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倉秋健人の場合 41


第八十一節


 負けずに立ち上がると、凄い勢いでトレーンが引っ込んでいく。

 恐らく橋場が能力解除したのだろう。

 どうしてすぐに自分も戻らなかったかだが…色んなことが起こりすぎて咄嗟に判断出来なかったから…ということにしておこう。


「ちっ!面白くねえなあ」


 バタン!と扉が閉じられる。

 恐らくこれから中でOLの制服を脱ぐことになるのだろう。…代わりに何を着るのか知らんが。


「…この場にいるのはウチのチームじゃあたしだけみたいだから交渉継続するね」

「あなたそちらのチームメンバーじゃないでしょ」

「最初に言わなかったかな?オブザーバーだって」

「認められませんな」

「戦うのは3人だけど別にチームが何人って話はしてないじゃん」

「そうでしたかねえ」


 男に戻れた安堵感からか倉秋のニヤニヤ顔が戻ってきている。


「綾小路さん、あたしが交渉継続していい?」

「とりあえず私の裁定から先に。それと、鴫野さん」

「…はい」

「あなたも更衣室へ。斎賀さんが着るものがなくて困っているでしょう」

「ちょっと待った!」


 倉秋が制止する。


「まさかさっきの彼が着てたあのスーツをこの鴫野に返却するなんてことはおっしゃらないでしょうなあ」

「当然でしょ。鴫野さんもその制服を返してあげてください」

「こちらの男子制服についてはお返ししますよ。しかし、あのスーツはいけない」

「いけない?」

「見た感じかなりの程度破損してました。これは弁償していただかないと」

「…あなた方…」

「仮に破損していなかったとしても、成長期の男の子の汗だくの身体で来た服を嫁入り前の若い娘にそのまま返すだなんて非常識だと思いませんか?」

「それだったら、化粧やらなんやらついて女臭くなった制服も弁償して欲しいんですが?」


 これは真琴。

 ぷっと噴き出す倉秋。


「いやいやいや。同列に語ってくれますな。サイズ的にも問題ありませんから破損もしてませんし、それに…」

「それに?」

「若い男の子にとって23の女の着た自分の服なんてご褒美じゃないんですかぁ?」


 嫌な空気がカフェを満たす。



第八十二節


「先に申しあげますが、あなた方との契約は無しということで」

「…今、何とおっしゃいました?」

「再三の要請にもかかわらずの警告無視に非紳士的な振る舞い…許しがたい」

「とても大きなビジネスチャンスを逃されましたよ?」

「結構。元々メタモルファイトはメタモルファイトです。自前で衣装を生成できるのに既存の衣類に頼る必要はありません」


 堂々としている執事姿の綾小路。


「それに、下手に着替えると今日の様な事故が起こる可能性が高い。良く分かりました」

「よろしいんですか?後で後悔しますよ」

「とっくにしています」


 睨みあいになる倉秋・栗原と綾小路。


「あのー」

「失礼。早めに済ませます。スーツの弁償は認められません」

「ならどうしろと?この男装でこの鴫野に帰れと?それとも破損したスーツで電車に乗せますか?下着姿で?」


 段々口調が挑発的になってくる倉秋。


「…誰もそんなことは言ってないでしょう」

「いーいーまーしーたー」


 小学生みたいな煽りをする栗原。


「あなた方のレンタル衣装は『本物』であることが売りなんでしょ?」

「いかにも」

「だったら鴫野さんに提供すればいいでしょ?やすっぽいコスプレ衣装でないと断言するなら衣装の質については問題無いはずですよね?」


 一瞬詰まった様に感じられたが、すぐに反撃してくる。


「結構。ならば適当なスーツを見繕って鴫野に降ろします」

「そうですか」

「その費用はこちらのお店で負担していただくと言うことで」

「…なんですと?」

「ファイター本人が払わないというならば、場所を提供しているあなたに弁済の責任があるはずだ」

「…」

「あと…お忘れではないでしょうね。一戦目で破損してくれたスーツとハイヒール代の10万円のお支払いもまだなので…お願いしますよ」



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