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ジョー・キングの場合 08


第十九節


 ジョーは手際よく新しいセキュリティシールが貼ってあるデッキを取り出した。

 ギャンブルはきれいごとではない。

 もしかしたら生活や野望が、そして人の命が掛かっている。

 確実に勝負に勝つためにデッキを操作し、カードにマーキング(印つけ)をするのはトランプカードがこの世に生まれてから数限りなく試みられてきた。

 そうした不正を防ぐため、ラスベガスにおいては一度使用したカードは二度と使わず、全て廃棄する。

 カジュアルなゲーム…家庭で行われるババ抜きや七並べなどにおいては、ゲームが終われば再びシャッフルしてもう一度始まるのだろうが、ラスベガスにおいてそれをやると最初のゲームの際に自分だけ分かる(きず)をカードに付けた状態でシャッフルに混ぜ、次のゲームからバックプリント側からカードを読んでプレイするイカサマが始まってしまうのだ。

 であるからこそ、もったいなくても一度使ったカードは全部廃棄するのだ。

「今回ばかりはカットに参加させてもらおう」

「…ああ」

 シンはジョーカーを抜かず、広告だけを抜いてヒンズー・シャッフルを何度かした後、ディール・シャッフルを始めた。

 ジョーがそのたどたどしい手つきを睨んでいる。

「さっきのデッキはこれだが…箱に(まと)めておいた。キミが持っていたまえ」

「いいのかよ」

「構わん。ただ、イカサマが発覚すればその場で勝負ありだ。このデッキとはバックプリントも違うんで混ぜればすぐに分かるがね」

 その程度は当然だろう。

 シャッフルを睨むのも当然で、手品師などはいかにも綺麗に切っている様に見えて、何度か繰り返すことで全く同じ配置に戻す小技を持っている。

「リフルもやってくれ」

「分かった」

 リフル・シャッフルとはよくマジシャンがやっている両手でカードを逸らせて弾き、互い違いにするシャッフルだ。

 流石にこれを3回も繰り返すとよく混ざるし、ディール・シャッフルならどうにか目で追えるカードの行方も追うことが不可能だ。

 切り終わったデッキをテーブルの真ん中に置く。

「カットをどうぞ」

「では」

 真ん中あたりで分け、下の塊を上に置くジョー。

「ではキミからカードの色を宣言したまえ」



第二十節


「ポーカーチャンプに敬意を表して、ノワールだ」

「…なら私は情熱の、ルージュを取ろう」

 卓上に緊張感が走る。

「どちらのプレイヤーがめくっても同じだが、どうする?」

「その場で決めよう」

「そのココロは?」

 カウボーイハットをいじるシン。

「オタクにゃあ適わんが、ギャンブラーの心意気は少しは分かる。自分の気合の「引き」を信じたいだろ?」

 苦笑するジョー。

「じゃあ、オレから引いていいな」

「どうぞ」

 一枚目だというのに緊張する。

 勝てば…1,000万ドル(約12億円)だって!?

 …そんな大金、想像したことも無い。

 てか、国内に持ち込めるのかそれ?税金ってどうやって納めるんだっけ?

 要らんことばかり考えつつ、めくった!

「…ハートの…エースだな」

 スートも数字も関係ない。この場合は「ルージュ」になる。つまり、ジョーの攻撃ターンだ。

「大きなハートマークか…幸先がいいな。手を出すんだ」

「…ああ」

 テーブルの上に手を置く。

 直接接触…ジョーの能力は基本型か。

 大きな手がシンの手の甲を覆った。余り体温は感じない。

 次の瞬間だった!

「うっ!」

 足首…足首に違和感を感じる…小さく…なって…。

 そうだった。下からやってくって話だったな。

 メタモルファイト初体験ではないが、こんな妙な変身させられ方はしたことが無い。全く勝手がわからない。

「ぐあ…ああっ!」

 スニーカーが一気に硬くなり、小さくしぼんだ足首から先を細く包み込んだ。

 それだけではない。

 (かかと)に猛烈な違和感を感じたと思うと、床下から突き上げてくるのだ。

「うわわっ!」

 そこでやっとこの勢いを止めることを思いついて意識するシン。

 …やっと変化が止まった。

「まずは第一波…ってところだ」

「…見ていいよな」

「もちろんですレディ」

 何がレディだ!足首から先が女になったってだけだろうが。

「ああっ!」

 そこには想像を超えるものがあった。



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