倉秋健人の場合 43
第八十五節
「そのお得意さんたちって、オタクの会社はご存知?」
「…?何のことでしょう」
「普通の会社がメタモルファイト黙認してるなんてとても思えないし…あんたがた自身が会社に内緒でお小遣い稼ぎしてんじゃないよね?」
「これはヒドい侮辱ですな」
「どういうことだよ」
「キャバクラさんと個人的に裏契約かわして借金背負わせた女送り込んで女のギャラをピンハネしてたら…どうよ」
「何だって!?」
「馬鹿馬鹿しい!何を言ってるんだ」
周囲の空気が冷たい。
「金を払うのか払わんのか!はっきりしろ」
「払わんよ」
真琴が即答した。
「あんたがた最初から騙す気満々じゃん。アキラっちなんか怪我させられてるんだから。損害賠償もらってもいいくらいだわ。とりあえずチャラで勘弁してやるわ!」
「チャラだぁ!?ふざけるな!あの怪我どう見たって治療費10万円も掛からんぞ!釣り合う訳が無い!」
「お前こそふざけんな!そこの姉ちゃんのスーツが4万円だと!こんなんでも女だから少しは知ってら!あんなスーツ探せば5千円で売ってるじゃねえか!」
ビリビリと空気が振動している。
「そこのノッポの兄ちゃんがケンちゃんに目突きしようとしたことやらスカートめくったことは忘れてやる。男物の制服脱いでさっさと失せろ」
努めて平静を装って…でもないな。元々真琴はそれほど激情家ではない。低音を響かせながら宣言した。
「仕方がねえな…コソ泥のクソガキにゃあ身体で覚えてもらおうか」
ゴキゴキと指を鳴らしている栗原。
「それはメタモルファイトの申し込みってこと?」
「お前が逃げないならな」
この軽薄男の栗原は口は悪いし態度も最悪、約束もルールも守らない上に男同士で戦って片方だけが女になって決着した後に、勝者が敗者をセクハラする…という一種の「タブー」を平気で乗り越えてくる。
「女相手にメタモルファイトやっても面白くもなんともねえがよ」
第八十六節
「それは相手が弱すぎるから?」
「ちげーよ。勝つのは決まってる。女になった男がうろたえたり悲鳴を上げたりしてるのをあんなことやこんなことすんのが楽しいんだろうが」
サディストだこいつ。分かってたが。
「ちょっと荷が重いわね…2対1ならどう?」
「あんだと?」
「幾らなんでもあんたとあたしでタイマンなんて実力が違い過ぎるでしょうが。せめてハンディ欲しいわ」
栗原に倉秋がなにやらひそひそ耳打ちしている。
「分かった。2対1受けよう」
大した自信だ。




