リア充死すべし
現代のダーク童話です。
クリスマスイブのゴヨギ公園
澄んだ夜空の下無数の電飾が公園を彩り、着飾ったカップル達が甘い時間を過ごすしている。
彼ら達の姿を伺う大型車両が一台、公園進入路に居る。
しかし、甘い時間を過ごす彼らの目には入ってないようだ。
恋人たちは幸せそうに肩を寄せ合いイルミの通路を歩いて居る。
公園への進入路居たのは『グロネコトマト』とネームの入ったトラック。
中にいるのは男。
年は30代前半、小柄で細身だが上半身は盛り上がって居る、顔は痩せ目は猛禽類の如く鋭い。
彼の出で立ちは、黒いコートに黒いジーンズ。
――まるで、死神の様。
訝しげにかれはカップルの様子を見ていたが、車の時計に目を落とす。
――時計は19時59分を指し示している。
「時間だ」
男は呟くと、エンジンキーを回す。
どるぅん♪
小気味良い音を立てて、彼が乗ってる8トントラックの心臓が胎動した。
ボン ボン ボン…。
彼の眼前には、フロントガラス越しに公園内で閃光と爆炎が上がるのが見え始めた。
男は小さく口角を上げた。
公園では小さな爆発が立て続けに起き、そのたび、カップルたちの悲鳴のデュエットを上げる。
人々は気が付いていなかった。
――爆発がある規則に従って花を咲かせていることを。
そして、自分たちが追い込み漁のようにある地点。
――逃げ場のない袋小路のゴミ捨て場に追い込まれていることを。
悪魔の胃袋に獲物が吸い込まれるのを確認し、男の広角が邪悪にゆがむ。
「リア充死すべし!」
男は意を決し、アクセルを全力で踏む!
グォォォォ~~~ン!!!
キュキュキュキュ~~~~
鉄のケダモノが天を突く咆哮を放ち、
足周りから煙を吐きながら漆黒の一筋の火箭と化して、哀れな獲物たちへ猛然と突っ込んで行った。
しかし、この期に及んでも人々は気が付かない。
――凶悪な猛獣の口に居る様な絶対的生存の危機に居る事に。
カップル達は、爆発で混乱するこの期に及んでも、袋小路でお互いに抱き合って居た。
――自分たちが無事であることを喜び、今夜のベットの上のネタにでもするのであろう。
しかし、現実は非情。
どん‥グチャ。
どど~ん‥グチャグチャ。
鈍い音を立てて、今までは幸せを運んだであろうトラックは聖夜の歩道を爆走してゆく。
運ぶのは死。
絶対的かつ全ての人間にもたらされる、唯一平等な物。
終わり無き絶望から解放する希望を運んでゆく。
鉄塊の暴走に老若男女、悲鳴のオーケストラをあげ逃げまどう人々。
しかし、袋小路に追い込まれ鋼の無慈悲な暴力の前に為す術は皆無。
音が一つ響くたびに、また一つ、また一つ、と命が解き放たれてゆく。
”
猛獣が走り抜けた歩道には深紅のワインと透明なワインが永遠に沈黙した人々から地面に広がっていた。
幸運か不幸か判断はできないが、天に召されずにいた人々が悲鳴のコーラスを上げている。
そして、粗方カップル達をはね飛ばし終わると車は止まる。
ドアが ガチャリ と開くと男が出て来た。
彼は、顔色一つ変えて居ない。
彼の手には黒革のグローブと銃。
腰には予備の弾倉と数本のナイフがベルトに吊るされている
銃はAkー47 テロリスト御用達の銃だ。
ナイフは刃渡り25センチはあろうかと言うダガーナイフ。
そして、男は血を流しながら床に横たわるカップルたちを見据えて言いはなった。
「リア充死すべし!」
しかし男は表情を変えず、まず高級そうなスーツに身を包んだ20代のリーマン風の男と派手な化粧をしたカップルに近寄る。
そして、銃口を男の頭に突きつけた。
恋人たちに緊張が走り、男の足下には温泉が沸きだしていた。
「これで見逃してくれ!」
リーマン風の男は震える手で財布から万札を数枚だして懇願した。
――まだ、たくさん万札があるにも関わらず、だ。
「お前の値段はそれっぽっちか?」
彼は表情を変えずに言い放つと引き金を引いた
パン。
銃口の先で季節はずれのスイカ割が行われ彼は永遠に沈黙した。
…余談ではあるが、彼は中国産スイカを国産と偽り大量の利益を上げていた。
ただの物体と化した彼氏を横目に見て、座り込む女の足下も湯煙があがる。
恐怖のあまり悲鳴すら上がらない。
そして、彼女は震えながら声を放つ。
「そ ソンな事より楽しいことしましょ? 私は、毎日あそこでアレを食べないと寂しくて死んじゃうのよ! あなたのバナナちょうだい」
女は震える手で、ショーツを脱ぎ股を開いて見せる。
其処には、使い潰されたどどめ色の薔薇が咲いていた。
「汚ねぇ物など見たくもねぇ!」
彼は彼女の腐りきった花園を見、小さく頬を引き攣らせる。
そして、使い古された花壇に向かい銃を構えて吐き捨てる。
「ヤりまくれる、リア獣死すべし!」
ドドドドド
カラシニコフが凶悪な唸りを上げて弾を吐き出す。
無数の鋼の雨が花壇に吸い込まれて行き、無数の真紅の薔薇を咲かせた。
汚い花火を上げながら奇妙な声を上げ、
更には、珍妙なダンスを踊ると言う珍妙てんこ盛りで、彼女はマトンの挽き肉となっていった。
カチッカチッ!
内臓を吐きつくし、硝煙のため息を吐くAK-48。
彼の目の前に転がるのは、汚い粗挽き肉。
男は1マガジンを打ち尽くすと弾倉を交換し、次の標的に向かう。
向かった先に居たのは女。
年の頃、アラフォー。
シマム○の衣装で固め、ブランド物一つもっていない。
コミケ帰りだろうか、丸められたポスターがピームサーベルの様にリュックから突き出ている。
ブス、ブタ、ババアのWWⅡの3B作戦が揃った様な女性だ。
もしかしたら、ボッチも加わった4Bかも知れない。
男が近寄ると、女は死を覚悟する。
そして、魂からの叫びをあげた。
耳をつんざく様な、凄まじい性への執着の悲鳴だった。
「処女で死にたくない!」
しかし男はおびえる女の横を素通りし、通りざまに口を開く。
「リア充以外に興味はない……」
「……」
緊張感からとき放たれた女は、足下に黄色い琵琶湖を作った。
彼女は、漆黒の死神の後ろ姿を茫然と見送った。
男は更なる獲物へ向かう。
向かう先は、まじめそうな30代のリーマンの男。
彼は仕事もプライベートもバリバリ出来る体育会系らしく、眼光は野獣の様に鋭い。
しかしリーマンは恐怖の余り、ガタガタ震え座り込んで居る。
そして、彼の手にはケーキの箱が持たれていた。
「リア獣死すべし……」
彼は冷たい視線で銃口を男の顔面に向ける。
「まってくれ、オレに何の落ち度が?」
「お前の社会的地位は、何人の人間を踏みつけにして手に入れた?」
「……」
リーマン風の男は考えた。
彼は今まで、足下を見ることもなかった。
今まで自分の成功は、全部自分の努力で勝ち取って来た物と考えて来た。
――彼の下で、無数の人間を踏みつけにして居たのに、だ。
部下の手柄は自分の物、自分の手柄も自分の物。
そして、自分のミスは部下の物。
ジャイアニズムの極みの様な男には、ドレだけの人間を踏みつけにしたか考えた事もないのだ。
「すべてオレの力で勝ち取っ……」
バン
彼は自信に満ちた顔で答える最中に言葉が途切れる。
銃口から冬花火があがり、男は永久に沈黙したのだ。
彼は、ばたりと倒れ込む。
ちなみに、この男はブラック企業と叩かれた悪質リフォーム会社の野獣のような部長であった。
そして、私生活でも幾人の若い女子社員を毒牙に掛けると言う野獣ぶりを発揮していた。
永遠の沈黙した彼には、既には関係ない事であるが……。
――既に部下に向かっていくつもの罵声を発し、女子社員達を食い漁ったであろう、彼の頭には巨大な穴が開いて居る。
「クズが! 判らないのが、お前の罪だ……。」
そんな生ゴミを横目にちらりと見て、男は銃を片手に呟く様に吐き捨てた。
次に男は近くで学生風のカップルに目をやる。
年の頃、16~18。 高校生のようなカップルである。
彼らは座り込んで抱き合いながら、震えていた。
男は銃を突きつけ、彼らに無慈悲な条件を付きだす。
「お前ら、こいつで殺しあえ。 生き残った方は生かしてやる」
からん~♪×2
彼は2本のナイフを彼らの前に投げ落とす。
――刹那、女子生徒は必死の形相でナイフを拾うと無言で彼の胸に突き立てる。
茫然とする彼。
「嘘だろ。どうして……?」
彼はそう言うと次の言葉は途切れた。
後から涙がとめどなく流れおち、喋れなくなっていた。
「彼氏は、また見つければ良いからねっ!
これで、あたしだけは生き残らせてくれるのよね?」
彼女は笑顔を見せて男子生徒に吐き捨てる。
そして女生徒は必死の形相で男に懇願した。
……しかし、男子生徒には刃は刺さって居ない。
彼らに渡されたのは、最初から刺すと刃先が引っ込むビックリ玩具のナイフだった。
最初から、この武器で誰一人殺す事は出来なかったのだ。
「これが、愛の本性だよ。 坊や」
その様子を見て男性生徒に振り向き、男は口角を少し上げる。
そして、女学生に銃口を向けた。
「う うそつ……」
パン!
彼女の言葉は途中で消え去った。
男の銃口から放たれた死神に彼女の命は刈り取られたのだ。
赤いしみの中横たわる女学生。 茫然とする男子学生。
男は次の獲物へ標的へ移す。
次に目を付けたのは女学生。
年の頃12~15歳、ミッション系だろうか?
ブランド物の様な身なりの良い制服を身に着け、胸に小さな十字架。
いかにもお嬢様と言う感じがありありの少女だ。
男は彼女に歩み寄ると、銃口を突きつける。
「貴方は悲しい人です……。 私があなたの悲しみを受け止めて……」
男は銃口を少し彼女の顔から、ずらす。
パン!
男の銃弾が彼女の頬をかすめる。
数本の髪の毛が空に舞う。
「キィヤァァァ!!」
彼女のサイレンの様な悲鳴が響いた。
何処も怪我して無いにも関わらず。
女学生は聖母から阿修羅の様な形相に表情を変え吐き捨てだした。
「私が何をしたと言うんですか!? 私が貴方に何時危害を加えましたか!!!」
しかし、男は表情一つ変えずにトーンを落として口を開く。
「お前は、ファーストフードや通信販売は使うか? そしてあんたはバイトはした事有るのか?」
「そりゃ、バイトは……学生の本分は学業だからしませんよ、それに普通に生活して居たら使うのは……」
ドドドドド
彼女の発言は銃声にかき消された。
男が放った無慈悲な銃弾で、十字の聖痕が彼女の胸に刻まれたのだ。
そして、真紅のサークルの中で少女は神に召される。
――胸に真紅の十字架を抱いて。
「お前らがコンビニや通販を便利に使う裏で、ドレだけの人間がゴミ以下で働き、そのお蔭で便利な生活成り立っているのか判っているのか?
それを知らずに漫然と生きる事がお前らの罪だ!」
男は吐き捨てると次の獲物を探そうとした。
しかし、近く居るのはホームレスの様な老人だけだ。
年の頃60、痩せこけており、空腹の余り逃げる事も敵わないようだ。
「儂も殺すのか?」
ホームレスが覚悟を決めて話すと、男は首を振りポケットから財布を取り出す。
そして、彼は小さく微笑むと財布ごとホームレスに投げ渡す。
「少ないけど、爺さんコレで何か食いな」
唖然とするホームレス、そして財布を開けて更に驚く。
中に入って居たのは、お金と共に運転免許。
その名前には、『氷室今日子』と書かれている。
その男は彼では無く彼女だったのだ。
「……あんたは天使か?」
「い~や、人間だよ。 その日を必死で生きてるね」
アホウの様な面をするホームレス。
彼女は、ホームレスを横目にクールビューティな顔に感情を込めず、カラシニコフ片手に新たな獲物を探してゆく。
「さ~て……、 次のリア充死すべし!!」
「正しいかどうかは別にして、いびつな形でひっくり返す連中も居るんですよ……。
私には、彼女を責められませんがね……」
ホームレスはポツリ呟いた。