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ジョー・キングの場合 07


第十七節


「ならどうする?降りるか」

「降りはせんが…せめて人目に触れないところに行こう」

「それではスリルが半減だ」

「お前のためでもあるんだ!オレの能力知ってるのか!?」

「言うな!」

 人差し指を口の前に立てるジョー。

「始める前に知ってしまえば興味も興奮も半減だ」

「…本気か?」

「当然だ」

「あくまで降りると言ったら?」

「悪いが、無事にベガスを出るのは難しいだろうな」

「…どんなマフィアの銀玉鉄砲取り揃えてるか知らんが、こちとらメタモルファイターだぞ?」

「それは相手の組織にメタモルファイターが一人もいないなら脅し文句として十分だろうが…そうじゃないのは分かるな?」

「…ちくしょう」

 肩から力が抜けるシン。

「何を落ち込んでる。こんなビッグな試合は滅多に体験できんぞ」

「…改めて確認させてくれ。進行方法も変身指定も分かった。結局報酬ってなんだっけ?」

「…私が知ってるベガスの裏情報を教えよう」

「ギャンブル必勝法とか?」

「ある意味もっと価値あることだ」

「ハイリターンはまあそれでいいとして、ハイリスクの方は?」

「決まってる。無事に試合を終わらせられれば男に戻れるだろ?」

「解除条件付きかよ」

 解除条件とは、要するに負けた側が戻るためには双方が合意した条件をクリアしなくてはならなくしたりして、疑似的なペナルティとして戻りにくくする取り決めである。

「で?解除条件は?」

「知らずに始めた方がスリルがあっていいだろ」

「一応聞くが、仮にあんたが負ければ、あんたの方も同様のペナルティを喰らう可能性があるって考えていいんだよな」

「当たり前だ。それが担保されていなくては勝負する意味など無い」

 あくまでもリスクを抱き合せようってのか…根っからのギャンブラー…いや、ギャンブル依存症だ。

「わーったよ」

「よし、決まりだ」

「せめて勝ったなら現金くらい欲しいぜ」

「現金?幾ら欲しい」

「幾らって…そりゃ多いほどいいさ」

「…今動かせる金は…この瞬間ってことになると1,000万ドル(約12億円)しかないが…それでいいか?」

「オレってば耳がおかしくなったかな」



第十八節


「1,000万ドルって聞こえたが」

「そう言った」

「…いや、おかしいだろ。それ、お前が出すのか?ポケットマネーで」

「違う違う。言ってみれば決裁権がある金ってことで私のもんじゃない」

「驚かすな」

「とりあえずファイトの意欲はわいて来たかな?」

「どっちにしても選択の余地は無いんだろ?」

「そういうことだ」

「いいだろう」

 改めて座り直すシン。

 カウボーイハットは被ったままだ。

 周囲を見渡してみても、ポーカーチャンプのジョーがいるのにこのテーブルはまるで注目されていない。

 フードコートみたいなところにあるテーブルだってのにカードをいじり始めても誰も問題視していない。

 この辺を仕切ってる組織に顔が効くジョーのお蔭ってことかもしれん。何しろ海外ドラマを見る限り、ベガスってのは監視カメラだらけだ。

 胴元に一ドルも入らない勝負始められて黙認してるってことはそういう裏事情ありと考えるしかない。

「最後に、当然の確認だ」

「何だよ」

「相手の能力を喰らう際、どれくらいガマン出来るかどうかの勝負だと言ったな」

「ああ」

「だが、完全に100%跳ね返すのは無しだ」

「何だって?」

「カードめくりの運勝負に負けたからには相手の能力を必ず一部は食らうこと。見た目に全く変化が無い場合反則と見做して即負けとする」

「…!?」

「当たり前だろ。もしかして完全に耐えきり続けて相手が折れるのを待とうとしてたのか?」

「いや…その…」

「それでは折角勝負が続いても全く見た目が変わらんことになる。この勝負はお互いにじわじわと変えられて行くのがスリリングなんだろうが。それに…」

「それに?」

「そうやって完全に我慢を続けてると、ある瞬間にいきなり全部変わっちまうぞ」

 そうなのだ。所謂(いわゆる)「閾値を超える」と言う奴で、意識集中が上手いファイタ―同士だと稀に起こる現象だ。

「…分かった。確かにオタクの言う通りだ。食らったからには少しでも見た目が変化するようにしよう」

「結構」

「分かってると思うが、あんただって同じ条件だぞ」

「当然だ」

「では開始だ。デッキをシャッフルしたまえ」


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