったからとか言っては俺に着替えさせる。


図書館で一緒に本を借りてほしいとか、明日試験だけど勉強したくないからというのもあった。


遊びに行く口実にされているような気もしたが、しかし、美香が俺に気を使っているのだとも理解していた。


あんなに恐れていた外の世界も、美香も一緒なら飛び込める。


そんな新たな発見に気づきながら、俺は美香が家を訪れるのを待ち、二人で夕方の街へと歩き出すのだった。



「青春といえば、スポーツだよねえ。でも、タッくんは、アウトドア派じゃないしなあ。バーベキューとか花火とか、絶対着いてきそうにないよね」


ぶつくさと文句を垂れる美香を後ろに乗せ、俺は自転車を走らせる。


川沿いで揺らめく水面が陽光を反射して、暮れなずむ街を彩っていた。


「花火くらいだったらやるけど。バーベキューは昼間にやるんだろ? 日が昇っているうちは外に出たくないなあ」


「また、タッくんはそういうこと言って!」


美香が頬を膨らませる。


「ねえ、試してみたくない? マシュマロって焼くと美味しいんだって。でも口元ベタベタになるから、みんなの前では食べたくないじゃん? 二人で行ってみない?」


「いーやーだ、って」


美香は、自転車のうしろでブスッとした顔をする。


俺は、喉の奥で笑っていた。


夕方の街を自転車で疾走しながら、ちょっとした口争いをする。


ああ、俺は知っている。



――これは、紛うことなき青春だ。




俺が気負わないようにと、美香は砕けた笑顔で俺を迎えに来て、俺が青春をしてみたいと言った一言を忠実に実行しているのだと思うと、申し訳なくなる反面、嬉しくも感じた。



相変わらず学校には登校せず、美香が迎えに来なくては外にも出られない有様であったが、それでもゆっくりと、日常は姿を変えつつあった。

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