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第五章 ロメオとジュリエットの別れ

本当に・・・・・ごめんなさい・・・・。遅くなりました・・・・・・。

「あー、えー・・・残念なお知らせがあります・・・。」


 あの、フラン寝坊助事件(そんな可愛いもんじゃない)からしばらくたって、なぜか私だけが一方的に気まずい感じになっている。どうしてか、フランは全て忘れている。私がフランの部屋に入ったことも、私が腹パンしたことも。私は、あの部屋を見ちゃってからフランにどう接したらいいのか全くもってわからない。カウンセリングの人を呼んだらいいのか、それとも厨二病だと放っておくのがいいのか、ヤバい人として距離を置いた方がいいのか・・・・。


「なんだ?」

「私たちはシラユリにある花園学園の舞踏会に行かなくてはいけません。」

「なぜ?」


 いや、なぜって言われても・・・・・。


「一応、ユリとは同盟国だし・・・。あそこの国の舞踏会は次期国王とかも参加するみたいだし・・・。友好関係、大事にしとかないと不味いでしょ。」

「そんなものか。」


 そんなもんだよ。


「そういや、アヤメはほとんどの国と外交を絶ってたね。」


 この国も本当に最小限だけど、絶っているわけじゃない。


「ああ。ヒガンバナ以外の全ての国とな。」


 え、そんなだったんだ・・・・・・・。


「なんつーか・・・・・・フランのお父さんって不愛想で人付き合い苦手そうだったもんね・・・・。」


 兄さんの前のアヤメの王さまね。体がかなり大きくて怖い感じの見た目だった・・・・・・・本当は結構優しい人でしょっちゅう私や姉さんと遊んでくれてたけど


「ああ。」


 フランのお父さん、兄さん、フランの三人で並ぶと謎の圧力があって怖かった・・・・。家族写真とか、なんか・・・・決闘を申し込むための写真みたいになってたし・・・・・。


「じゃなくて!!ユリに行きます!!あーゆーおーけー!?」

「従者に許可などとる必要がどこにある?」


 いや・・・・だって君、曲がりなにも元王子じゃん。


「その答えはイエスということで?」

「ああ。そもそも答えはイエスかはいしかないような質問だったろう。」

「まっ、そうだね。じゃあ、ユリにレッツラゴー!!!。」


 めんどうだけど行くぜ!!!・・・・・まぁ、本当は友好関係とかよりも、私の結婚相手を見つけることが目的で行くんだけどね。



 * * * *



「・・・・・楽しくない。」


 全く同意。


「ここにいる必要があるのか・・・・私たちは・・・・・・。」


 ないね。知り合いとかいないしね。さっきからヒガンバナに媚を売りたい人がちらほら来るだけだし。・・・・・一番大切な結婚相手候補者もなかなか見つかりそうもないし。ユリの女王&王子とか三大貴族の人たちって一体全体どこにいるんだ?


「気晴らしにいかない?・・・・外に。」

「・・・・・・いいのか?」

「うん・・・・・・・。」


 ここにずっといても結婚相手候補、絶対に見つからない気がする・・・・・・。


「じゃあ、行くか。」



 * * * *



「はぁ・・・・・。」


 私のなにが悪いってんだ・・・・・。どうして、結婚相手候補がここまで見つからない・・・・・。


「・・・・・溜息をつくと、幸せが逃げるんじゃなかったか?」

「もう逃げてるから。」


 マジで。というか、幸せが私のもとに来た覚えもないし。


「・・・・・そうか。」


 うん。


「「・・・・・・・・・・・。」」


 ガサッ


「「・・・・・・・・・・・・・。」」


 ん・・・・・?


「(今、変な音しなかった?)」

「(したな。)」

「(刺客かな・・・・・・?)」

「(いや、違うだろう。)」

「(ちょっと、確認してきてよ。)」

「(断る。)」

「(一応私の護衛だよね!?)」

「(だが断る。)」

「(おい!!)」

「(嫌なものは嫌だ。)」

「(そんな駄々っ子みたいな・・・・・。まぁいいや。二人で確認しに行こう。)」

「(・・・・・わかった。)」


 ・・・・・・今のは実際に声を出して会話してるわけじゃなくて、口の動きとか、動作とかでしてた会話だから、フランの言ったことがあってるかはわかんないけど、大体合ってると思う。


「(さき行ってよ。)」

「(断る。)」

「(おい。)」

「(・・・・はぁ。)」


 はぁ、ってなんだよ!!お前一応私の護衛だろ!?・・・・まぁ、先にいってくれたからいいか。


「・・・・・貴さm

「ギャッファー!!!」


 ガシャン


 はっ!?


「ちょっ!?フラン!?人の悲鳴聞こえたけど!?ついでになんか割れる音したけど!?なにしたの!?」

 

 フランの背後から顔をだし、前を覗き見る。


「うっ・・・・痛い・・・・。」


 そこには、粉々に砕けたもともと手鏡であっただろうものと、鏡の破片が体の所々に刺さった少女がいた。


「ちょっ!?大丈夫ですか!?」


 大丈夫そうじゃないけど!!


「だ・・・・大丈夫です・・・・・。多分・・・・。」


 たぶん!?というか、鏡・・・鏡・・・・どうしよう!?ここまでバラバラだと治せないよ!?


「鏡、鏡はどうしましょう!?」

「だ、大丈夫です!!そんな大事な鏡じゃないし!!」


 マジで!?


「貴様・・・・・その鏡、どこで手に入れた?」


 その言葉に少女は怯えたような顔をしていたが、しばらくするとハッとした様子で立ち上がった。


「あ、えっと・・・・失礼します!!!」


 そういうと、少女は凄い勢いで走り去った。


「いや、ちょっ、鏡!!!」


 忘れてますよー!!!!!


「・・・・・・・どうする?この鏡・・・・。」


 話しかけても、フランはなにやら考えこんでいるようで返事を返してくれない。


「この臭い・・・・・・。」


 一分ほどたってから、ついにフランが喋った。


「おい、この鏡に触れろ。」


 と言って、フランが一つの破片を指さす。


「嫌だよ。」


 ケガするでしょ。


「いいから。」


 はぁ?


「そんなに触って欲しいんだったら自分で触ってよ。」

「断る。」


 そんな即答しなくても・・・・。


「とにかく触れろ。」

「・・・・・なんでよ?」

「私には恐らく・・・・・いや、なんでもない。早く触れろ。」

「・・・・・・へいへい。」


 めんどくさくなったので、言われた通りフランの指さしたガラスに触れてみる。


「はい触れた。これでいっ!?なんだこれーーーーー!???」


 私たちは突如吹いた一陣の風に攫われた。



 * * * *



「はぁはぁはぁはぁ・・・・・。なんだよ・・・・・これ・・・・・・。」


 死ぬかとおm


「ギャー!!!!!!!なんだ!?お化け屋敷!?」

「いや、これは・・・・神殿だ。」


 ああ・・・・・。


「随分と寂れてるね。」

「そうだな。」


 一応返事をしてくれているが、どこか上の空だ。


「臭う・・・・・臭うぞ・・・・・。」

「ちょっ、フラン?」

「あの神殿か・・・臭う、臭うぞ・・・・・。」


 フランが可笑しくなってる・・・・・いや、いつものことか。


「臭う・・・臭う・・・・・。」

「おーい、フラーン?」


 反応がなくなった。臭うしか言ってない。


「行くぞ。」


 え、嫌なんだけど。


「私、普通に嫌なんだけど。」


 たしかに綺麗だけど、おどろおどろしい雰囲気漂わせてるよ?あの神殿。


「では来るな。」


 はぁ・・・・・。まぁ心配だしついてくか。



 * * * *



「なにもない、か。」


 いや、あるじゃん。目の前に綺麗な彫刻を掘られた鏡が。祭壇みたいなものの上にちょこんとのってるし。もしかして暗すぎて見えてない?


「リコリスを呼んでくるしかないか。」


 はっ!?さっきからずっと左隣にいますが!?もしかしてこれまで右隣にずっといたから!?いや、確かにずっと右隣にいたけど!?


「いや、いるけど。」

「誰だ!?」


 ひえっ、刀突きつけられた!!


「私だよ!!私!!リ・コ・リ・ス!!!」

「・・・・・・貴様か・・・・。」


 マジで気づいてなかったのかよ・・・・・。私ってそんな影が薄かったのか・・・・・。


「・・・・丁度いい。さっきの鏡の破片を出せ。・・・・それと、これからは私の左隣に立つな。」


 別に・・・構わないけど・・・・・・。 


「はい。」

「私に渡すな。・・・・・あそこに鏡があるだろう。あの鏡とその破片で合わせ鏡になるようにしろ。」

「へいへい・・・・・。」


 自分ですればいいじゃん・・・・。ていうか、鏡、見えてたんだね。


 と、思いつつもフランの言った通りにする。


「で?できたけど?これgぎゃあああああああ!!!!!!」


 同じようなシチュエーションを体験したことがあるよう・・・な・・・・。


 私の意識は突風に吹かれて消えた。


 

 * * * *



「おい、起きろ。」


 眠い・・・・マジで眠い・・・。


「あと十pッゴッフ!!!!」


 今、絶対にお腹に蹴りが入った気がする!!!めっちゃ痛い!!!


「さっさと起きろ。」

「起きたよ!!起きた!!だからもう一回お腹を蹴ろうとするのやめて!!痛いから!!!」


 慌てて飛び起きる。


「・・・・って、ここどこ・・・・・?」


 睡蓮の花、かな?が、あたり一面に広がっている。空は曇天で今にも雨が降り出しそうだが、日の光がちょこちょこ差し込む。霧もかかっている。


「・・・・知るか。」


 マジで?


「というかフラン、空中?に立ってんじゃん。どうやってんの?」


 フランの足元・・・・というより、この世界の地面?は私たちの上にある空と同じような感じだ。うー、表現が難しい。なんだろう・・・空中に浮いてる・・・みたいな。足元に霧?雲?がかかってる感じ?で、その上に睡蓮が咲いてるみたいな?まぁ、ときどきなにもないただひたすらに透明な空みたいななにかが見えるんだけど・・・。うん、とりあえず空中に浮いてる、ってことで!!!


「お前こそ、そのお化け睡蓮はどこから出した。」


 はっ?


「って、沈む!!!私の体重に睡蓮ごときが・・・・・沈んでないな・・・・・・。」


 私はどうやらとんでもなく大きい睡蓮の上で眠ってたようだ。


『ふーん、珍しい客人だね。いいよ、こっちにおいで。』


 少女のような少年のような可愛らしいような大人っぽいような独特な声がどこからか響く。


「はっ!?なに今の!?ホラー!?」

「こちらへどうぞ。」


 さっきの声と似てるような似てないような声が隣から聞こえた。


「ひえっ!?」


 いつのまにか私の隣には水干を身に纏う、狐面をつけた子供がいた。


「着いてきてください。」


 そういうと、狐面の子供はスタスタとどこかへ歩き出した。慌てて私もついていく。


「ちょっとフラン?」

「・・・・・・ああ。」


 フランも私たちを追って歩き始めた。


「ねぇ、ここは一体どこ?」

「余計なことは言うなと言いつけられております。」


 あ、そうですか。



 * * * *



「こちらです。」


 そういって子供が歩いていく先には、柱に囲まれ、正面だけ開けている天井のない、廃れた神殿のようなものがある。


『ん?ああ、ありがとう。君はもういいよ。バイバイ。』


 声が聞こえてくると同時に狐面の子供は、サッと跪いた。


「はっ。」


 そういうと神殿の階段の前で跪いていた狐面の子供は消えてしまった。


『おいでよ。ベールがあるでしょ。その前に。』


 フレンドリーな口調ながらもどこか威圧感を感じるその声に言われた通りに布の前に行く。床は大理石でできているようだが、やはり霧がかかっており、時々睡蓮の花が浮いている。そして、神殿の奥の方に他の所より2段ほど高い、祭壇のような所があり、白と銀のベールがそこを隠すように周りを覆っている。ベールの中はそれなりに広そうだが、中は全く見えない。


「えっと、このベールは?」

「声の主がいるんだろう。」


 あ、そうか。


『うふふふ、そうだよ。そういえば、助けてくれてありがとう。感謝するよ。』

「助けた・・・・?」


 いつ・・・・・?


『ああ、君はわかってないのか。べつに知らなくてもいいと思うよ。』


 はぁ・・・・さいですか・・・・。


「貴様・・・・私のことを覚えてはいないか。」

『ん?ああ、いたんだ。君。気づかなかったよ。で、誰?』

「ふざけるな!!!貴様の臭いが私の・・・・私の・・・・。」

『なにいってるの?君?』

「羽・・・・記憶・・・・・・。」

『羽・・・?記憶・・・・?ああ、なんか君のこと見たことがある気がするよ。たしか、教会で・・・・・ああ、君は覚えてないのか。』

「とにかくかえせ!!!」

『そんなに欲しいの?でも、君が要らなそうだったからもらったんだけどなぁ。』

「・・・・・・・・。」

『ほら、君、今とっても幸せでしょ?いいじゃん。それで。』

「・・・・・・・・。」

『あ、それともこの子をも

「黙れ!!!」


 ジャキンッ


 フランが突然刀を抜き、ベールを叩き切った。

 その中には・・・・・


『あーあ、酷いなぁ。僕は神サマだよ?カ・ミ・サ・マ。それなのにこんな扱い受けるなんて。それに僕は君のためを思って

「黙れ!!」


 誰もいなかった。


『残念だねえ。君には僕を切ることは不可能だ。ほら。こっちだよ。』


 声のした方へ眼を向けると、菊綴が赤と金、水干が白、単が赤、袴が赤に下の方に金糸で美しい模様があしらわれた、童水干姿に薄い金色の髪と銀色の被布を風に靡かせた青年がいた。だが、問題はそれではない。

Q 正しいのはどれか。すべて答えよ

1 青年が般若の面をかぶっている

2 青年はいつのまにか一本下駄で神殿の柱の上にたっていた

3 青年がベールの中から出てきたであろう瞬間から、周囲が誰そ彼時のような景色になった


A 1、2、3


 ・・・・・・・。


 ・・・・・・・ちなみに一本下駄の色は朱色だ。


『あはは、鬼さんこちら手のなるほうへ♪』

「貴様・・・・!!!鬼はどちらだ!!!!!」


 フランはその言葉とともに羽を出し、飛び立っ・・・・・・・


『馬鹿だなあ。だから、こちら、っていってるでしょ?』

「フ、フラン・・・・?その、翼、は・・・・・・?」

「・・・・・・・・。」


 フランは一瞬浮いた。だが、すぐにおちた。一瞬驚いたが、すぐに理由はわかった。


「なんで、なんで、片翼なの・・・・・?」


 そう、私が前みたはずの翼には確かに両翼あったはずの翼。それが・・・・それが・・・片翼になっていた。


「・・・・・・・・・。」


 ふわり、と青年が上からおりてきた。・・・・・一メートルほど浮いているが。


『あはは、僕が貰ってあげたんだよ。彼がいらなそうだったから。それにさ、ほら、彼は堕ちてるんだから天使の翼なんて相応しくないでしょ?』


 堕ちてる・・・・・・?


『僕、彼みたいな翼初めて見たんだよね。だから欲しくなっちゃてさ。それに、彼もいらなそうと来たでしょ?貰うっきゃないよね。』


 そんな・・・・自分勝手な・・・・。


『その言葉、そこの彼と君にそのまま返すよ。』

「なんでっ!?心を・・・・。」

『ああ、ごめんね。読めちゃうんだ。』


 そんな、平然と・・・・。


『そういえば、彼の記憶も持ってるんだけど・・・・。返してほしい?』

「当然だ!!!」

『イ・ヤ♪』


 この人・・・・・なかなかの外道だ・・・・。


『人じゃないよ。神さ。・・・・・まぁ、助けてくれたことだしどちらか一つぐらいは返してあげてもいいよ。』

 

 やさ、し、い・・・・?いや、気のせいだ。


『で、どっちがいい?』


 ジュウッ


『おや・・・?』


 一瞬なにが起きたのかと思ったが、よく見ると、青年の顔から般若の面が消えている。・・・・・面のかわりかわからないが、青年顔の前に美しい扇子が青年の手によって開かれているので、結局顔は見えないが。


「・・・いくら能力が半減しているとは言え私をなめるな!!!貴様を燃やすことまではできなくともその小癪な面を燃やすことはできるわ!!!」

『おやおや、僕を脅したつもりかい?・・・・でも、凄いね。神相手にここまでやれるんだ。もしかしたら、能力を全部返したら僕も燃やされちゃうかも。』


 おーこわこわと言いながら片腕で自らの身体を抱きしめる青年をひと睨みするとフランはもう一度能力を発動させようというのか、右の目に深い青と深い紫色と金色の炎っぽいなにかを宿らせた。


『ん?次はこの扇を燃やすつもりかい?いやいや、やめたほうがいいよ。・・・・・・警告は、したからね?』

「うるさいっ!!!」


 ジュウッ


 見事に青年の扇が燃えた。


『あーあ、言ったのに。馬鹿だなあ。』


 あ、あ、あ・・・・


「ヒィッ・・・・・!!」


扇子の下にあったものそれは・・・・・すっと通った鼻梁、薄い金色をした整った眉、白磁のように白く滑らかな肌、薔薇色の唇。まるで人形のような顔立ちだ。そう、ビスクドール。ビスクドールをそのまま人間にしたかのように不気味なほどに美しい顔。だが、違う。これはビスクドールなんかじゃない。そんな可愛いものではない・・・・だって・・・だって・・・


「眼球は・・・目はどこに・・・・・・?」


本来眼球があるべき場所、そこには、ただの暗闇・・・・いや、深淵が広がっていた。猫の眼のような形の深淵を薄い金色の長い睫毛が縁取っており、眼球が入っていれば驚くほど美しい眼であろうことが容易に想像できた。だが・・・だが・・・・この深淵がすべてを台無し・・・・いや、他に眼を向けることをゆるさない。きっとこれは、眼球がないことが恐ろしいのではない。ただ、そこにある深淵が恐ろしいのだ。この深淵を見ていると・・・・自分も気がつけばその深淵一部になっていのではないか、そんな恐怖が体の奥底からひたひたと這い上がってくるのだ。


『あーあ、だからいったじゃない。あ、心配しなくてもいいよ。目はちゃんと他の場所にあるから。』


 そういう問題じゃない。


『それにしても面白い顔だったなぁ。その顔が見れたからさっきの無礼は許してあげるよ。せいぜい彼女に感謝するんだね。』


 私はそんなに変な顔をしていたのか・・・・。いや、それよりもその眼をどうにかしてほしい。本当に吸い込まれてしまいそうだから。悪い意味で。


『そう?結構僕は好きなんだけどなぁ。涼しいんだよね。君もやってみれば?』


 いや、それは・・・・。目が見えなくなったら困るし。


『あ、そっか。君たちは目でしかものが見えないんだっけ?大変だねぇ。』


 逆に神さまは目以外のところで見えると?


『うん。あ、ちょっとまって。』


 そういうと、青年はくるっと後ろを向いた。・・・・空中で。


『どう?これで。』


 くるりと青年がこちらを再び向いた。


「あ、目・・・・。」


 青年の顔の空洞には深淵の代わりに金色の、恐らく宝石で作られたであろう瞳が埋まっていた。・・・瞳孔が白でしかも星形だけど。


『うんうん。これで君もびくびくしながら僕と会話しなくてすむでしょ?』


 会話・・・・・?心を読まれて一方的に話されるこれが・・・・?


『挑発してる?』

「いやいや滅相もない。」


 私・・・・この人と気が合うかも・・・・。


『ごめんね、僕は心に決めた人が・・・・・

「そんな・・・!!!」

『でも、君のことは365番目くらいには好きだよ。』

「本当?嬉しい!!」

『そう?よかった。これが君に贈れる最後のプレゼン

「その茶番、いつまで続けるつもりだ。」


 ごもっともだね。


『あはははっ、はははは、彼女、気に入ったよ。』


 マジか。365番目に?


『あははっはははははははっ!』


 めっちゃヒーヒーいっとる・・・・・。


『ははっ、やめようかと思ったけど、いいよ、ふふっ、楽しませてくれた彼女に免じて返してあげる。翼と記憶、どっちがいい?ははっはははっ!』


 あ、やめようと思ってたんだ。・・・・・選択しなくちゃいけないのは変わらないんだね。


「・・・・・翼。」

『えっ?なにいってるの?きこえなーい。ふはははっ!』


 やっぱこの人外道なんじゃ・・・。一瞬気が合うとか思ったけど絶対気のせいだ。うん。


「翼!!!!!」

『ああ、聞こえた聞こえた。翼ね。・・・・ふーん、そんなにあっさりと決めちゃっていいの?・・・・あ、それとも・・・心はもとから決まってたとか?』


 金色の瞳がきらりと妖しげな光を帯びる。


『ま、いいや。変更はきかないからね?』

「・・・・ああ。」

『言ったね?』


 その言葉とともに、青年は懐からなにやら丸いものを取り出した。


『それじゃあ、まず、僕が貸したものを返してもらおうか。』


 青年が初めて地に足・・・・といってもつま先だけだけでほとんど浮いてるけど・・・をつけた。


「貴様が?私に?」

『そうさ、君はただ奪われただけじゃない。』


 そういうと、青年はフランの左目の前に手を触れた。


「な、なにをッ

『うるさい。』


 フランの眼と青年の手の間から金色と銀色の光が漏れだした。


「くっ・・・・!!!」

「フラン!?ちょっと、なにを!?」

『うるさいって言ってるでしょ。』


 光も強くなり、フランも苦しみ始めた。


「うっ、うう・・・・・・!!」

「本当になにを!?」


 青年はもはやなにもいわなくなった。ただ、愉しげに瞳を煌かせている。それとは対照的にフランは本当に苦しそうだ。光もどんどん強くなっている。


「ううっ・・・はぁっはぁっ・・・・・・。」


 光はやみ、青年の手も離れ、フランは目を押え蹲った。


「フランッ!!」


 私もフランのとなりにしゃがみこみ、背に手をそえる。


『まだ終わってないよ。立って。』


 その言葉を受けてフランは私を支えにしてよろよろと立ち上がった。


『この眼の付け心地はどうだった?綺麗だしいいでしょ?』


 眼・・・・・?まさか!?


 ・・・・・。青年の手元を見ると、白い球・・・・・いや、フランの眼であったものらしきものが握られていた。虹彩であったであろう場所が深い青色か・・?にキラキラと輝いている。


『返してもらうものは返してもらったから・・・次はえっと・・・・・。ああ、手を外してよ。』


 言われた通り、フランは目から手を外した。


「・・・・・・・!!」


 予想はしていた。だが、やはり・・・・・・フランの左目には目玉がなかった。そして、一筋の血がまるで涙のように頬を赤く濡らした。


『うん。じゃあ。これを君に返すよ。』


 青年が右手に握っていたものがころり、と青年の掌の上で転がった。


「目・・・・・・。」

『じゃあ、いくよ。』


 再び、青年はフランの目に・・・・左目に手を当てた。目玉を持った手の方を。

 やはり、再び光が青年の掌とフランの左手の間から光があふれ出した。ただし、今回は青と紫と金色の光だ。


「くっ・・・・・。」

『へー、耐えられるようになったの?凄いね。』


 フランは歯を食いしばり、悲鳴を耐えているようだ。青年はただうっすらと唇に笑みを浮かべている。


「・・・・・・・。」


 さきほどと同じように光はどんどん強くなり、やがて収まった。


「大丈夫?」

「・・・・・ああ。」


 というかフラン、眼もいつの間にか取られてたんだね。だから私が左隣にたつと見えなくなったのね。


『もう飛べるでしょ?ほら、はやく飛んでみなよ。』


 いや、確かに目は返されてるけど、翼は・・・・・・・


『ああ、知らなかった?能力ってね、眼に全部力を貯めてるんだよ。だからさ、君の左目を貰うと自動的に君の能力半分と君の左の翼を貰うことになるんだよね。僕、丁度義眼のコレクションもしてるし、ただ翼をもぎ取るよりはいいかな、って。せっかく綺麗な翼がぐちゃぐちゃになったら貰う意味がないしね。』


 へぇ、そうだったんだ・・・・・・・って、じゃあ、目がない人は?


『眼にあたる場所。義眼があればそれが力を貯める場所になるし、なにも入れてない場合はそのなにもない空間が力の貯める場所になる。それだけだよ。のっぺらぼうの場合はその顔の眼にあたる場所に力を貯める。要は「眼球」という存在よりも「眼」という場所が大切なんだ。』


 はぁ・・・?わかったような・・・わからないような・・・・?


『時々、眼以外の場所に力を貯める人もいるけどね。』


 あ、そうなんすか。別にわかんないしどうでもいいや。


『適当だね。ま、いっか。僕もだし。で、早く飛んでみてよ。』


 そうだった。


「断る。貴様の願いなど聞きたくもないわ。反吐が出る。」


 おいおい・・・・・。


『あっそう。これでちゃんと返し切れてなくても文句言わないでね。』

「はっ、自分の能力のことなど発動しなくともわかる。」

『自身満々だねぇ。彼女みたいにもっと可愛げがあればいいのに。』


 可愛げ・・・?そんなもの、私もフランも人生で一回たりとも持ったことないと思うよ。


『ん・・・?ああ、そろそろお帰りの時間だよ。夢が醒める。まぁ・・・・でも一つだけ。君、光をもたらす者に気を付けた方がいい。じゃあ、ばいばい。』


 君ってどっち!?・・・・・そんな私の叫び声は突風に吹かれて消えた。



 * * * *



「おい、起きろ。」


 うん。起きる起きる。


「終末のラッパがなるころに起こして・・・・・。」

「ふざけているのか。」


 大丈夫・・・・。一人目の天使がラッパを吹きだすころにはおきるって・・・・・・・。


「ゴフッ!!!」


 腹が・・・!!腹がァ・・・・・!!!!


「蹴るなよ!!起きたから!!!」

「蹴られたくなくば、さっさと起きればよかったものを。」


 ぐっ、正論・・・・。


「いや、寝てたんじゃないし!?気絶してたんだし!?」

「嘘つけ。訳のわからない寝言を言っていたし、よだれも垂れているぞ。」


 嘘だッ!!!


「あ、口の周りベトベトしてる。」


 嘘じゃなかった・・・・・・・。


「って、あれ・・・・?ここどこ?」

「私たちの舞踏会での待機部屋だ。」


 え?


「あの自称神がやったのだろう。」


 あ、そうか。わざわざ運んでくれたのね。ありがたや。というか自称ってつけると、神(笑)みたいになるからやめてさしあげろよ。というか・・・・


「さぁフランくん!!悲しい事実を教えてあげるよっ!!」

「なんだ?」

「今すぐ舞踏会に戻らなくてはいけません!!!」

「・・・・・・・・・・・・。」


 嫌だけど・・・・・・結婚相手も探さなきゃだし・・・・・。




ちなみに『花園』の世界の神殿は神社と寺と教会とギリシャの方の神殿が混ざったような感じです。でも、神道も仏教もキリスト教もとにかくこの世界にある宗教はほとんどなんでもあります。でも、主に混ざった神殿で祀られている神が信仰されています。

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