ネイル(創作百合)
初めて、割りきり掲示板を使った。
彼女に振られた寂しさを埋めるため、元カノの顔を塗りつぶしたプリ写メとセクと住みを載せて。
5分もしないうちにスマホが鳴った。
「こちら、フェムタチ28歳、東京住みです。車アリなので、近県までは行けます。」
3歳年上のお姉さん、顔も美人だった。期待はしてなかったけど、思わぬアタリに少しにんまりして、返事を書いた。
待ち合わせは、大宮駅。少し、田舎くさいと思われるだろうか?
大宮駅でそわそわ待っていると、その人は現れた。周りの誰と比べても、美人で、思わず顔が真っ赤になった。
(何でこんな人が割りきりなんて…。)
その人が近づいてくると、ふんわり大人の良い香りがした。
「すぐにってのもなんだから、少しドライブでもする?」
私は、「へい!」と変な返事をしてしまった。その人は、ニコッと微笑むと、左手を差し出して、繋ぐように促した。
「ちょっと狭いけど、都会ではちょうど良いの。」
その人の車はクリーム色のミラジーノという軽自動車だった。
「タバコ吸う人?車内禁煙じゃないけど、吸い殻は自分で処理してもらってるの。」
「あ…吸わないです。」
「そう、なら問題ないね。私も吸わないから。」
車が走り出すと、軽快な英語の音楽が流れ出した。普段、アニソンしか聞かない私は少し気後れしてしまった。
はじめは窓の外を観ていたが、気まずくなって、その人のハンドルを握る手を見ていた。その人の手は、爪が丁寧にネイルしてあり、少しアーティスティックなデザインが描かれていた。
(この人タチなのに、こんな長い爪でどうするんだろう…。)
私の不安をよそにその人は音楽を口ずさんでいる。
「あ、ごめん、知らない曲だとノリづらいよね。普段なに聴いてる?」
「え、あ、アニソンとか…。」
(しまった…。)突然の質問に、取り繕う暇もなく、本当の事を言ってしまった。
するとその人は、オーディオをいじり始めた。
「プリッキュア、プリッキュア~♪」
突然、さっきまで大人の雰囲気の車内だった空間に、プリキュアの音楽が流れ始めた。
「これくらいしかないけど…。」
お姉さんは照れくさそうに、頭を掻いていた。二人でクスクス笑いだすと、一気に車内の空気が変わった。
私の緊張もとけ、お姉さんも色々話してくれた。見た目とは違い、とてもオチャメな人だとわかった。
ホテルについて、シャワーを浴びていると、また緊張してきた。すると、脱衣所からお姉さんの声が聴こえてきた。
「ねーねーここ、コスメ二人分あるよ!ビアン掲示板にあった通り!」
お姉さんがあまりにはしゃいでいるので、私はまた、クスクス笑ってしまった。
「お待たせ~」
突然、お姉さんがバスルームに入ってきた。スタイルもかなり良い。私の幼児体型が恥ずかしく感じた。
「湯船溜めて、一緒に入ろう」
お姉さんがお風呂の蛇口をひねるところをチラッとみると、ネイルがきれいに無くなり、爪も短くなっていた。
「切っちゃったんですか!?」
私は、お姉さんの手をつかんでいた。
「え、だって、邪魔でしょ?」
「でも、お金も時間もかかるものなんじゃ…。」
お姉さんは、ふっと照れくさそうに笑いながらこう言った。
「私は、女の子を傷つけるものが嫌いなの。例えそれが自分の爪でもね。」
私がポカーンとしていると、お姉さんは入浴剤を投入し始めた。
「これ全部ミックスしたらまずいかなぁ?」
私はまた、クスクス笑いながら、
「お姉さん、面白すぎ、変なにおいになっちゃいますよ。」
と言って、入浴剤を取り上げた。
二人でお風呂には入りながら、いろんな話をした。私が振られてやけになったこと。お姉さんは仕事が忙しくて恋活を休んでいたこと。家族のこと、友人のこと。
ベッドにいくと、また緊張してきた。今度もお姉さんが緊張を和らげてくれると期待していると、お姉さんも緊張している様子だった。
(どうしよう…。)
ベッドで二人並んで会話がない。
お姉さんの方をみると、天井をただみつめていた。
「ごめんなさい。」
お姉さんが突然謝った。
「騙すつもりじゃなかったの。」
何のことかわからなかった。
「三年前やり取りしていたらむって、覚えていますか?」
らむ…。その名前には聞き覚えがあった。
私が恋活してた頃に出合った、ぽっちゃりな年上のフェムタチさんだった。
「らむは、私なの。」
私は、突然も告白に頭が混乱していた。
「当時、貴女を狙ってたんだけど、他の人と付き合っちゃって、悔しくてダイエットしたの。」
私はますますわからなくなった。らむさんは確かに面白い人だったけど、何も言われないから友達だと思っていた。
「あれ以来、痩せてモテ始めたのはビックリしたけど、貴女のことがわすれられなくて、誰とも付き合えなくて、割りきりで心の隙間を埋めてたの。だけど…。」
お姉さんはしばらく黙ったあと起き上がってこう言った。
「貴女とはちゃんと出会いたかった。」
お姉さんは泣いているようだった。
私は、お姉さんの背中をさすることしか出来なかった。
しばらく沈黙が続いたあと、私は重い口を開いた。
「じゃあ、はじめからやり直しませんか?」
お姉さんの手を握って、
「ちゃんとしたデートから、やり直しませんか?」
そう言った。
お姉さんは、涙を流しながらも、ニコッと笑顔を見せてくれた。
それから、毎週日曜は元らむさんとのデートを続けている。
あのホテルの続きは、二人がちゃんと決心がついてからと約束して。
でも、そろそろ、私は言おうと思っている。
「お付き合いしませんか?」
と。
終わり