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第三章 前奏曲

遅くなりました・・・・・。すみません。そして主人公が最低です。

「散歩。散歩じゃ。散歩にいかんかえ。」

 

 散歩じゃ散歩じゃー!!!


「・・・・・・貴様は何時代の人間だ。」

「最近。」


 さっきの口調のイメージは平安貴族みたいな感じ。


「はぁ・・・・・。散歩か・・・・・・・。構わないが。」


 よし。


「じゃあ、行こう。」


 最近ずっと城に引きこもってたけど、いい加減外に出ないと不味い気がしてきた。


「ああ。護衛は私一人で構わないか?」

「うん。」


 普通にフラン居れば大体の人間には敵うでしょ。逆にフランで無理だったら、他の人間百人集まっても無理だと思う。いや、フランに命狙われたらほぼ確で死ぬけど。


「わかった。」



 * * * *



「迷子った。」


 詰んだ。


「なんだその言葉は。」


 しらん。


「とにかく迷子になりました。はい。詰みました。フランさんどうにかしてください。」


 私にはもう無理。私の方向感覚は皆無だった。知ってたけど。


「知るか。ここは貴様の国だろう。貴様より私がこの国を知っていたら可笑しいだろう。」


 それもそうだわ。


「でも、私の勘に頼ってたら迷子になった。だから次は君の番だ。」

「なんだそれは。それに貴様は勘で動いていたのか。可笑しいだろう。」


 うむ。正論だ。


「うん。でも、きっとこのまま私について行っても、二人で野垂れ死にするだけだと思うよ。」


 さっきからなんか、周囲から建物とか人工的なものがなくなってきてるし。


「・・・・・・・・・・・。」


 え?なんで睨まれるの私?私、なんか可笑しい?ニラマレルイミガワッカリマセーン!!


「正直スマンカッタ。」


 マジごめんなさい。悪気はなかったんです。恨むなら私の方向感覚を恨んでください。


「・・・・・・もし無事に帰れたらその顔、一発殴らせろ。」


 キャー物騒!!!


「もし、帰れなかったら?」

「貴様を捌く。」


 物騒。


「え、どうして。」

「生きるために食べるため。」


 ウワァ・・・・・リコリスドンビキ・・・・・。割と本気で・・・・。


「マジで。」

「ああ。」


 うわぁ・・・・・・。


「え、私が死んだあとにだよね?まさか、わざわざ殺されて喰われるとか・・・・・?」


 わざわざ殺されて喰われるのは無理。


「どちらでもかまわんが。」

「ぜひ死んでからでお願いします。」


 本当にお願いします。


「よし、踊り食いにしよう。」

「やめてくださいしんでしまします。」

 

 生きたまま喰われんの!?死ぬわ!!いろんな意味で!!そして爽やかな笑顔で言うな!!怖い!!


「冗談だ。そんなことにならんよう、精々頑張ってみるとするか。」



 * * * *



「で、ここはどこだいフラン君。」


 もはや森だよね、ここ。


「うるさいだまれ。」


 理不尽。


「つーかさ、今更だけど、フランの能力使えばどこに町があるかぐらい一瞬で判断できない?」


 あ、フランの能力ってのは属性『火』の『炎の天使』だよ。ものすごい厨二感がある名前だけど、名前とは裏腹にかなり実用性のある能力なんだよね。まず、絶対に消えない青と金・・・・・いや、青と紫色と金か?の炎を操れる。水に着火とかも可能。この時点で超便利。そして、天使という名前の通り、翼が生える。もう一度言う。翼が生える。白のような・・・ほんのり青いような・・・少し透けているような・・・・みたいな感じの色の翼だ。そして、この翼・・・・・飛べる・・・・・・・だけじゃない。飛べるだけでも十分すごいけど、発動するとジャンプ力、瞬発力、筋力、嗅覚、視覚、聴覚とか、まぁとにかくそういう感じのものが全部上がる。半端ないレベルで。足の速さとかヤバい。目に見えない。瞬間移動。気が付いたらビルの壁に張り付いてた!!みたいなスパ○ダーマン的ななにかを披露してくれるときもある。そして実は早すぎて飛んでる姿を見たことがない。あ、気が付いたら宙に浮いてる!!みたいな。マジ怖い。怖いといえば、能力発動中の目も怖い。青色とか紫色とか金色のなにかが目の中でゆらゆら揺れてる。そしてときどき光が目から漏れてる。謎の厨二感放ってる。でも怖い。ちなみに羽は全く重くないらしい。それどころか、発動すると体が全体的に軽く感じるとか。全体的に厨二病っぽい能力だけど、欲しかった。私と是非とも交換してほしい。あの謎ポンコツ能力と。知ってるか?私、あの能力のせいで城で陰口言われるときのあだ名がタヌキなんだぞ?タヌキだぞ!?乙女に付けるあだ名としてここまで謎の親父感放ってるあだ名見たことねーわ!!・・・じゃなくて、えっと・・・・・使える能力持ってんだから、有効活用せいや!!この厨二!!!!!


「・・・・・・断る。」

「は?」


 いや、ぴゃっと飛んで、ぽんっ!!と帰ってくればいいんだよ!?町の方向確認するだけだよ!?


「・・・・・・・断るといっている。」

「え、フランがやんなかったら私たちマジで野垂れ死にだよ?死ぬよ!?少し君が飛ぶだけで助かるんだよ!?」


 そして私はフランに喰われるよ!!嫌だよ!!私全然おいしくないよ!!


「・・・・・だとしても私は飛ばん。」


 えー・・・・・。


「じゃあさ、せめて能力発動して嗅覚とか聴覚で町の方向を探ってよ・・・・・・・。」


 それぐらいできるでしょ。


「・・・・・・・断る。」


 マジかよ・・・・・・・。


「じゃあ、もういいや・・・・・・。適当に進もう。」


 フランが断るんだったらこうしかないし・・・・・・。


「・・・・・・・・・・。」


 君が断ったくせになんで不満そうなんだ・・・・・・。



 * * * *



「キターーーーーーーーー!!!!!!」


 町や!!町!!


「・・・・・・ここはどこだ?」


 知らん!!!


「他の人に聞けばわかるっしょ!!!」


 たぶん!!


「どこかでみたことがある気がするな・・・・・・。」


 え、私この景色みたことないんだけど・・・・・・。ヒガンバナ国内だとして、私が知らなくてフランが知ってる場所なんて可笑しくないか・・・・・・・?・・・・・・もしここが、元・アヤメの現・ヒガンバナ領だった場合はそれもありえなくはないけど、それでも、どこかで見たことがある気がする、という言い方が可笑しくなる。


「どこ?」

「わからん。」


 ヘイ・・・・ボーイ・・・・希望を一刀両断しないでくれたまえよ・・・・・・。


「治安が悪そうな雰囲気ではないけど・・・・。」


 そこまで貧乏でもなければ、そこまで栄えてはいない。そんな感じ。

 

「そうだな。」


 うーん・・・・・・・・。


「少しユリに似てる・・・・・かな?」


 古めの街並みにゆったりとした雰囲気。


「それはそうだが・・・・。」


 なんとなく、近くの花壇を眺めてみる。


「・・・・・・・!?」


 あ、ヤバい。


「どうした、リコリス。」


 公共っぽい花壇に植えられているものは基本その国の花。それなのに・・・・・・・


「ヒガンバナじゃなくて・・・・・・・他の木が植えられてる・・・・・・・。」


 あれは・・・・なんの花だったっけ・・・・?


「それは・・・・・・・ここがヒガンバナではないということか?」

「だろうね・・・・・・。」


 花・・・・・いや、木の名前さえわかればここがどこの国かわかるんだけど・・・・・・・。


「白・・・・・紫がかったピンク・・・・・。」


 なんの花だ・・・・・。


「思い出したぞ・・・・・・。」


 えっ!?


「この花・・・・この国の名前は・・・・・・・


 え?どこ!?


「あっ。」

「あっ。」


 あはは・・・・・どうしてこの気になるタイミングで微妙に知り合いな人と会っちゃうかな・・・・。スルーしたくてもな・・・・この子・・・・・。


「・・・・えっと、あなたはモクレン王国の王のシンイさまですか?」

「・・・・・あなたはもしかして、ヒガンバナ王国の王女リコリスさまですか?」


 あはは・・・・・当たってるってことだよね・・・・・。というかこの子、ここでなにしてるんだろ。


「えっと、私はちょっとこの国に遊びに・・・・・。」

「ククッ、そうなのですか。護衛は一人しかいないようですが、こちらで手配いたしましょうか?」

「いや、結構です・・・・。お忍びなので・・・・・。・」


 シンイちゃんの臣下であろうこの仮面つけてる人の話ぶりからすると、この国は・・・・モクレン・・・か・・・・・。


「え、まって。護衛なんてどこにいるの?」

「あ、えっと、そこに。」


 仮面の人が言ってた護衛ってたぶんフランのことだよね?というか・・・・・よく護衛ってわかったな。ただの超美少女メイドにしか見えないし、少し離れたことろにいるから私とは他人みたいに見えるのに。


「えっと・・・・・フラン。こちらの方々に挨拶を。」


 失礼のないようにしてよ。・・・・・・って、待って。フランは・・・・・シンイちゃんの母上であるハクレンさまを処刑した・・・・・・・張本人じゃなかったっけ・・・・・・?不味い・・・・。気づかれたらどうする・・・・・?いや、でも私以外になぜか誰もフランの正体を見破った人間はいないし・・・・。


「はい、リコリスさま。」


 どうだ・・・・・・・?


「えっ・・・・・・。」

「なにか?」


 ちょっ、なにか?ってそんな不愛想な!!・・・・・・・というか、えっ、って言ったよね・・・。この子・・・・・・。もしかして・・・・・・。


「ハルサフラン・クロッカス・・・・・・・・・。」


 ば れ て た 。


「ねぇ・・・・アヤメ王国は滅びたんじゃないの?ねぇ、ヒガンバナ王国に滅ぼされたんでしょ。なのにどうしてその王子がヒガンバナの王女のもとでメイドとして働いてるの?どうして?なんで?教えてよ。」

「べ、別人だと思いますよ。ハルサフラン王子は行方をくらましたってことでしたでしょう?」

「別人なんかじゃない。ママを殺した人間の顔を見間違えるはずがない。」

「おや、シンイさんの母君は殺されたのですね。」

「なんでママを殺した君がのうのうと生きているの?なんで?どうしてママを殺す必要があったの?」

「申し訳ありませんが、貴方さまの母君が誰なのか私にはわかりねます。」

「ハクレン・モクレン!!この国の王だった人!!君が死刑宣告をした人間だ!!」

「私の記憶が間違っていないのでしたら、そのハクレンさまと言う方に私がお会いしたという記憶もなければ、死刑宣告を下した覚えもございません。」


 ああああ・・・・・・・。最悪・・・・・・・・。


「とぼけるなっ!!!」

「きっと勘違いでしょう。リコリスさま、帰りましょう。」

「勘違い!?君は自分の大切な人を殺した人間を間違えるのか!?」

「間違えるはずなどないわっ!!!」


 大切な人・・・・・グラジオラス兄さんだね・・・・。そして大切な人を殺したのは私と姉さん・・・。


「・・・・失礼いたしました。それでは、リコリスさま。」

「あ、うん・・・・・・・。じゃあ、シンイさま。またいつか・・・・。」


 ごめんね・・・・。シンイちゃん・・・・。私にフランを止めたり諭したりする権利はないんだ・・・。


「逃がすかっ!!!」


 なにごと!?


「えっ!?」


 驚いて振り返ると、シンイちゃんがフランを押し倒していた・・・・。手に短刀を持って・・・・・。


「私は・・・・・私は・・・・・・。」


 手が震えてる・・・・。


「はぁ・・・・・はぁ・・・・・はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・・。」


 そ、そういえば、止めなきゃ・・・・・!!


「ママ、ママ、ママ・・・・・。」


 止めるっていったってどうやりゃいいんだろ!?


 カランカラン


 短刀が、シンイちゃんの手から滑り落ちた。


「シンイさま・・・・・・?」

「ごめんなさい・・・・・・・。」


 復讐を・・・・・止めたのか・・・・・・・・。


「ごめんなさい・・・・・ママ・・・・。私には出来ないよ・・・。殺せない・・・・・。」


 ・・・・・・・・。


「私は・・・・・君を絶対に許さないよ。」


 間の抜けた・・・・いや、無邪気な少年のように見える彼女はその子供のような顔に似合わぬ、凛とした表情を見せた。


「スノウさま、行こう・・・・・。」


 その言葉とともにシンイちゃんと、仮面の人・・・・・・スノウさまかな?はどこかへと去っていった。なぜだか・・・・・仮面の人が一瞬こちらを振り向き、音を出さずに口だけを動かした。・・・・・えっと・・・・ま・た・あ・い・ま・し・*・*・・・・?また会いましょう、か・・・・・?なぜ・・・・?


「フラン、大丈夫?」


 地面にペタリと座り込んだフランに手を貸す。


「ああ・・・・・・。」


 あの子・・・・・・ただの弱虫だと思ってたけど、案外芯の強さがあるのかもね・・・・・。


「ところで・・・・覚えてない、って言っていたけどあれは本当?」


 嘘を言っているようにはなぜか見えなかった。


「・・・・・・・・ああ。」


 なぜ・・・・?


「ここ一年のことは大体覚えている・・・・・。他で覚えているのはお兄様のことと・・・・・・・。」


 え、なに?


「ともかく・・・・・・・過去の記憶は大抵が曖昧だ。学んだことや生きるのに必要なことなどは覚えている・・・・・・。だが、他は・・・・・・・。あれ・・・・?一年間・・・いや、この一カ月の中にも記憶がないところが・・・・?」


 どういうこと・・・・・・?


「じゃあ、嘘ではなかったと。」

「ああ。そんなことがあったような気もするが、記憶がないからなんとも言えない。」

 

 ふーん・・・・・・・・。


「記憶がなくなったのはいつ頃から?」

「覚えていない・・・・・・。」


 なるほど・・・・・。この一カ月前はそんな感じはなかったから・・・・・この一カ月の間になにかがあったのか・・・・・?


「そろそろ・・・・・帰ろう。」


 ああ、そうだね・・・・・・。記憶云々をここで話していても意味がない。



 * * * *



「リコリス・・・・・・私は・・・・・あれに殺された方が・・・・・・・。」


 え?


「あれに殺された方が・・・・・良かったのだろうか?」


 ・・・・・・・・・・・・。


「そんなことない。フランは生きなきゃ。フランが居なくなったら・・・・・・私は寂しいし。」


 殺されてしまえば良かったのに・・・・・・なんて最低な言葉を心の奥底に押し込めながら、私は嘘の滲んだ甘い言葉を嘯いた。




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