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倉秋健人の場合 44


第八十七節


「綾小路さん、立会よろしく」

「…いいんですか?」

「ええ」


 こほん、と軽く咳払いをする綾小路。


「では、条件を確認します」

「こちらが勝ったら衣装の弁償だ何だって話は全部チャラ。そっちが勝ったら弁償の話は受けてやるわ」

「…いいだろう」

「決着方式は」

「…折角だ。ガチでやろうぜ」

「それは相手の心を折るまで…場合によっては“最後まで”やるってこと?」

「そうさ。条件を付けるとしたら途中でのギブアップは一切認めないってことだけだ」

「…下世話な話で恐縮なんだけど、やる時はゴム付けてもらえるのかな?」

「ひゃーっはっはっはー!もう覚悟出来てんのかよ!…いいぜぇ!考えといてやらあ」

「質問いいか」

「あ?何だよ」


 橋場である。


「お前、メタモルファイトに勝った相手とやったことあんのか?」


 これは敢えての質問だ。ぶっちゃけ真琴と組んでの2対1となれば負けるビジョンの方が持てない。となるとこいつの相手をしなくてはならん?のかどうか。


「へっ!やりもしねえメタモルファイトがありえんのかよ」


 …何て奴だ。こういうタイプとは初めて会った。普通の(?)人間にとっては負けると一時的とはいえ女にされ、女装させられるというだけでかなりの恐怖だ。

 だからこそそれ自体をペナルティとして大上段に掲げて戦ってきた。


 とはいえ、一般人と違ってメタモルファイターは試合が終われば元に戻れる。「負ければ残りの一生を女として生きなくてはいけない!」…という恐怖は無い。

 なのでどうしてもある程度お気楽にならざるを得なかった。


 だが、「負ければやられる」ってことになると、これは恐ろしい。

 仮に戻れるとはいえ「絶対に負けられない」戦いだ。

 なるほどさっき武林に勝ってさっさと「続き…要はセクハラやそれ以上…をやろう」としたのも頷ける。

 倉秋にしても、当たり前みたいに橋場の唇を奪いに来た。


 …もしかして、最初からおれら3人組はあちらの男二人組には「獲物」に見えていたのかも知れない。

 ぶるりと震えがくる。


「もう一つだけ」

「いいから早くしろや!」

「やった相手のその後はどうなった」

「…」


 薄く吊り上った目で橋場を睨みつけるだけで答えない栗原。


「味わってみるんだな」



第八十八節


 何やら紙を栗原に手渡ししてくる倉秋。


「一応確認のためチームメンバーを書いといた」

「あっそ」

「では始めます。2対1マッチ!始め!」


 橋場が腰を落とす。

 真琴は相変わらず胸をそらして突っ立っているだけだ。ポケットに手を入れていないだけマシの普段通りのスタイルである。


「おい兄ちゃん!邪魔だからどけよ」


 突然栗原が言った。

 無視して警戒を解かない。


 すると先ほどの紙を広げて橋場と真琴に見せつけてくる。


「2対1っつったろ?こっちのチームが2人で、そっちが1人だよ」

「はあぁ!?」


 血相を変える橋場。


「バカな!そんなこと一言も」

「こっちだってどっちのチームが2人かなんて一言も言ってねえよ!勝手に思い込んでんじゃねえ!」


 すっかりチンピラ状態だ。


「そのことはしっかりここに書いてある。確認もロクにしないお前らの落ち度だ」


 …またやられた。こいつら…。


「ひでちゃん…仕方が無いよ」

「だってお前…」


 悔しいが、目の前にいるノッポ男、栗原歩都は今までに見た中では最も強いグループに属する使い手だ。

 能力そのものこそ接触型ではあるが、鍛え抜かれた拳法使いとしての腕前はメタモルファイトに縦横無尽かつ変幻自在の強さを与えている。

 如何いかに強いとはいえ、真琴の戦い方は完全に我流だ。

 天性の強さで、ガチで戦ってどうにか互角というところだろう。だからこそ2対1なら勝機も見えるとして受けたのだ。


 それが…2対1だと?



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