倉秋健人の場合 49
第九十七節
その場にいた全員…鴫野を除く…の目が点になった。いや耳か。
「…今、何と?」
「あの…契約…衣装レンタルの」
呆れた。この期に及んで営業の続きをやろうとしている。
「先ほど申し上げた通りお断りします」
これは綾小路。
「いやあの…それはあの二人のです」
内気だと思っていたら余りにも大胆な提言に固まった。
「…ひょっとして、あのろくでもない二人がいなくなったんだから晴れて契約してくれって言ってる訳?」
こくりと頷く。年甲斐も無く可愛い。というか23歳のOLというよりは女子中学生みたいだ。
目の前で男が女にされたばかりか、『裸よりも恥ずかしい』バニーガール姿で放逐されたばかりなのに、平然とそれを受け流して営業トークの続きをしている。
「…これは綾小路さんの裁量だと思いますけど?」
橋場、真琴、斎賀の視線が綾小路に集まった。
「…確かに、見ていた限りは鴫野さんにはこれと言った落ち度はありませんでしたけど…どうしてです?」
「…折角なので…」
てゆーかさっきからなにをそんなに恥ずかしそうにもじもじしているのか。
「細かい内容についてはともかく、まずはお試しから…いかがですか?」
本当に続きをやってる…なんという大胆さだ。
「お分かりでしょうが、次に何かあったらこちらの方が違約金を頂きますよ?」
「はい!勿論です。今日のことは重ね重ねお詫び申し上げます!」
深くお辞儀をする。OLのスーツから普段着みたいなスカート姿になってしまっているが、それは不可抗力と言うものだろう。
「あの…」
なんだか顔が赤くなりすぎて湯気が上がりそうだ。
第九十八節
「でも…一つだけ条件が…」
「条件って」
真琴が苦笑した。
それはそうだ。平身低頭して謝るのは鴫野サイドの話であって、条件を付ける交渉が出来る立場ではない。
「聞きましょう。確かに今日のことは彼女のせいじゃない」
「だってその…」
俯いてぶつぶつ言っていることは分かるんだが何を言ってるのか分からない。
「大きな声で言って!」
真琴が促した次の瞬間だった。
「好きです!付き合って下さい!」
しばし沈黙。
鴫野は両手を顔に当てて恥ずかしがっている。
「「「「…は?」」」」
やっと顔を上げる鴫野。
「…ボクですか?」
視線に気づいたのは斎賀だった。
ゆで上がった顔で頷く鴫野。
「…斎賀と契約は関係ないよな」
やっと口をはさめた橋場。そうなのだ、斎賀はメタモルカフェを利用する一ユーザーでしかない。
「何か話が異次元にかっ飛んでてサッパリ分からんのですけど…」
そりゃそうだ。




