第一章 ロメオはマーキュシオの死の報復を誓う
色々ぶっとんでいますがお許しを。あと、ガールズラブらしきシーンが何回か出てきますが、姉妹愛です。お守り役のときのとは違います。
『どう考えても私のお守り役が怖すぎる件について…』の最新話投稿いたしました。
ハハッ!!やぁ、みんな!!私、ヒガンバナ王国の第二王女のリコリス・ヒガンバナ!!今、戦場にいるの!!…いや、こんなこと心の中で言ってる場合じゃないんだけど。え?どことの戦争かって?……まぁ、うん、モクレン王国のアララギ金山を略奪し、挙げ句その国の女王ハクレンを処刑したってことで何年か前から悪評がたちまくっているアヤメ王国とだね。ん?別にモクレンのためとかじゃないよ?それだったらユリのほうがやりたそうだったし。私たちは単純にこの先もっと栄えるように。アヤメを滅ぼし、その領地を手に入れるために戦争を仕掛けたんだよ。……まぁ、こっちもいつ裏切られるかわかんないから、先に種を摘んでおこうっていうね。それに今だったらアヤメを滅ぼしてもそこまで悪評はたたないし、もともと大不況で国が傾いていた&先の戦争でアヤメは弱ってるからやりやすいんだよね。…まぁ、大不況なのはこの国も同じだけど。だから攻めるんだし。……なんか偉そうに語ってるけど、これ、全部実は私の考えじゃないんだな。うん、全部、現ヒガンバナ国王クリビア・クンシラン・ヒガンバナ……まぁ、私の姉さんの考え。残念ながら。私はこんなことを考えられるほど出来た頭を持っちゃいないし。
「リコリスさま……!!行方をくらましていたアヤメの王、グラジオラス…アヤメの居場所が判明しました…!!」
……。
「……どこ?」
「この陣のすぐ近くのトウショウブの丘にある陣にいるとの報告が。」
「わかった。ありがとう。」
「なっ!?お一人で!?」
「うん。」
「いけません!!」
「お願い。一人で行かせて。」
「駄目です!!」
……仕方ないか。まぁ、私も王女だし。
「はぁ……。わかった、よっ!!」
「わぁっ!!」
私の能力、『狸の葉』を発動し、兵の前から逃げる。
「ごーめんねー!!」
説明しよう!能力『狸の葉』とは『草』属性に属する、一瞬だけ葉っぱを大きくすることができる(一日一回しか使えない)という、超…スーパーハイパー役に立たない私の能力だ!!……まぁ、今回は少し役にたったけど。
「えっと……トウショウブの丘は…こっちか!!」
* * * *
「…ねぇ!!ここどこ!!おい!!トウショウブってこっちじゃなかったっけ!?」
戦場で迷子になるなんて………死んだわ……。
「いやいやいやいや!!まだ死にたくないし!!人生謳歌したいよ!!まだやりたいこと一杯あるよ!!」
とはいってもなぁ……。
「どうしよ……?ここで止まってても仕方ないよなぁ…。」
下手に動いて迷子になるのも……ん……?
「陣……か。」
あの紋は……
「アヤメ…だ。」
よし、行こう。少なくとも私に利用価値はあるはずだし、即殺害なんてこともないだろ。
「あのー!!すいませーん!!!」
と、叫びながら敵陣に突っ込む私。……はたから見たらむっちゃマヌケだな……。い、いやっ!!今は命かかってるし!?勇気ある行動ってやつですよ!?
「なにか用かな?リコリスちゃん。」
ふぁふぉっ!?は……?
「そんなところにいたら危ないよ。今、ヒガンバナは戦争中なんだから。ほら、こっちにきて。」
いや、ここよりも貴女の方が危険なんじゃないですか?と、頭の中で誰かが言ったが、私は驚きのあまり、いつのまにか言われるがままに兄さんのすぐ隣にいた。
…私が幻でも見てない限りこの、手首の周りを無駄に長い青いリボンで結んでいる人は…。
「グ…ラジ…オラス兄さん……?」
「どうしたの?そんなに驚いて。」
「えっと…ここは……?」
「ハナアヤメの丘だよ。」
え……?
「どうして…ここに………?」
「どうしてここに、って聞かれてもなー…。僕はずっとここにいるさ。」
くっそ、あの兵士デマ教えやがったな!!って、あれ…?
「一人で…?」
「うん。まあね。」
兄さんはたしか…『火』で『バリア』か…。たしか自分が許したものしかバリアの中に入れない、とか超絶便利な能力だったような…?だったら一人でも…問題ない…というより、そっちの方が都合がいいのか…?
「ところで、どうしてここにリコリスちゃんは来たの?」
貴方を探しにトウショウブの丘に行こうとしたら、気が付いたらここに辿りついていました。…ないな。むっちゃ恰好悪い!!ここはパッと出まかせを!!
「イ、ヤー、タタカッテタラマイゴニナッチャッテ……!!」
ヤバい!!むっちゃカタコトになった…!!いかにも嘘ですって感じだよ!!つーか、イ、ヤー、ってなに!?祭りの掛け声かよ!?それに私、全くもって戦闘に参戦してない!!
「そうなんだ…。可哀想に。しばらくはここで過ごしなよ。」
し、信じてもらえただと……!?流石兄さん……!!優しくて天然の称号は伊達じゃない……!!……あ、兄さん兄さん言ってるけど兄さんと私の間に血縁関係はないよ。ただ、アヤメの前王とヒガンバナの前王が仲良くて、よく子供同士でも遊んでたんだ。四人とも…いや、一人だけ違ったな。アイツは究極のブラコンだから姉さんにはあんまり興味なさげだったけど。え?私?一方的に構いまわしたに決まってるじゃん。半分嫌がらs……ゴホン、ともかく姉さんと兄さんと私は仲が良くて結構な仲良しだった。まぁ、本当の兄弟みたいに。兄さんと姉さんは同い年だったからお互いに名前にさん付けだけど、兄さんは私を名前にちゃん付け、私は兄さんと呼ぶようになったんだ。
「……多分、あと少ししたらあの子もくるよ。君がいるってわかったらあの子も喜ぶね。」
あの子…げぇっ!!アイツのことか!!アイツ、兄さんみたいにみたいに優しくないし、現実主義者だから私を人質にして、ヒガンバナに降伏を求めてくるよ、絶対!!しかも会いたくない!!あの仏頂面見たくない!!やだ!!
「ところで、リコリスちゃん。本当の要件はなんなのかな?……迷子は本当みたいだけど、なにか用があって僕を探してたんじゃないの?」
……バレてたか。
「……兄さん。降伏してください。アヤメは確実に負けます。今のアヤメとヒガンバナの戦力差は歴然です。負けたらきっと、兄さんは死刑です。こちらが負けた場合は姉さんがそうなるでしょう。私は兄さんや姉さんが殺されるのを見たくはありません。でも、兄さんが降伏し、ヒガンバナにアヤメを譲り渡したらきっと姉さんも国民もあなたを許し、死刑なんてことにはなりません!!兵の死ぬ数も減ります!!だから…
「優しいね。リコリスちゃんは。でもね、僕は死ぬ覚悟なんてとっくのとうにできてる。僕は国のために生きて死ななきゃ。それが王の宿命なんだから。だって、ほら、モクレンの前王だって戦争に負けて僕たちに殺された。その宿命を僕だけが逃げるなんて許されないし、国民も許さない。モクレンだって許さない。僕は戦い抜いて、国と共に滅びる。」
「………わかりました。兄さん。」
「ごめんね。リコリ
グサリ
「ス、ちゃん……。」
バタリ
「に、いさん……?」
な、んで胸から剣が出て、いるの……?
「お兄様ああああーーーーーーーー!!!!!!!」
フラン…?どうして叫んでいるの……?
「リコリス。勝手な行動はしちゃ駄目だっていいましたよね?姉さん。」
姉さん、どうして普通に話しているの?目の前で、兄さんが…。
「姉さん…なんで兄さんを……?」
「……リコリス。これは戦争。これが一番被害を抑えられる方法なの。」
「だからって……。」
「王は国民のため、国のために鬼になる。その牙を向ける相手がどんなに親しい人でも。」
「そんなの……。」
「わかりなさい。リコリス。お前も王ではなくても王族。勝手な行動は以後慎め。お前のその勝手な行動が百の国民を殺す。」
「はい…。」
ああ……姉さん。そもそも姉さんは国のためにこの絶望的な戦争を始めたんだものね。姉さんは……鬼だ。
「あ゛、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーー!!!ヒ、ひ、ひひひひヒガンバナあああああああああ!!!!!
フラン……ハルサフランが兄さんの亡骸の前まで走ってきたあと、足元から崩れ落ちた。姉さんはそれを一瞥するとどこかへと去っていった。
「どうしてだ!!!!!どうしてだァああああああ!!!!!!リコリスゥううううう!!!!!
「ごめん……ごめん………。」
兄さんのこと、大好きだったもんね…。
「なんで……なんで止めなかった…!!!」
「………」
私には…止められなかった…。
「あああああああああ!!!!!尊敬する方を!!!一生仕えようと心に決めた方を!!!!失った私はどう生きればいい!!!!?答えろ!!!リコリス…ヒガンバナ!!!!!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
私も悲しい…だけど、泣けるような立場じゃない…。姉さんがここの場所をわかったのは…きっと私のせいだ………。
「リコリス…リコリス………私は……。」
「どうしたの…?」
少し、落ち着いた……?
「私は…貴様を絶対に許さない……!!!絶対に!!!!!復讐を!!!!!」
「…………」
あ、あぁ…そうだ…。私たちの友情は…もともとあったかどうかなんて知らないけど…でも、確かにあったはずの私たちを繋げていた糸はめちゃくちゃに切り離されたんだ…。
「ははは……楽しみに待っていろ……。」
「……」
フラン……否、ハルサフランは呪詛のようにその言葉をはくと兄さんの亡骸を背負い、どこかへと消えていった。
ハルサフラン…クロッカス…アヤメ……彼は……これからどうなるんだろう。ねぇ、姉さん……姉さんはハルサフランをどうするつもり……?
ねぇ兄さん…。どうか天の国では……救われて。兄さんみたいな優しい人が王にならなきゃいけなかったこの世界は……狂ってる。
* * * *
「リーコリースーーーーぢゃーーーーん!!!!!!」
ハルサフランは終戦から一か月。未だに行方不明だ。……どこで何をしているのか。
「ねぇ、リコリスちゃん。どうしてお姉ちゃんのこと無視するの?反抗期?」
「はぁー……姉さん。いい加減リコリスちゃん呼びやめてよ…。」
「いいですか!リコリスちゃん!リコリスちゃんはリコリスちゃんですっ!!」
リコリスちゃんがゲシュタルト崩壊してるよ…。
「お姉ちゃん、リコリスちゃんが反抗期になったら泣いちゃうからね。」
はいはいシスコンシスコン。
「姉さんは反抗期なかったの?」
「母さんが怖すぎて反抗とかできなかった。」
やめてよ真顔で言うの。いや、確かに母さんが怖かった話はよく聞くけど。
「というか姉さん……酔ってるでしょ。」
「ハァー?そんなことないもーん!!!!!!」
酔ってる人は大抵そういうんだよ。
「昼から飲むって…。この酔っ払いが。酒臭い!!」
「そんなことないしーーー!!!!」
「ああ!!抱き着かないで臭い!!」
「いーやー!!!!」
「あ、こら、姉さん!!!押し倒さないで!!マジで臭い!!ヤバい!!!」
トントン
「ほら、誰か部屋に入ってくる!!!!」
「クリビアさま、リコリスさま。失礼しまーっす。」
ガチャッ
「…………。」
「…………。」
……見つめ合うーだーけでー
「……失礼しました。」
ガチャ
「って、誤解!!!誤解だから!!!トウリ!!!別に姉さんとそういう仲なわけじゃないから!!!」
姉さんのせいでとんだ誤解をされたわっ!!あ、トウリっていうのはこの失礼すぎる茶&緑髪茶目の奴の名前。トウリ・ヘチマ・ウリね。
「……本当にっすか?」
「本当だから!!!助けてよ!!!」
疑うのかっ!?このヘチマ野郎!!!!
「はぁ…よかった……。ついにクリビアさまが道を踏み外し、禁断の仲になってしまったのかと……。」
私たち、君にどういう目で見られているんだ!!!!!!!
「二人がそういう仲だという話はちょこちょこ聞きくんすよねー」
嘘だろ!?ガッデム!!!!
「いや、本当に違うからね。ところで、尋ねてきたわけは?」
「えっと…ああ……なんでしたっけ……?」
なんだよそれ!!しっかりしろや!!!!ヘチマ頭!!!
「あ、思いだしました!!リコリスさま付きの新たな使用人を雇いましたので、リコリスさまにご挨拶をと。」
ああ…そういえば最近私の唯一のお世話係だった子が突然失踪しちゃったんだよね…。結構仲良かったんだよな…。あの子、今どこにいるんだろう…。会えたら、戻ってこなくていいからせめてこれまでのお礼だけでもいいたいな……。
え?大国の王女にしてはお世話係が少ない?そりゃそうだよ。今は大不況だし、お金のほとんどは国民のために使ってるし。使用人なんて雇ってる余裕はないも同然。姉さんは流石に王だからもうちょっと多いけど。…まぁ、お世話係といっても私の場合、やってもらうことは着にくい服を着せてもらったり、話し相手になってもらったり、身の回りのことを少しやってもらったり……ぐらいしか仕事はないんだけど。他は他の専門の使用人がやったり私がやったりするし。
「ほら、この子っす。……フランちゃーん!!」
そうトウリ、いや、ヘチマ野郎がいうと、エプロンと頭のフリフリをなしにしたメイド服を着た、腰まで届くであろう白銀の長い髪を青いリボンでハーフアップにした、私より頭一つ分ほど背の高い少女が部屋に入ってきた。…なんでこの子下向いてんだ……?
「……その体制。」
喋った!?じゃなくて、
「姉さん!!!いい加減どけやっ!!オラァッ!!!!!!」
ゴズッ
「あ、棚に当たっていい音しましたね!!」
うるせえヘチマ!!だが、同意する。
「リコリス……ちゃ…ウエッ
バタッ
「あ、死んだ。」
いや、死んではない……はず。
「じゃあ、気を取り直して。えっと…フランさん?」
「そうっす。」
お前に聞いてねえわ。このヘチマ。
「あ、じゃあ後はお二人で。」
はっ!?お前、私とこの子だけにするつもり?え?私、コミュ力皆無。この子むっちゃ無口っぽい。…どう考えても詰んでるね?これぐらいわかるだろヘチマにも!!!
「それじゃあ、頑張ってくださいねー!!!」
「えっ、いや、あ…」
あんのヘチマ野郎!!!!……まぁ、潰れてた姉さんを回収して出て行ってくれたことは感謝する。
「えっと…フランさん?」
それにしても…ハルサフランが消えてからフランさんが出てくる…そんなこともあるんだね…。
「はい。ハルサフラン・クロッカス・アヤメです。」
「は?」
え?は?なにいって、るの?へんなこと、いわないでよ。
「なに、いってるの……?ふざけ、ないでよ……。あのこは…
「ふざけてなんかいませんよ。ええ。ふざけてなんかね!!!!!!!!!」
はるさふらん…なんで……?
「死んだとでも思っていたか!!!はっ、残念だったな!!私は今も生きている。貴様への復讐を成し遂げるために!!!!!」
「そ、そんな…」
ありえない…。
「まだ信じないか。ほら、この顔を見ろ!!!!私だろう!!!」
ハルサフランと名乗った少女が私をソファーの上に押し倒し、顔を寄せてくる。
「あ、あ、あ、あ………あぁ……。ふらん…。」
化粧をしているが、どう見ても、その顔はハルサフランだった…。
「はは、その顔……その顔だ……!!その顔が見たかった…!!!!…あぁ、まさか誰かに助けを求めたりして私を売ったりなどしないよなぁ…?だって、私たちは、
兄弟、だろう?
「きょう、だい……?」
違う、私たちは兄弟なんかじゃない!!あったのは友情のようななにかの絆。でも、その絆は…その糸は…もう再生不可能なくらいに粉々に砕け散った!!!!!
「ああ、そうだ。私たちは兄弟。」
「ちがう…!!そんなことない…!!」
私の兄弟は姉さんだけだ!!!!
「ちがう…?お前がそう言ったんだ。…まさか、あの言葉は嘘だったと?」
あの言葉!?そんなもの知らない!!
「違う…違うよなぁ…?嘘なんかじゃないよなぁ…?…嘘じゃないと言えっ!!!!」
「う…嘘じゃないです…」
怖い…怖い…!!!どうしたの!?フラン!?君はそんな奴じゃなかったろう!?なにが壊れた!?なにが壊した!?……ああ、そうか…君を壊したのは、
私たちだ…。
「そうだ……そう……。私たちは兄弟。裏切ることなんて許さない。」
裏切り…?
「それに…お兄様が死んだのはお前のせい…。なのに私を罰するなどありえない。罰されるべきは貴様のほうだ……!!」
ああそうだ……。罰されるべきは私たちだ…。
コンコン
「トウリっすー!!入りまーす!!!!」
その瞬間、ハルサフランは私の上からパッと退いた。
ガチャ
「いやー、仲良くなれそうっすかー?」
…………。
「いや、あんm
「ええ。とっても。」
嘘つけ!!……あんまり仲良くなれそうにない、っていいかけたからって睨むなよ……。
「そうっすか!!良かったっすよー!!」
良かった………?
「それじゃあ、えっと…」
「……フラン・クロキュス・イリスです。」
えっ!?
「ああ、フランちゃん。あとはまかせるっすよー!!」
んんっ!?
「えっ、この子、これまでのお世話係の子と同じことするの?」
「はい。」
………どーんだーけー…………。
「じゃ、そういうことでっ!!!」
ええ……。
ガチャ
「バイバーイ!!」
ウインクして出ていくなヘチマ。
「…………。」
「…………。」
気まずい……。
「………では、お着替えのお手伝いを………。」
「いや、着替えないよ」
私、大体一日をジャージで過ごすし。というか急に落ち着いたね。もとのフランに戻ったみたい。
「は?」
は?ってなに。
「一国の王女がそんなこと許されるんですか?」
「うん。」
許される。
「ところでさ、フラン。無理して敬語使わなくていいよ。」
なんだか気持ち悪い。
「……別に構わないが、敬語を使っていないところを見られると困る。」
いや、私に敬語使ってない奴なんて山ほどいるけどね。ヘチマ野郎もエセ敬語だし。
「じゃあ、私以外人がいないときだけでも普通の口調にしてよ。」
「盗ちょ
「ねーよ。」
ねーよ。私のこと盗聴してなにが楽しいんだ。
「わかった。」
相変わらず仏頂面がデフォだね。
「というか、メイド服………似合うね。」
もとから顔はかなり整ってるし、女の子みたいだと思ってたけど、メイクしたり声を高くしたりするととんでもない美少女になるね。あと、髪も随分と頑張って伸ばしたんだね。もともとおかっぱだったのに。
「殴る。」
いやん物騒。
「なんかもう、男の娘って分類だよね。」
「まぁ……そうかもしれない。なるべく女性に近くなるよう振る舞っている。……ちゃんと、女性に見えるか?」
どうでもいいけど……
「抱きしめてもいい?」
「変態。」
真顔で返すなよ!!
「いや、美少女を見ると抱きしめたくなる性質でしてな………。」
「知ってた。だが断る。私は少女ではなく男だ。」
いやー本当に美少女なんだよ……。さらさらな白銀の髪に夜の闇をつめこんだみたいな色……つまり深い青色をした綺麗な瞳。冷たく美しく整った顔……!!肌もすべすべで真っ白…!!本当に美少女だ…!!
「男でもいい…!!エセ美少女で構わない…!!見た目が美少女であれば構わない…!!」
「変態。」
二回目いうな!!!わかってるから……!!
「どうでもいい、がっ!?リコリス!!抱き着くな!!」
はすはすはすはす
「落ち着きますわー………。」
美少女の胸のなか…………。
「…………。」
ぎゅっ
んっ!?あっちから抱き着いてきた………だと………?しかも……キツイ………。
「ギブギブ!!死ぬ!!それ以上強く抱きしめるな!!おえっ!!」
私を殺す気かっ!?……いや、あり得る。
「ああ……あああああああ!!!!!!」
ふぁっ………!?まさか……また錯乱状態に……。
「…………離れられないように縛り付けなくてはもう私には誰もいない縛り付けて絶対にいなくならないように罪というなの鎖でしばりつけて絶対に逃れられないようにしなくては怖い怖い怖い怖い生きている意味は復讐だけ罪で縛って苦しめて誰にも奪われないように
「フラン………!!」
なにをいってるんだ……?
「………誓い……誓いを…!!絶対に私から離れないという誓いを……!!リコリス…!!」
「それは…無理……かも………。」
わからないし………。もしかしたら、結婚してこの城から出ていくこともありえるし……。
「なぜっ!?私を捨てると!?」
いや、捨てるもなにも……。
「そんなこと………許さない……!!!許さない許さない許さない許さない許さない許さない…………許さないぞおおおおお!!!!」
「フランッ!!!」
許さなくていい!!戻れ!!
「ああ………ああ……。捨てるのか………。だったらいっそ、ここで死ね!!!」
どすっ
「フラン!!押し倒すな!!首をしめるな!!!」
またもや、ソファーの上に押し倒された。……苦しい……。
「ぅう………フラン……。」
本気で殺すつもりだね………?
「ああ………!!リコリス……!!愛している………!!!」
や、ばい………本当に……意識が……。
「辛いか!!辛いだろう!?お兄さまはもっと辛かった……!!剣で心ノ臓を突かれたのだから!!」
ああ…そう………か……。
「罪を感じろ!!!もっと!!もっと!!そして自ら雁字搦めになれ!!!もう今からも私からも動けないくらいに……!!!!」
しねば………つみはきえる……?
「はっ、まさか貴様………自ら死のうとしているのか?そんなこと許すものか………!!そんな安らかな死など与えてやるものか!!!!!!」
ギリギリギリ
またちからがつよくなった………。それにしても………いしきがきえそうできえない……。
「は…な……せ………。ねえさんを………おいて……いく…わけには…。」
いかないんだ……。ねえさんには……わたしというなの………すとっぱーがいないと……さけをのみすぎて…あるちゅうでしぬ………。
「貴様は死ぬ前も姉のことか…!!!私のことを考えろ!!!今、貴様を殺そうとしている!!」
そんなこといわれたって……ねえさんが……わたしの……おやがわりをしてくれた…いちばん……たいせつなひとなんだから………。
「ぁあ…………。」
こんどこそ……いしきが………。
「あ、あ、あ………ああああああああ!!!!!死ぬな!!!死ぬなリコリス!!!私を!!私を置いていくな!!!私にはもう、貴様以外誰もいない!!!」
フランの矛盾した絶叫をぼんやりと聞きながら私の意識は暗闇に消えた。
* * * *
「目覚めろ…!!頼む……!!ああ………!!」
ん……?
「私は………私は………リコリス………。」
この人………めっちゃ情緒不安定そうだけど大丈夫かな……。
「ん………?あああっ!!!!」
え?私生きてる?天に召されてないよね!?よ、よかったー……!!!
「リ……コ……リス……?」
リコリスだけど。
「生きて………いる………?」
そう言いたいのはこっちだよ。
「ああ………ああ……!!」
あ、だけでコミュニケーション取ろうとするのやめてくれない?私、あ、のニュアンスだけで君の気持が完璧にわかるほど、君の達人じゃないから。………まぁ、少しはわかるけど。
* * * *
「……フラン、落ち着いた?」
「…………ああ。たぶん。」
なんじゃそりゃ。
「時々………余裕が消え、錯乱状態になる。」
時々………?
「これからもこういうことがあるかもしれない。」
ふーん。ところで、さ。
「………フラン自身の望みは?」
「…………さぁ?」
「…なんのためにここにきた?」
「…気が付いたらここにいた。」
「…この城にってことでいい?」
「……ああ。」
なるほど……。フランはもしかしたら……二重人格のような状態に陥っているのか……。
「どうして……殺されかけたのに、そんな冷静でいられる?」
ねぇ、フラン。
「わかったよ。」
私たちの絆は…私たちの糸は…………
「………なにが?」
めちゃくちゃに千切れて、もう再生不可能だった私たちの糸は……
「………ううん。なんでもない。」
やっぱり再生不可能なくらいに歪んでまた繋がったんだって。
たぶんこの話は『どう考えても私のお守り役が怖すぎる件について・・・・・・』とかなりリンクしてきますので、そっちを読んでいたほうがわかりやすい・・・・・かも。読んでいなくてもわかる、はず。