倉秋健人の場合 33
第六十五節
「…気が付いたか?」
少年みたいなリアクションのカラードレスの二十代女…という光景を見せつけながらその女は言った。
その手には紅いものがある。
「…っ!?」
思わず自らの女体を見下ろしてしまう倉秋(女子高生)。
そこには「セーラー服」には付き物のあるものだけが無かった。
「このスカーフはもらったぜ」
全身真っ青なたたずまいに真紅のスカーフが鮮やかなコントラストを描いている。
そう、先ほどのどさくさに紛れて、真紅のスカーフだけが引き抜かれていたのである。
「良く分からんな。今更スカーフ一枚取ってどうする?そっちは4-0に追い込まれたのが分かってるのか?」
やっと余裕が出て来たらしい花嫁がドヤ顔になってきた。
「一応確認しとくぜ。服…衣装は身体として扱う…ってことでいいんだよな?」
「橋場さん!」
背後でブレザーの女子高生(斎賀)が飛び上がった。
「それは…」
状況を察して来たのか、青ざめる倉秋(セーラー服の女子高生。紅いスカーフだけなし)。
「衣装は身体の一部として扱い、仕切り直し後に接触すると一ポイントになる…んだったよな」
「そんなのありか!そのスカーフは…は、離れてるじゃないか!こっちの身体から!」
「このぞろっとしたスカートの端っこをさわっちゃポイントにしまくってたお前が言うか?この卑怯もんが!」
「認められん!無効だ!」
「どうです?ジャッジさん」
心なしか色気を帯びた流し目に見える。
「…衣装を身体の一部として扱うという取り決めは有効です。その衣装が身体に接続していないことに対する取り決めはありませんから…有効ですね」
「バカな!そんなのありか!そ、そうだ!1回タッチが決まったら相手から3メートル離れる取り決めがあったろうが!」
ちっちっち!と舌を鳴らす橋場。
「最初に決めたよな?衣装は身体の一部として扱って、接触はありだが、身体が離れてるかどうかの判定は相手の身体…胴体の距離で決めるってさ」
絶望の色が浮かぶ倉秋(セーラー服)。
「これでラウンドが再開すると同時にこっちは接触を実現できて、またり切り直しの繰り返しだ」
「そんな…」
「逆転だな。ギブアップでいいか?」
第六十六節
「こっちはスカーフ抜けた状態なんだぞ!仕切り直しさせろ!」
「インターバルごとに衣装を仕切り直す決めはありません。先ほど確認した通りです」
背後から声が飛ぶ。
「もう観念した方がいいですよ」
「うるせえ!自主的にそんな恰好した奴に言われたくねえよ!」
そんな恰好とは今の斎賀の制服姿のことを言っているのだろう。
確かに勝者側が敢えて女物に着替える義務はない。その意味では物好きだとは言える。
「セーラーの着心地如何ですか~?」
「テメエ!」
何という口の悪い女子高生だ。
「ギブアップ無いなら再開します」
「そんな」
「行きますよ!試合…開始!」
「ハイ!タッチ」
ブルーのドレス姿の橋場が手を挙げる。…腕は上がらないので肘から上を上方向に向ける形でタッチ成功を申告する。
「成立です。スコア4-1になります」
倉秋(セーラー服)はその場を一歩も動いていない。何しろ橋場は倉秋のスカーフをずっと握っているのである。再開と同時に「手で相手の手以外を触る」条件を自動的に満たすのだ。
「あいつ手袋してるぞ!無効だ!」
倉秋(セーラー服)がわめいた。
「流石にそれは認められません。確かに手袋はしていますが、「手」の条件は満たします」
「直接触ってねえだろうが!」
「そういう風に合意していたんならともかく、特に合意はしていません。皮膚が直接ふれなくても手袋の上からでも有効なタッチと認めます」
「そんな馬鹿な話があるかよ!」
こほん…と軽く咳払いする綾小路。
「あなたは自分の能力がゴージャスなスカートを持つカラードレスだと知っていて「タッチ勝負」に持ち込んだんでしょ?しかも「服装の一部を触ってもタッチは有効」とし、それでいて「仕切り直しの条件は身体の距離とする」ことまで持ちかけてる」
「ああそうだ」
「橋場さんがスカーフを持ったままタッチ勝負に持ち込むのは同じ基準で有効です」
「しかし!」




