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倉秋健人の場合 46

第九十一節


「…と、思ったけどここまででいいわ。勘弁して上げる」


 露骨に安堵の表情を漏らす二人組の悪徳商人女子高生。


「綾小路さん、勝者が認めるからギブアップ成立はありでしょ?」

「…鬼頭さんがよろしければ」

「じゃあ成立だね。その代り条件があるよ」


 周囲を見渡す真琴。

 そこには晴れて男子高校生の制服姿に戻った斎賀と、ありものの私服みたいなゆるいスカートに着替えた鴫野がいる。


「あたしは嘘つきが大嫌いでね。しかもそれでいたいけなメタモルファイター騙して人身売買同然にお金儲けだなんてはらわたが煮えくり返りそうだわ」


 楽しそうな口調なんだが内容は穏やかではない。


「繰り返すけど今回の勝負はチャラ!確かにOLさんの服も靴も2組ほど破損して使い物にならなくなってるけど全部そちらのだまし討ちってことで弁償も何も無し!」

「…」


 歯ぎしりをせんばかりの表情だ。ここまで一方的に負けた経験が無いのだろう。

 それもこれも計算を越えて真琴が強すぎたためだ。

 確かに真琴がいなかったら悲惨なことになっていた。

 三人掛かりで一応勝てたことは勝てたが、真琴のアドバイスがあったからだ。たびたび仲裁に入ってもらえていなかったらきっとボロ負けで、連中にそそのかされて一時的とはいえ毎日のように女に性転換されては女装させられてキャバクラでバイトさせられていたに違いない。

 しかも連中がそれだけで済ませる訳が無い。

 きっとセクハラしまくりだろう。

 まだはっきりは分からないが、もしも強引な性交渉に及べば「戻れなくなる」危険性すらあったのだ。


「アキラっちの怪我の賠償金も取りたいけど、そこは勘弁して上げる。ということで、今日を最後にこの店には一切出入り禁止!あたしたちへの報復の闇討ちとかも無し!もしもそれを破ったら…どうなるか分かってるね?」

「…」

「返事は!?頷くだけでもいいよ」


 イヤイヤながら首を上下させる毒々しいほど黒白赤の原色がくっきりするセーラー服姿の女子高生たち。

 漆黒の髪が揺れ、シャンプーの様ないい匂いがする。


「じゃあギブアップ受け入れ。戻っていいよ」



第九十二節


 (たちま)ちの内に元に戻るサラリーマンたち。

 特に栗原の方は、メタモルファイターではあるが自らが女になることに全く興味が無いらしく、男の身体を取り戻したことに心の底からほっとしていた。


「ボロボロになってるそこのスーツ2組もってさっさと出てって」


 くるりときびすを返す真琴。


「綾小路さん、今日はこれでいいかな。場代もあの人たち負担でいいでしょ?」

「…ええ」

「危ない!」


 栗原と倉秋が同時に何かを投げつけてきた。

 何に使うのかは分からないが、砲丸投げの砲丸みたいにずっしりと重いもので、真琴の背中の真ん中あたりを直撃した。


「真琴!」


 前方に吹っ飛ばされる長身で細身のズボン姿の女子高生。


 同時に投げつけられた倉秋の一撃が綾小路の顔面を襲う。

 モロに直撃こそ避けられた様だが、一部をかすめたのかダメージを負って倒れ込んでしまう。


「テメエ!」


 全く迷いなくこちらに殴り掛かってくる栗原。

 橋場は先ほどの「目突き」攻撃が脳裏をよぎった。

 恐らくまともに振り払ってもそれを前提とした第二波が準備しているはずだ。まともに食らって目を潰されると失明の危険もある。


 咄嗟に距離を取ろうとバックステップする。これが現状では最善の策だ。

 幸い、この不意打ちは計算されていなかったらしくそこまでのトラップは仕掛けてない。


 しかし、第二破どころか最初の一撃も来なかった。


「…!?」


 その場で立ち尽くしている倉秋と栗原。


「真琴!」


 クズ二人が棒立ちになってるなら心配なのは真琴だ。メタモルファイターの俊敏さを利用して回り込むように駆け込む橋場。


「大丈夫!大丈夫だよ」


 すっくと起き上がる真琴。



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