第六章 乳母
さっきから白檀の香りがするような・・・・。あ、ちゃんと舞踏会に戻ってきたよ。フランも私も。
「ご機嫌よう。彼岸花の君に花泊夫藍の君。」
「えーはいはい。こんにち・・・・え?」
カッキーン
「おや、間違えてしましましたか?いやはや、そんなことはないと思いたいのですが。」
ん、まて、このこえ、どっかで・・・・・・
「スノウ・・・だったか・・・・・・?」
「おや、覚えていただけてましたか。これはこれは。光栄なことこの上ない。」
・・・・ああ、シンイちゃんの臣下か・・・。この前の・・・あはは・・・。フランのことも知ってる・・・というか、知らなきゃおかしいもんね。
「一体なんのようだ?」
「まぁまぁ、そう急かさないでくださいな。ほら、世間話でもいたしません?皆さまのように。」
いや、あんましなくていいかな。
「・・・・・・まぁ、いいでしょう。ちょっと、お耳を拝借。」
ちょいちょい、と扇子で招かれたので素直に近寄る。・・・・白檀の香りがいきなり強くなった。・・・白檀の香りを纏っているのはこの人か。
「クククッ、ほら、花泊夫藍の君も。とって喰ったりなどいたしませんから。」
その言葉を受けて、警戒しつつもやっとフランもスノウさんに近づく。それを確認すると、スノウさまはパッと扇子を開き私たちの口元あたりを隠した。
「我が主の国・・・・・モクレンと貴方方の国で・・・・戦争、いたしません?」
「それは宣戦布告と受け取って構わないかな?」
「いえいえ、違いますとも。ただ、私が言ったとおりの戦争をしてくださるのなら、裏切りものの蛇があなた方を必ず勝たせ、あなた方の願いを一つずつ必ずかなえて差し上げると言いたいだけです。」
は・・・・・?
「国土も広がり願いも叶う。一石二鳥だと思いません?」
そりゃそうだけど・・・・・。
「そんな上手い話・・・・。」
「なにか裏があるとしか思えん。」
可笑しいでしょ。どう考えても。
「クククッ・・・・目的を話せということでしょうか?・・・・・・まぁ、そこまでして欲しいものがあるというだけですよ。貴人方だってあるでしょう?そういうもの。」
・・・・・・・・戦争をして手に入れられるものって?
「・・・じゃあ、私たちの欲しいものがこの世にないものだったら?」
死んでたり、してても・・・・?
「ええ、もちろん・・・貴女の求めているお方だって・・・・ね?」
心が揺れた。・・・・なんだか・・・・まるで・・・・心を読まれてるような・・・・・。
「求めている・・・・・・。」
フラン・・・・・・・?
「クククッ・・・・・・・今すぐ決断しろだなんて言いませんよ。ですから・・・・・じっくりと考えご決断ください。・・・・・じっくり、ね?」
と、いうとスノウと名乗る人物は呼び止める間もなく消えていた。
「あれは・・・・・一体・・・・・・・。」
「ああ、忘れていました。」
「ひっ!」
いつの間にか、隣に白い人・・・・スノウさんがいた。
「私、面白い話を聞きましてね。それが・・・・どうやら我らの王とユリの姫君の婚約話が持ち上がっているようですよ。」
「え、それは、どういうこと・・・・・・
気が付けば私の隣は白檀の香りが漂うのみとなっていた。
「フラン・・・・・・・。」
「なんだ。」
「どうしよっか・・・・・・・。」
まずは姉さんに相談かな・・・・・・。
「ねぇ、何のようですか?私、忙しいんですけど。」
ファッ!?
「無視しないでくれます?貴女が呼んでいると聞いたのですが?」
振り向いてみると、顔を不機嫌そうに歪めた黒髪に金の目の美少女がいた。
「いや、あの・・・・・どちらさまで・・・・・・?」
「はぁ?シラユリ・ユリですけど。」
ゲッ、この国の王女じゃないか!!!そうだった!!黒髪はこの国の王女と王子だけだった!!
「リコだなんて偽名名乗っちゃって。なんかやましいことでもあるんです?」
「いやいや、そんなことは・・・・・・。」
なんで私がこの人を呼び出したことになってるんだ!?
「えっと・・・・・誰に呼ばれたんです?」
「だから、貴女に・・・・・・
「いや、そういうことじゃなくって!!」
やべ、遮っちゃった。
「なんというか・・・・誰から私が貴女を呼んでると聞いたんですか・・・?」
「・・・・・言いたくないです。」
・・・・・・。
「なにも用はなさそうなので、帰りますね。」
「あ、ちょっ!!」
「なんです?」
「あの・・・・シンイさまと婚約を結ぶというお話しは・・・・本当ですか?」
瞳がこぼれ落ちてしまうんじゃないか、というほどにシラユリさまの金色の大きな瞳が見開かれる。
「ど、どこでその話を・・・・・・。」
あのスノウって人・・・・本当のことを言ってたんだ・・・。まぁ、シンイちゃんの側近だし知ってても可笑しくないか。
「じゃっ、じゃなくて!!なんのお話しですか!?誰から聞いたんです!?」
「・・・・・・・言いたくないです。」
シラユリさまに凄い形相で睨まれた。・・・・・美人の睨む顔って怖い・・・・・。
「ああ、そうですか。では失礼します。」
ドスドスと凄い足音を立ててシラユリさまは立ち去って行った。
「機嫌・・・・・損ねちゃった・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・。」