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皇法子の場合 08


第十五節


「何事です?」

「ま、あんたがたの勧誘の他にもう一つお仕事があったってところかな」


 見ると、坊主狩りに筋肉質で目が泳いでいる男が暴れている。


「この店じゃゴキブリ入りのケーキ食わすのかあああぁ!?」


 ドン引きしている群尾たち。


「ゴキブリ入りのケーキって…」

「せめてラーメン屋でやりなさいよね」

「のりこ…行っていいんでしょ?」


 腰を浮かしかけている彩香。何だかいい匂いがする。


「ええよろしく。最後まで行っていいから」


 すめらぎに目で確認する群尾。瑛子は現場を背中越しに睨むのみだ。


「あーゲストは座ってて」

「しかし…」

「こっちは監視してた関係上あんたがたの能力と戦闘力は見せてもらってる。今度はこっちが自己紹介がてらご覧に入れるわ」


 両手を身体の前に揃え、苗字の字面イメージ通り天使の様な笑顔を見せつつ歩み寄って行く。


「あの~…どうかしましたか?」


 高校生のアルバイトらしいウェイトレスさんが怖くて近づけないところにスタスタ近寄って行くものだから店中が目を剥いている。

 平常心なのはすめらぎたちのテーブルに残された男女3人だけだ。


「…あの人って監視対象だったんですか?」

「うん。この店には因縁つけてお金をせしめる目的で来たの。家に帰れば籍を入れずに同棲してる顔中あざだらけの彼女と障害寸前の子供がいるわ」

「…そうなんですか?」

「うんそう。だから成敗します」


第十六節


「ああ?お前この店のもんか!?」

「いえ違います。どうかなさいましたか?」

「ケーキ食ったらゴキブリが出てきたんだよ!」

「そうですかー。それは大変でしたね~」


 字面を見るとバカにしているみたいだが、おっとり天然お嬢さんがゆっくりゆっくり喋っている感じである。


「うるせええ!」

「おっと」


 唸りをあげるパンチが目の前で空を切る。避けなければまともに食らっていただろう。

 体重こそそれほどありそうにないが、背が高くたくましいこのパンチをか弱い女性にモロにブチ当てることに何の良心の呵責も感じていないとしか思えない。


「まあまあ落ち着いて」


 言い終わらない内に男は彩香の髪の毛を掴み、そして緩やかな服の胸倉を掴んで釣り上げた。


「きゃあっ!」


 これはウェイトレスさんである。

 一瞬の間があった後、何故か男の方が空中で一回転していた。

 テーブルも椅子も巻き込まない様に地面にモロに腰から背中を打ちつける。


「いてええええーっ!!」


 いつの間にか手首の関節が決まっている。投げてもいるが、半ば以上は被害者が自ら飛んで痛みから逃れようとしている形だ。これは合気道だろう。



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