ジョー・キングの場合 04
第十節
「そうさ。えげつない。だが、相手を圧倒的かつ一方的に支配下に置ける能力があったならば、本来の使い方だとは思わんか」
首をすくめるジェスチャーをするシン。
「…どう答えろと?」
「バグジー・シーゲルの頃からそういう伝統はあったのさ。決して表舞台には出ないがね」
「映画で見たよ。バグジー・シーゲル。確かにそういう場面はなかったな」
「色々な使い道がある。それこそ、ショーにだって応用できる」
「ショー?性転換ショーってか?」
「舞台の早変わりと同じだろ?大規模な特撮のマジックだと思えばよかろう。ここを何処だと思ってる?ラスベガスだぞ」
「ああ。ラスベガスのショーといえば浅草サンバカーニバルよりずっと有名だな」
「…アサクサとやらが良く分からんが、理解してくれて助かる」
「…確かに一瞬で美人アシスタントと入れ替わって見せるマジシャンなんぞよく見るが…もしかして…」
「その中の何人かはメタモル能力者かもな」
「でも、この能力は女を男には出来んだろ」
「モノの例えだ。それに…」
「それに何だよ」
「ここだけの話、余りウケんのだ」
「…何だって?」
「男をみるみる女に変身させて女装させ、それを犯す!…というのはいかにも興奮しそうだが、結構客層が限られる」
「…はあ」
「結局のところ、勝ちすぎた客の始末ってところさ」
「やっぱりか…」
どすん、と荷物を置くシン。
「話を聞いてくれるのか?」
「恐らくオタクの役にゃあ立てんよ。気ままな風来坊が性に合ってるんでね。ただ…」
「ただ?」
「あんたの話は面白い。折角ならもう少し聞かせてくれるか」
「…」
考えているジョー。
「…報酬が欲しいなら賭けるんだな」
第十一節
「…目つきが変わったな。勝負師の目になってるぜ」
「勝負師だからな」
「何を掛けろって?」
「要はゲームをしようって話だよ」
どっかと座って正面から見据えるシン。
「…いい年こいた大人の野郎二人、この大通りみてーなところで勝負しようってのか?」
「いかにも」
「…」
苦笑するシン。
「何がおかしい」
「あんたの考えてること、当ててやろうか」
「当ててみろ」
「あんたはスポンサーの看板背負って打つギャンブラーだ。といっても切った張っただののるかそるかだのといった命がけの勝負なんかじゃない。ミーハーなファンに追い回され、旦那衆を接待プレイでご機嫌取るのに飽き飽きしてる刺激ジャンキーなんだろ?どうだ」
睨み返したまま黙っているジョー。
「どうやらお見通しらしいな」
「オレは日本で生まれ育ったんでな。子供のころからゲームは人並みに嗜んだ方だ。オタクに追加で質問だ。ゲームそのものが好きなのか?それとも賭ける際のひりひりした緊張感…ギャンブルが好きなのかどっちだ」
「…」
かなり長く考え込んでいるジョー。
「そうやって突き詰めて考えると…どうやらギャンブルらしい」
「そうか…なら戦ってやる」
「戦う?」
「ああ。お望みならメタモルファイトでな」
周囲の喧騒の中、二人が囲むテーブルだけに嵐が吹き荒れた。
第十二節
「いいだろう」
「ただし!こちとらテーブルゲームに慣れているとは言えん。慎重にルールを確認した上でないと合意はせんからな」
「当然だ」
「シンプルに行こうぜ。…そうだな、適当にシャッフルしたデッキを上からめくってく勝負の続きと行くか」
「こちらは構わない」
「…大した自信だな。ポーカーやブラック・ジャックの方がいいんじゃないのか?」
「一応聞くがポーカーの経験は?」
「…それなりに」
「日本の流行は知らんが、こちらでポピュラーなのは7(セブン)・スタッド・ポーカーだ」
「…聞いたことはある」
「…その様子じゃ止めた方がよさそうだな」
「悪いね」
スタッド・ポーカーとは場に共通のカードをお互いの手札扱いとし、一枚ずつ追加で配りながら配る度に続けるか降りるかの選択をするポーカーである。
日本でポピュラーなポーカーは5枚の手札を一回だけ交換して手役を競う最も基本的な形だ。
この形式だと選択肢が狭く、役らしい役になることが滅多に無い。
7スタッド・ポーカーならば最大7枚のカードの内の最強の5枚の組み合わせで役を考えられるため、そもそも役が成立する可能性が高くなるうえ、公開されている情報が多い上に続けるか降りるかを判断出来るタイミングも多い。
ポピュラーなゲームではあるが余りにも運の要素が強すぎるが故に整備されてきた新規ルールってところだ。
「その様子だと、テキサス・ホールデムも知らんな?」
「飲み物の名前…じゃないよな」
やれやれ…というジェスチャーをするジョー。
テキサス・ホールデムとはブリッジやコントラクト・ブリッジなどと並んで世界で最もポピュラーなトランプカードゲームである。
要するに多人数で行うスタッド・ポーカーなのだが、「席順」に従って賭ける方法などが細かく整備されており、膨大なセオリーが存在する。
「単純にやろうと言ったろ?ゲーマーならともかく、ギャンブラーなんだから技術介入余地のある『ゲーム』なんぞやっても仕方があるまい」
「ならバカラでもやるか?」
バカラとは、親と子の場にめくられた2枚のカードの「一の位」がどちらが大きいか、或いは同点かを当てあうだけ…という極めて単純なゲームである。
プレイヤーは最初から最後まで一切カードに手を触れる必要が無く(めくってもよい)、勝手に場が進行していく。
世界中に似たようなゲームがあるが、単純さゆえの魅力なのか一代で築いた巨大企業グループを丸ごと失うほどの大金を掛けて遊ぶほどのめり込む人間すら出て来る悪魔の様なゲームである。
「いーや、もっと単純な方法だ」
「…一応世界中のゲームを研究はしたがね。日本独自のゲームかな?」
「日本のトランプカードである「ハナフダ」で行うゲームは何種類かあるが、オタクにいきなりやれったって無理だろ?カードも無いし」
「ここを何処だと思ってる?ラスベガスだぞ。ちょっと専門的な売店に行けば売ってる」
ひゅー、と口笛を吹くシン。




