皇法子の場合 05
第九節
「ま、能書きはいいわ。要するにあたしたちは法で罰されない人間を罰し、罰されるべきでない人間を助けるのが仕事よ」
「けっ!」
唾こそ吐かないが、瑛子が吐き捨てた。
「ご立派な妄想だこと!そんなこと出来る訳ねーだろが。現にあたしの友達はジャンキーにぶち込まれて薬漬けにされかけたんだけど?あんたがた助けに来てくれたの?」
じっと瑛子を観るすめらぎ。
「…警察の記録を見たわ。お友達はお気の毒だったわね」
「救われたよ。今度レイプ被害者全員に言って回ってくれや」
「瑛子さん!」
「…ごもっともな意見ね。あたしたちなんて全国に何十万人もいる警察組織に比べれば吹けば飛ぶような組織よ。それは認めるわ。何もかも出来るってわけじゃない」
「そこはボクも聞きたいです。手がける事件の基準って何なんです?」
「考えてみて」
そう言われたので考えてみたが…分からない。
「分かりません」
「…偶然あたしたちが知ることが出来た人が救われるの」
「…今、何と?」
「あたしたちは仮面ライダーでもウルトラマンでもスペクトルマンでも地底人ハヤブサでもないの。この世のすべての理不尽な犯罪被害者を救えるわけじゃない。でも、偶然手を差し伸べられるポジションにいた人は救いたい…それだけなの」
「じゃあ、運悪く遠隔地に住んでいた人は?」
「…ご縁が無かったってことになるわね」
「偉いこって」
瑛子が吐き捨てる。
「救うなら全員救わないと根本的解決にならないのはその通りだと思う。偶然目の前を通りかかった被害者を助けて、目の届かないところで被害に遭ってる九十九人を見捨ててるのにいい気になるのは偽善だとも思うわ。でもね、だからといって目の前の一人を見殺しにしていいとは思わない」
考えている群尾。
「…おっしゃることは分かります。分かりますけど…差支えなかったら具体的なお話を聞かせてもらいたいんですが」
「いいわ。協力者だもんね」
第十節
「まずあたしたちが第一に考えるのは事実の有無」
「事実」
「証拠とでもいおうかね。目の前に青あざ付けた美女がいたとして、「カレシに殴られた」と訴えてたとします」
「はい」
「申し訳ないんだけど、その話を聞いて速攻でカレシのところにすっ飛んで行ってボコボコにしたりはしません」
「…疑っていると」
「ええそう。あたしたちには存在のための法的根拠が無いからね。警察は捜査の途中で必要なら暴力だって使える。お医者さんが患者さんのお腹を裂いても暴行罪で逮捕されないのと一緒。でもあたしたちにはそういうものがありません。例え本当に犯罪者をボコボコにしてもそれは私的制裁です。違法行為」
「でも、正当防衛とか緊急避難と言う手もありますよね。それに逮捕権は警察だけが持つ訳じゃない」
「…もしかしてミステリファンかしら」
「まあ」
「その通り。私人逮捕ね。ただ、そこで警察に引き渡しちゃうと後は司法のお仕事になります。これが期待出来ないんだわ」
「あんでだよ」
「…刑事ドラマだと崖の上で泣きながら「私がやりました」って言えば万事解決なんだろうけど、実際はその後「検察」が裁判で有罪を確定してくれないと駄目なワケ」
「だから何だよ」
「取り調べの際に「やってません」って言ってもパー。物的証拠が無くてもパー。捜査段階で違法行為があってもパー。…悪人に罰を与えるのってそんなに簡単じゃないの」
「痴漢は簡単に逮捕するのにな」
「そうね。話を戻すと、あたしたちは“徹底的”本当に“徹底的”に証拠固めをします。やるのは私的制裁なんだから万が一にも人違いがあっちゃ駄目なんでね」
「…その言い方だと国家権力は別に人違いがあっても構わないと言う風に聞こえますが」
「まあ、そうとも言える」
「そんな!」
「これは考え方だね。完璧なウソ発見器がこの世にない以上、『10人の無実の人を逮捕しても1人の悪人を逃がさない』のか『10人の犯人を逃しても、1人の無実の人を逮捕しない』のかどちらを取るのか」
「それは…」
「あたしたちは警察を通さない武力行使機関です。ということは、悪意を持って誰かをハメようと使われたら大変なことになる。…そこは分かるわね」
ごくりと唾を飲む群尾。
「…ええ」
「だから証拠固め。いじめが最終段階に突入しているとしても可能なら盗聴器に盗撮機満載にした学校にもう一度行ってもらって『事実を確定』します」
「…映像で証拠を残すと」




