倉秋健人の場合 50
第九十九節
「あのー…鴫野さん?」
「はい…」
「聞き間違いじゃないですよね?」
「はい」
もじもじ。
「脈絡がサッパリわからないんですが」
「駄目ですか?」
「いや、駄目って言われても…」
斎賀が困っている。
「理由聞いてみよ。理由」これは真琴。
何しろ真っ赤になって俯いてしまっていて話の大筋を要約するのに難産したのだが、敢えて繋ぎ合わせて総合すると「斎賀の不思議の国のアリス状態」の余りの可愛らしさにノックアウトされてしまった…のだそうだ。
「…ボクにも選択の余地はあると思うんですが」
もっともなことを言う斎賀。
「そりゃね」
「…まず、男として“女にされて女装させられた状態が可愛いから付き合ってほしい”って言われても困ります」
他の人間がうんうんと頷いた。
「しかも鴫野さん女性でしょ?あなたがもしも男に変身させられた状態が格好いいから付き合ってくれって女性に言われたら付き合うんですか?」
「…」
真っ赤になって俯いて何も言えていない。少なくとも肯定サインではなさそうだ。
「そんな理由で付き合ってくれって言われても、お付き合いしてる日常生活でしょっちゅう痴話げんかでアリスにさせられちゃうじゃないですか」
「そんな!…ことは…」
「ありません」の言葉が続かない。そのつもりだったのだろう。
「一応お伺いしますけど、あなたそんな状態でオモチャに出来るメタモルファイターの男と付き合って理性が保てるんですか?お互い合意してないと変身なんて受け入れられませんよ」
「…努力します…いえ!」
突然大きな声を出す鴫野。
第百節
「その…アリスがどうとかは…オマケみたいなもので…斎賀…さんが格好いいからです…」
本当に二十三の社会人なんだろうか。まるで恋する女子中学生だ。
「本当に分かってます?ボクはあなたの着せ替え人形じゃないんですよ?仮にお付き合いしたとしても着たく無きゃ着ませんからね。それでも我慢できるんですか?」
「はい」
しばし沈黙。
「よろしくお願いいたします」
橋場、真琴、綾小路がずっこけた。
「あ、おいおい!斎賀ぁ!」
「…何か?」
「お前こんなのと付き合うってのかぁ!?」
「お互い合意の上です。何か問題が?」
「…まあ、本人がいいってんならいいんじゃないの」
ふ…と意識を失う様にその場に鴫野が倒れ込んだ。
~数分後~
本人曰く、「余りの嬉しさに」気絶状態になってしまったんだそうだ。何なんだこいつは。
二十三歳の成人女性と、十七歳の男子高校生のカップルは法律やら条令やら公序良俗的に問題があるのかどうか細かいことは分からんが、まあ本人同士が納得してるんならいいんだろう。
そこから先はとんとん拍子だった。
信号機みたいに顔色をくるくる変えていた小柄な新米社会人たる鴫野は、ついさっき上司の男二人が永遠に放逐されたショックを忘れたかのごとくテキパキと事務処理を済ませた。
これでメタモルカフェはお互いの能力にのみ依存していた体制から飛躍的に多彩な衣装を準備することが出来る様になったのだった。
まあ、問題(?)があるとしたら、その新米営業OLのそばに、寄り添うように可愛らしい不思議の国のアリス…黒髪の…が張り付いていたことくらいだろう。
「…しっかしお前本当に似合うよな」
「ありがとうございます」
その城を傾かせそうなニッコリ笑顔を止めろ。
「まあ、折角だから」
ぴらっと軽くスカートの裾を持ち上げるアリス(斎賀)。元々かなり広がったスカートではあるが。
これで男子高校生の女装ってことになると痛々しいのだが、メタモル能力は肉体まで完全に性転換させるので、コスプレが板についた女子高生ってところなのだなあ。
折に触れて女子中学生みたいなOLがたまにちらちらとアリスの方を見ては胸をドキドキさせて視線をそらすイチャラブぶりを見せつける。家でやれ。




