向かった場所は
「で、これのどこが青春なんだ?」
連れてこられたのは、夕方の喧騒でごった返すマクドナルドだった。
まさか三年ぶりに外に出て、真っ先に連れてこられた場所がマクドナルドとは思わなかった。
ファーストフードの使い方すら忘れてしまった俺を、美香は手を引いて椅子に座らせる。
ハンバーガー二つと、マックシェイク一つを目の前に、美香は、カラカラと笑った。
「女の子と一緒に、夕方のマックにたむろする! 青春じゃなーい!」
きゃーっと顔に手を当てて盛り上がる美香に、俺は長々と息を吐き出す。
3年ぶりに財布を使って買ったのが、マクドナルドのハンバーガー。
それを一口含むと――死ぬほどまずかった。
ハムのように薄っぺらい肉パテ。
びちょびちょに濡れたバンズ。
海藻と間違うほど堅いレタス。
とても食べられたもんじゃない。
きっと高校に行けていたら、この死ぬほどまずいハンバーガーを毎日のように食べていただろう。
放課後に、同級生たちと一緒に。
俺は、泣きそうになりながら食べ続けた。
そのハンバーガーは世界一まずくて、
世界一、自由の味がしたのだ。
「この間ねえ、友達……と来たんだけど。マックシェイクってストローで飲むときヘンな音がするじゃない? だから頼めなくてさ。タッくんと来れてよかったよ」
美香は呑気にそう言って、期間限定のシェイクを飲み始めていた。
「ワクワクするね。二人きりのマック。すごーい、ドキドキして来ちゃった!」
「……そうかよ」
一人で勝手に満喫してはしゃぐ美香に、もはや反抗の気も起きない。
ただ一心不乱にバーガーを食べていた。
普通の人からすれば当たり前のことが、俺にとっては当たり前じゃない。
そのことを改めて思い知ったし、今日が奇跡に思えた。