皇法子の場合 06
第十一節
「そうそう」
「でも、許可の無い盗撮映像は裁判で使えませんよね」
「繰り返しになるけど、裁判なんかする気は無いの。我々の組織が事実を確認出来れば十分」
「レイプ被害者にもう一度レイプされろってのかよ」
「…そうね。あたしたちは常に遅れてしか動けない。しかし、それでも救われる人が大勢いるのも確かなことでね」
「そうなんでしょうね。きっと」
「お分かり頂けたかしら?」
「仮にあなた方からとある人物がたちの悪いレイプ常習者だと聞かされたとしますね」
「ええ」
「ボクたちがそれを確信できる根拠は?」
「…信用して頂けないかしら」
「出来ませんね」
しばし沈黙。
「仮に証拠映像その他を見せてもらったとしても同じです。それが作られたものなのかどうかを確認する術は無い」
「ま…確かにそうかもね」
「もっと大きな問題があります」
「何かしら」
「仮に…すめらぎさん…のおっしゃることが事実で、この世にそんな組織が実在したとしてですよ?」
「はい」
「その組織には公的な裏付けがありません」
「そうね」
「それでいてやっているのは『実力行使』です。暴力を伴う制裁だ。場合によっては相手を殺めることだってあるかもしれない」
「あやめ…なんだって?」
「殺すってこと」
「…あんだよそれは」
「論理的帰結さ。日本に司法取引制度は無いけど、裁判の不備やらコネで犯罪者が罪を免れる例は嫌と言うほどある。それが許せない連続殺人犯だったら?そして有力政治家の子供だったために罪を免れていたとしたら?」
「殺せ」
「だからそれをやってるかもしれないってこと」
皇は少し考え込んだ。
「…だとしたらどうする?」
「つまり、必要とあらば法的根拠なく人を殺しているってことになる」
「…けどさあ。そりゃ『正義』ってことじゃんよ」
「確かに証拠が固まっているならそうだろうね。でも人間が行うことだ。例えばその組織の関係者が制裁を受けるべき許されざる人間だったとして、他の全く関係ない人間と同じように「殺す」ことに踏み切れるのかどうか…ということがまず一点」
「あら、質問が多いわね」
白い女性がまぜっかえした。
第十二節
「もう一つ。人を殺すのに法的根拠が必要なく、最終的には組織の独断であるというのならば、我々の…特にメタモルファイターでも何でもないボクの身の安全は一体誰が保証してくれるんでしょうか?ってことが第二点。これに対して納得の行く説明を聞かせてください」
「良く分かんないんだけど?」
「それこそ麻薬組織だのマフィアと一緒だよ。非合法組織ってことは、構成員の人権に配慮しているとは思えない」
「いいわ。答えてあげる」
空のティーカップをお煽る皇。
「それこそ仮にあなた…群尾くんが我が組織の一員として活躍してくれたとするわね」
「…」
「ところが、ある日群尾くんが組織の権力を笠に掛けて許されざる犯罪で無実の一般人を無残に殺す殺人鬼になっちゃたとします」
「…ボクでもいいんですけど、皇さんの身内で例え話をしていただけます?」
「天涯孤独なんだけど」
「小さいころから一人の知り合いもいないってことは無いでしょう。恋人とか」
無言で群尾を見る皇。今度の沈黙は長かった。
「…いいわ。分かった。じゃああたしの恋人がそう言う風になったとします」
「はい」
「必要なのは証拠固め。とにかく徹底的に証拠を固めて、冤罪は起こしません」
「そこは他の人でも同じでしょ?」
「結論から言うと殺さないわ」
「のりこ…」これは白い女性。
「依怙贔屓するわよ。当たり前じゃない。あたしたち警察じゃないんだから」
「はぁ!?それじゃ身内に甘い警察と同じじゃねえか!」
瑛子が怒鳴ると同時に群尾が立ちあがった。
「よろしくお願いいたします!」
身体を45度以上倒してお辞儀をする。
「…たぁくん…何やってんの!」
「この人たちは信用できる」




