第七章 ジュリエットはパリスとの結婚を拒絶する
またもや遅く・・・・。すみません。
「やあやあ皆さまご機嫌よう!!!!!」
わっ、と会場がどよめく。
なんだなんだ!?・・・・・どうしてみんな動揺してないんだ!?というか、歓声が起きてる!?あ、嫌だったけどまだちゃんといるよ!!舞踏会!!!
「舞踏会、楽しんでいらっしゃいますか?ええ、楽しんでいらっしゃることでしょう!!」
ちょっ、一体どこから声が・・・・!?
「・・・・・上を見ろ。」
えっ・・・・・・?
上を見てみると、ブランコのようなものに乗り長い髪を靡かせている人が見えた。
「仮面・・・・・・?」
といっても、顔面を覆うようなものではなく、目元のみを覆うようなタイプの仮面だ。
「ですが、明日・・・・・・皆様を舞踏会をも超える興奮へと誘いましょう!!」
ううぉおおおおおおおおお!!!!!!
すごい・・・・・会場が一気に熱気に包まれた。
「今回の『薔薇ソワレ』の演劇の演目はロミオとジュリエット!!!主演はもちろん私、ロゼ・ロードン!!」
うぉおおおおおおおおおおお!!!!!!
・・・・・・・・。
「そして・・・・・今回の『薔薇ソワレ』のゲストは・・・・!!」
おおおおおおお・・・・・・・!!!!!
「フィアーノ・ルレザン氏とミスルトゥ・ヤドリギ氏!!お二人にはそれぞれ、演奏会『愛と美の女神のためのコンセール』と人形鑑賞会『眠り姫』を行って頂きます!!そう、今回は!!!」
うおおおおおおお!!!!!
「三大貴族の揃い踏み!!!!!」
すげえええええええええ!!!!!!!
マジか・・・・・・それは本当にすごいな・・・・。たしか、この国の三大貴族はそれぞれ芸術面に秀でているものがあったはず。ロゼは演劇。フィアーノは音楽。ミスルトゥは人形造りや洋服造りなどの造形関係・・・まぁ、特に人形造り。
「うふふ・・・・・おほほほほほほ!!!!!さぁ、お受け取りください!!」
パチン
ロゼが指を弾くと、薔薇の花弁が天井から雪のように舞い落ちてきた。
「なんだ・・・・・・?」
花弁を一枚、受け止めてみると花弁だったはずのものが、美しいデザインの手紙のようなものに変わった。
「招待状・・・・・?」
フランを見ると、フランの手にも同じようなものが握られている。
「それでは明日、宵の明星がもっとも輝くころにローゼン歌劇場にてお待ちしております。」
そのことばを言い終えると、ロゼは指先から徐々に薔薇の花弁になっていき、花弁は全て風に吹き上げられ夜の暗闇へと吸い込まれていった。
「ねぇ、フラン・・・・。」
招待状と書かれた、妙に凝ったデザインの手紙を見つめる。もしかして・・・・これ・・・・・・
「明日の公演のチケット・・・・・・?」
「・・・・・・の、ようだな。」
フランとチケットから視線を外し、周りを見ると、大喜びしている人から絶望した様子で床に蹲っている人まで様々だ。
「あの・・・・すみません・・・・・・・・。」
急に声をかけられた。
「はい?」
「そのチケット・・・・・譲ってもらえませんか・・・・。」
そういう風に言われると、譲りたくなくなるのが人の性というものである。
「ごめんなさい。私、どうしてもこの公演、見に行きたくて。」
嘘ではない。一応、結婚相手候補に三大貴族はガッツリ入ってるし・・・・・。
「そうですよね・・・・。普通・・・・。」
声をかけてきた人はとぼとぼとどこかへ行ってしまった。
「そんなに行きたかったのか?」
「いや・・・・。ただ、人の性に抗えなくて・・・・。」
「・・・・・・?」
今さらだけど、物凄く申し訳ないことをした気分になってきた・・・・。
「フラン・・・・部屋に帰ろうか。」
「ああ。」
* * * *
「しっかし、今回のロゼの舞台も恐ろしく豪華だな。」
「そうですね。」
「怪人と狂人と奇人の揃い踏みだぞ?一体どうなることやら・・・・。」
「末恐ろしい・・・・。でも・・・・・・
「「気になる・・・・・・。」」
「だよなぁ・・・・。」
「怖いもの見たさのような、素晴らしいものを見たいだけのような・・・・。」
「今回チケットを取ることは出来なかったが、当日販売のチケットもあるだろうし・・・・。」
「今日は寝れませんね・・・・。」
「ああ・・・・。販売所の前で並んどかなきゃな・・・・。」
「もう、並んでいる奴もいるかもしれませんよ。」
「だな・・・。あああああ!!金が!!吹っ飛ぶ!!今月の俺たちの小遣いこれできっと吹っ飛ぶぞ!!」
「さっき取っとけば・・・・半額ですんだのに・・・・。」
「うっ・・・・。だが、だが・・・・外部の人間よりはマシだぞ・・・・・・。」
「たしか・・・私たちの十倍の値段でしたっけ・・・・・?」
「らしいな・・・。それでも買う人間がいるのがな・・・・。」
「特に今回は・・・普段の倍ぐらいの値段で売られそうですね・・・・。」
「「ヤバそう・・・・。」」
「って、早く行こう!!」
「そうですね・・・・・・・・。」
・・・・・・・・・。
「そんなに凄いチケットだったんだね・・・・これ・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
しばらくフランと無言で見つめあう。
「このチケット、いくらで売り飛ばせると思う?」
「十万・・・・?いや、もっと釣り上げても・・・・ってダメでしょ!!」
「しばらく遊んで暮らせるぞ。」
「それは魅力t・・・・いやいやいやいや。」
「ゲームも本も買い放題・・・・・・。」
「・・・・・よし、売r
「冗談だ。そんなこと許されるはずがないだろう。売るとしてもせめて定価だ。」
・・・・・・ちっ。
「まぁ、明日・・・・・見に行こう。」
* * * *
「あ、どうしよ、フラン。」
ユリにきてから二日目である。ようは舞踏会の翌日。
「なんだ?」
「宵の明星が最も輝くころっていつ?」
「・・・・・・・・。」
ていうか、そんなときってあるの?明星って金星のことでしょ?
「・・・・・・聞こっか。」
とりあえず、近くをうろうろしていた少女に声をかけてみる。
「あの、すいません。」
「はい?」
「宵の明星が最も輝くころっていつですか?」
「は?」
ダヨネー。
「あ、もしかしてロゼの公演のチケットをゲットしたんですか?」
「え、はい。」
どうしてわかったんだ!?
「初めての人は大抵わかんないですよね。うん。私も、なに言ってんの?コイツ、って感じでした。」
やっぱそうだよねー。
「これ、ロゼの決まり文句なんです。本当に金星が太陽みたいに輝いているように一部の人間だけが、そう見える時があるんですよ。」
「は?」
あ、ヤベ、初対面の人に、は?、とか言っちゃった。
「何言ってんだ?と思いますよね。でも、あるんです。ロゼの公演のチケットを手に入れている人間だけには金星が太陽のように輝いているように見えるんです。ロゼの公演が始まる五分前に。」
「はぁ・・・・・。なんでそんなことが?」
「ロゼが幻覚系の能力を持っていることは知っていますか?」
「それは、まぁ・・・。」
有名だよね。なんだっけ?たしか『夢を現に現を夢に』だっけ?
「その能力を使っているみたいですよ。方法は知らないけど。」
へぇー・・・・・。
「ありがとうございました。とにかくそのときは、チケットを持っていればわかるんですね。で、その金星が輝いたのを見たら、ローゼン歌劇場に行けばいいんですね。」
「そうです。」
ふむふむ。
「じゃ、私は探している人がいるのでっ!!」
あ、そうだったの?だから忙しそうだったのね。
「お手伝いしましょうか?」
どうせフランも私も暇だし。お礼としてこれぐらい・・・・。
「・・・・命を捨てる覚悟はありますか?」
「ふぁっ!?」
お相手は極道の方かなにかなんですか!?
「操られた挙句、道端にポイッ、なんてこともありえますが大丈夫ですか?」
「いや、それは・・・・。」
大丈夫な人なんているのか・・・・。
「デスヨネー。大丈夫です。慣れてます・・・・・普段は逆ですが。あっちがこっちを見つけられるんですから、こっちもあっちを見つけられます・・・・・たぶん。なんとか、公演までに見つけだすので・・・・できれば。とりあえず、人形だけはだせると思うんで・・・。ミスルトゥの方にはあんまり期待せずにお願いします・・・・。動きだしたりとかもあんまり期待せず・・・・・。」
そういうと、少女は死んだ魚の眼をしながらどこかへと去って行った。
「・・・・・・ん?」
もしかして・・・・あの子・・・・今回の公演の関係者・・・・・?なんか、ミスルトゥのこと言ってたし・・・・・。・・・・・ま、いっか。いくら考えてもわからんもん。というより、
「フラン、対人関係において役に立たなすぎでしょ。」
「・・・・・うるさい。」
一言も喋らなかったよね。
「・・・・・人と関わらなくてもやっていける。人に頼らなくばなにもできない貴様とは違う。」
ぐっ・・・・・!!
「・・・・フランは人に頼ることができないけどねっ!!!!」
あってるだろ!!
「できなくともしなければなんの問題はない。」
そうだねそうだね・・・。
「フランも人に頼るようになればもっと世界が変わるかもよ。」
「・・・・・・なにも変わりはしない。」
「え?」
上手く聞き取れなかったや。
「・・・・・・・別に。」
お前は沢尻エリカか。
* * * *
「みな一人残らず、罰を受けたのだ。」
「その後、両家の当主は手を差し伸べあい、互いに相手の子の像を建てたと言う。」
天鵞絨でできた深紅色の美しい緞帳がゆっくりとおりてゆく。だが、誰もなにも音を発さない。
「・・・・・・・ブラボー!!!!!!」
どこかで誰かが叫んだ瞬間、空気が動き出した。
お、おおおおおおおおおお!!!!!!
「ブラボー!!!!!!」
「ブラボー!!!!!!!」
大きな拍手の音が波のように押し寄せる。
「すごかったね、フラン・・・・・・。」
私もようやく我に返ってフランに話しかける。それでもなんだか、まだ夢見心地だ。
「ああ・・・・。」
フランもなんだかボーっとしている。珍しい。
「なんだかロミオとジュリエットの印象変わったよ・・・。」
好きな人には怒られるだろうけど、どうしても馬鹿なカップルの話にしか思えなかったんだけどね。なんだか泣きそうになったよ。まぁ、私とフランを除いた人たちはほとんど号泣してたけど。
「ブラボー!!!!!」
いまだなりやまない拍手とブラボーの声に答えるように再び深紅色をした天鵞絨でできた緞帳が上がり始めた。
「すごかったな・・・・・。」
緞帳の上がった舞台の中央には上手側から、実のついた上品な宿木の枝、深紅色をした美しい薔薇、深紫色の艶々とした美味しそうな葡萄・・・・・がなぜかぽつんと置いてあった。
「え・・・・?」
驚いたのは私だけではないようで、歌劇場には沈黙が降りた。
ポン
どこか気が抜けるような音とともにその植物たちから煙がたった。
・・・・・・?お、おおおおおおお!!!!!
一瞬のファッ?という空気のあとに、再び歓声が上がった。
「今宵の『薔薇ソワレ』いかがだったでしょうか?」
そう、宿木、薔薇、葡萄は、煙が晴れると、ミスルトゥ、ロゼ、フィアーノ、になったのだった。
「一度きりの人生!!この泡沫の日々!!どうせだったら踊って笑って叫んで狂って楽しく生きましょう!!それでは『薔薇ソワレ』、これにて終演です!!皆さまと近いうちにこのソワレで会える日が来ますように!!」
その言葉とともに、緞帳がおりてきた。
「ミスルトゥー!!!!!!!!」
「ロゼー!!!!!!!!!!!」
「フィアーノー!!!!!!!!」
どこからかそんな掛け声が聞こえてくる。が、ミスルトゥは不機嫌そうに見えるし、フィアーノはずっと下を見て震えていて声が聞こえているのかすら怪しい。あ、ロゼは優雅に頭を下げている。
そんな姿を横目で見ながら、このローゼン歌劇場に入ったときに渡された・・・・というより、また薔薇の花弁だと思って掴んだら紙になった・・・パンフレット?いや、案内状?を眺め見る。いや、どうせ人形鑑賞も演奏会も公演も飽きると思って読むときなんていつでもあるか、と思ってソワレの前に読んでおかなかったのだ。全然飽きなかったから一切読めてないけど。
このローゼン歌劇場はロードン家当主が管理する歌劇場で、神代のころからあったと言われる由緒正しき歌劇場です。
えっ?それだけ?と、思ったら違った。・・・・・いや、神代からあったていうのはすごいけど。
『眠り姫』
人形提供・人形操作・演出 ミスルトゥ・ヤドリギ
音響 フィアーノ・ルレザン
薔薇関係提供 ロゼ・ロードン
『愛と美の女神のためのコンセール』
演奏・演出 フィアーノ・ルレザン
薔薇・小物関係提供 ロゼ・ロードン
人形提供 ミスルトゥ・ヤドリギ
『ロミオとジュリエット』
ジュリエット・男役・小物・演出 ロゼ・ロードン
女役(ジュリエット以外)提供 ミスルトゥ・ヤドリギ
音響 フィアーノ・ルレザン
・・・ん?ちょっと待って、もしかしてこの『薔薇ソワレ』ってもしかして三人だけで色々やってたの?音楽関係が全部フィアーノがやってた、っていうのはまだわかるけど。
「いや、可笑しいだろ。」
ありえないでしょ。一体、ロゼは一人何役やってたんだ?ていうか、同時に出てた時もあったよね?それにミスルトゥのところに女役(ジュリエット以外)って書いてあるけど、ミスルトゥも一体全体一人何役やってたんだ?私、ロゼらしき人はジュリエット以外見てないし、ミスルトゥらしき人は一回も私は見てないんだけど。
「その案内状、可笑しいって思ってますか?」
「はい?」
いきなり話しかけられた。
「あの三人・・・・・以外今度の舞台にはかかわってませんよ。本当に。」
「え?・・・・・でも、ロゼの舞台のジュリエット以外の役って・・・・?」
「そのほかの女役は全部ミスルトゥの人形。男役は全てロゼがつくりだした幻。・・です。」
人形は全部ミスルトゥが操っていた、と・・・・。なるほどね。どうりで女の人たちが皆人間離れした美貌を持っていたわけだ。あ、そんなかにロゼも入ってるよ。今日は・・・というより、ジュリエットをやっているときは仮面を外してたから顔がわかったし。
「ありがとうございます。」
「いえいえ、お役に立ててなによりです。」
そういうと、私に話しかけてきた少女は興奮し立ち上がる観客の間をすり抜けて舞台の方角へと消えていった。
「フラン、そろそろ部屋に戻ろうか。」
まだみんな興奮して全然帰ろうとしてないけど。
「・・・・・・・・・。」
おい、無視かよ。
「フラン?おーい!!」
超ボーッとしてる。珍しすぎる。
「オラァッ!!」
必殺!!腹パンである。ごめんよ、フラン。でも私、早く帰りたいんや・・・・・。
「ぐはっ!!!」
あ、ごめん。思ったより強く殴っちゃった。
「貴様・・・!!!」
「ごめんごめん。だってフランがさー、いくら呼び掛けても全然反応しなくてさー。」
いくら、って言っても二回ぐらいだけど。
「だとしても腹を殴る必要はなかっただろう。」
「まぁね。」
否定はしない。
「で?」
「は?」
で?ってなに?
「・・・・殴ってまで私に伝えたかったことは?」
ああ、そういうことか。
「部屋に帰らない?」
別にヒガンバナに帰ってもいいよ。
「・・・・・・ああ、そうだな。帰るか。」
だよね。ついでに腹パンのことも忘れてくれると嬉しいな。
* * * *
「ないかなー・・・・・。」
あの三人、三人揃ってまともじゃなさそうだよな・・・・。
「なんの話だ?」
「ああ、大丈夫大丈夫。こっちの話だから。フランには全く関係ないよ。」
だって私の結婚相手候補の話だからね。
「だったらわざわざ口に出すな。」
「あーうんうん。」
どう見てもミスルトゥは気位高いし変人だし、フィアーノはどことなく鬱っぽいし演奏中のときの眼がイッちゃってたし、ロゼは舞台狂いの演劇狂だしテンションが可笑しい。無理だ。絶対に結婚とかできない。いや、あっちも願い下げだろうけど!!三人ともとんでもなく美しいし!!!スペック高いって聞いてるし!!・・・・・・ごほん、まぁ、とにかく三人は三人とも、おかしい。変。
「それにしても舞台、凄かったねー。」
「唐突にどうした。」
「うんうん。」
そもそもなんだ!?色々この学園で三人のことについて調べたんだけどさ、あだ名がヤバいんだよ!!!なに!?ミスルトゥ=奇人、フィアーノ=狂人、ロゼ=怪人、って!?
由来を聞くとね、まぁ、ミスルトゥはそのままで、ガチの奇人、というか変人で気位が高いし、人形ばっか作ってるし、で、奇人。これはまだわかる。
フィアーノはもうヤバい。演奏中にリスカ始めたりするガチで病んでる人らしい。怖い。天才音楽家だけど精神的に病んでる、っていうのは有名だし今日のソワレでもそう感じたけど、ここまでとは知らなかった。
そして、ロゼはわけがわからない。二つ理由があるけど、一つ目はロードン家の先祖が怪人だから、らしい。マジか。どこの家にもどうしてこの一族ができたのか、みたいな伝説的なものはあるものだけど、大体の一族は神代のころに生きていたヒト的ななにかが、なにかを起こしたり死んだりしてその体の部品からできたということになってる。怪人は初めて聞いた。ちなみにその怪人はローゼン歌劇場を作った人物で演劇をこよなく愛したらしい。もう一つは、ローゼン歌劇場の別名が『オペラ座』でロゼが常に仮面をつけているから・・・らしい。そしてなぜローゼン歌劇場が演劇を主にやるのに歌劇場と名前が付くのかは誰にもわからないらしい。・・・・謎が多すぎやしないかロゼよ。
「やっぱ無理だわ。うん。」
「貴様は一体何を考えているんだ・・・。」